魔王遁走曲 第2話 2人だけの共鳴音
遠い昔、どこかの世界で、とある二人の英雄がいた。
一人は己が信じる正義のために...一人は己を信じる仲間のために...。
そして彼らは、同じ未来を信じその身命を賭して戦った。
たとえ敵が、英雄であったとしても...。
彼らの運命は変わることはない...。
第2話 2人だけの共鳴音
「ふぅ~...。ようやく着いたぜ!俺たちの屯所!!」
診療所から猛ダッシュで走ってきた二人は、息を切らしながら屯所の扉を開けた。
「...あっ!二人ともようやく来た!も~...説明するの大変だったんだよ!それにこの隊の副隊長さん、すんごく怖かったんだから!!」
先についていたローズは二人に駆け寄り、心配そうな顔で言った。
「ありがとう。ローズさん。」
「おう!お前のおかげで、初日から説教コースは逃れられそうだぞ!!」
間に合ったことに喜んでいた二人に、気まずそうな顔をしながらローズは言った。
「そっ...それが...。」
「...?」
そんなローズを見て、二人は不思議そうな顔をした。
その時。
「コホン...。」
「うわぁ!だっ...誰だ⁉あんた⁉」
「全然気配を感じなかった...⁉」
二人の背後にメガネをかけた黒髪の女性が立っていた。
「あなた達がアルマ君とアルタ君ね?彼女から事情は詳しく聞いたわ。」
「だから...!あんた誰なんだよ!」
メガネの女性はアルタの発言を無視し、淡々と話し続けた。
「確かに真っ当な理由で遅れたようね...。急に倒れた人を助けたというのは称賛に値するわ。」
「では、俺たちの遅刻は大目に見てもらえる...そういうことですか?」
アルマは女性に聞いた。
「...いいえ。いかなる理由があろうとも、今回の遅刻は認められません。」
「なんでだよ!ローズから事情は聞いてるんだろ!なら...どうしてっ!」
アルタが女性に食って掛かった。が、女性は冷静に言った。
「ここは軍で、あなたたちは兵隊...。ここでは1分1秒すら無駄にできないときがあるの。士官学校では通用するでしょうけど、もう子供のお稽古では済まされないのよ?まず、あなたたちはそれを理解するべきだわ。」
「っ...!」
高圧的に説教されてしまったアルタは何も言い返せないでいた。
「まぁ...いいでしょう。今回のことは私からの厳重注意で終わりにします。以後、気を付けるように。」
「...はい。」
「...チッ!分かりましたよ!」
二人からの返事を聞くと、メガネの女性は3人に向かって言った。
「隊長が執務室でお待ちです。私が案内するので、しっかりとついてきてくださいね。」
そう言うと、4人は9番隊隊長が待つという執務室へと向かった。
「...ここが執務室になります。隊長の話を聞いてきてください。」
そう言うと、女性は執務室の扉をノックして入室した。
「失礼します。隊長。例の3人を連れてまいりました。」
執務室の一番奥の椅子に、本を頭にかぶせのんびり寝ている男が座っていた。
「んぁ...?おぉ、来たか...!」
隊長というには、あまりにもだらしない男を前にして3人は少し驚いた。
「ようこそ!俺の9番隊へ!!お前らは期待の新人だ!なんてったって、この俺が直々に9番隊に所属させるよう、上層部のじいさんどもに口利きしたんだ。今後の活躍、楽しみにしてるぜ...!」
急にいろいろと話され、唖然としている3人を差し置き、男は続けた。
「そういやぁ...自己紹介がまだだったな!俺はこの9番隊の隊長をやらしてもらってる、レビリム・クリㇺハルトだ!クリㇺさんって呼んでくれ!」
そう言い、キメポーズをとるクリㇺを前に、いまだ唖然とする3人であった。
その中、アルマは『どこかアルタに似ているな...』と心の中で思うのだった。
「そこにいるのは、うちの副隊長兼、俺の秘書...。お前ら自己紹介はすんだのか?」
そんなクリㇺの問いに対して、メガネの女性は我関せずといった顔をした。
「やっぱりな...⁉お前新人とは打ち解けろって昨日の夜言ったろ⁉...はぁ、俺から紹介しとくよ。彼女の名前は、リッカ・ゴルトベル。非常に仕事のできる副隊長殿さ...。」
3人はリッカのことを見つめたが、リッカは顔を少し赤らめながらそっぽを向いた。
「そんじゃあ、こんなところでの立ち話も、もういいだろ...?」
「どういうことっすか⁉」
『あなたは座ってるでしょ...』とローズは心の中でツッコんだ。
「お前らの実力は、入隊試験である程度分かった。けど、お前らはどうだ...?」
「確かに、俺はアルタや、ローズさんの実力を知らない...。ということは...⁉」
「ご明察。今からお前らに模擬戦をしてもらう。お互いの実力を知り、任務でお互いをカバーし合えるようにな!」
「うぉぉおおお!!ついに戦えるんだな!」
”戦える”。それが分かった瞬間にアルタは雄たけびをあげた。
「よし!そうと決まったら、さっそく戦おうぜ!...って、どこで戦うんだ?」
「模擬戦は練習場で行います。練習場へは引き続き私が案内するので、ついてきてください。」
「さて、俺も見物するとしましょうかね~♪」
そう言うと、4人は練習場へと向かった。
4人とは別に、練習場を上から見下ろすことのできる”お気に入り”の廊下へクリㇺは向かおうとしていた。
その時、前から二人の男がやってきた。
「ん...?お前らは...。」
日陰になっていてよく見えなかったが、気配で察したクリㇺは口を開いた。
「クラーク、フェンシオ。こんなとこで何してんだ...?今日は休暇を与えてやったはずだったけどな?」
一人の時間を邪魔されたようで、少し不機嫌になったクリㇺは少し茶化して言った。
「隊長こそ、『新人にはまず模擬戦をさせる!』って言ってたじゃないっスか。ここに来たってことは、またサボりっスか?リッカさんに怒られますよ?」
サボり癖のある隊長の身を案じて助言したのは、クラークだった。
「それが、今日はサボりじゃないんだよなぁ...。そうだ...!お前らも付き合え。」
「お言葉ですが、隊長。俺らもはなっからそのつもりですよ...。」
クリㇺの言葉を遮るように言ったのは、フェンシオだった。
「俺らも、新人の模擬戦をここから見ようと思ってたんですよ。ここなら、練習場を一望できますからね...。」
続けてクラークが口を開いた。
「隊長...。今年の新人は骨のある奴らなんでしょうね...?2年前みたいに数か月で全員辞めるなんてのは、もうこりごりっスよ?」
「今年は大丈夫だ。少なくとも今から模擬戦やるあの3人はな...。」
そうクリㇺが言い、外を指さすと、今まさにアルタとアルマの模擬戦が始まろうとしていた。
「さて...お手並み拝見といこうじゃないか...!」
「...。」
そう言い、ニヤリとクリㇺは笑った。
一方そのころ練習場では、アルタとアルマが準備運動やストレッチをしていた。
「なあ...アルマ...。お前ほんとに俺と同い年なのか?ちゃんと飯食ってるか心配だぜ?俺は...。」
肩を回しながらアルタはアルマに質問した。
「...ご心配どうも。親父と母さんのおかげで食べる物は苦労してないよ。それに、俺からすれば、アルタが大きすぎるだけだと思うんだけど...。」
「...?そうか...?」
そんなやり取りをしながら二人は定位置に着き、お互いに武器を構えた。
「それでは両者、準備はいいですね?」
「おうっ!」
「はい!」
「それでは...はじめっ!」
「オラァッ!!」
最初に仕掛けたのはアルタだった。
ガキィーーン...。
アルタはアルマに向かって大剣を片手で振り下ろしたが、アルマに軽くいなされてしまった。
「パワーだけで俺に勝とうと思ってたら、一生勝てないよ。アルタ...。」
「...へっ!それくらいできねえとな!安心したぜ⁉俺はよぉっ!!」
ガキィーン!キィーン...。ガッキィーーーン!!
何度いなされようとも、アルタは斬りつけた。
「どうよ...!いくらなんでも、体力が尽きちまえば俺の勝ちだ!!」
それを聞いたアルマは、不敵に笑って言った。
「その言葉...そっくりそのままお返しするよ!」
ガッキィーン...。
2度目のアルタの振り下ろし攻撃を、アルマはショートソードで簡単に打ち返してしまった。
「アルタが案外、体力がないのはなんとなくわかってた。俺は単にいなしてるだけだから、体力はさほど消費しない...。ただでさえ、そんなデカい剣を振り回してるんだから、スタミナ管理くらいしっかりしなきゃ...。士官学校卒も大したことないね...。」
「...くッ!!言うじゃねえか!なら今度のはどうだ!」
そう言うと、アルタは魔法を放つ体勢をとった。
「いくぜぇ...!アルマぁ!!」
『小規模の炎!』
アルタが声を荒らげたとたん、アルタの手のひらから魔法陣が展開し炎の玉が射出された。
ドゴォォオン!!
アルマに当たる直前で爆発した炎は、アルマの手前の地面をメラメラと燃やしていた。
「...そうやすやすと当たるわけはねえよなぁ...!?」
「もちろんさ!」
その後もアルタが攻撃を仕掛け、アルマがそれをいなすといった攻防戦が続いた。
「ハァ...ハァ...。クソッ!埒が明かねえ!」
いつまでも続く攻防戦に嫌気がさしたアルタはキレ気味に言った。
「ふぅ...。同感だよ、アルタの性格的にもまだまだ続きそうだしね!」
いまだ余力のあるアルマはからかうように答えた。
「調子いいじゃねえか!!こうなりゃこの手しかねえ!!」
「...?いったい何を?」
にやりと笑うアルタに警戒しながら、アルマは防御体勢をとった。
「今度こそ...。いくぜぇ...!アルマァァアア!!!」
自分に活を入れたアルタは地面を勢いよく蹴り、一瞬でアルマに近づいた。
「なッ...!?」
「纏われし光熱の炎...」
急に接近されたアルマは、動揺で一瞬踏み込みが甘くなってしまった。
『英雄の一撃!!』
ガキャアン!
アルタが放った飛ぶ斬撃はアルマを訓練場の壁まで吹っ飛ばすまで、残り続けた。
ドコーーーン...パラパラ...パラ...。
「どうだ!!俺の渾身の一撃ぃ!」
「...。」
返事は帰ってこず、アルタは勝利を確信した
「よっしゃぁっ!初戦は俺の勝ちぃ!!!」
そう言い放ち、ガッツポーズを決めたアルタだったが...。
「...そうでもないよ。」
「はぁ...?」
バゴッ!!
急にささやかれたと思ったアルタは、鈍い音が響いた瞬間、地面に倒れていた。
一部始終を目撃したローズは「あ~ぁ、もう...。」とため息をつき、手で頭を覆った。
『...は?なんだこれ急に目の前に地面が...?なんだこれ?立ち上がれねえぞ...!!』
そんなことを考えていたアルタだったが、次に見た景色は知らない天井と心配そうな顔で見つめる幼馴染と、頭に包帯を巻いた親友の顔だった。
「あっ!目覚ましたみたいよ!」
「手加減したからね...。だから言ったでしょ?気絶してるだけって...。」
そんなことを話している二人を尻目に、頭がこんがらがっているアルタは口を開いた。
「...あえ?俺...アルマと模擬戦やってて...それで俺が一発ぶっぱなして...。それで...。」
その先の記憶があいまいになってしまったアルタに、ローズが当時の状況を説明した。
「あのね...アルタ...。あんた、アルマ君を壁まで飛ばして勝った気でいたでしょ?」
「...?ああ!!そうだ!そうだよ!俺は勝ったんだよ!なのに気づいたらここに...。」
「自分は勝った。」そう騒いだアルタに、ローズはあきれた顔で答えた。
「やっぱり分かってなかったのね...。」
「何がだよ...?」
「あの時アルマ君は飛ばされた後も動いて、隠蔽魔法を使ったのよ。」
それを聞いたアルタは驚いた様子で言った。
「隠蔽魔法を使ってたら、俺だって分かるぞ!魔力探知はいつだってしてたからな!!」
「そう...そこなのよ。」
「...?」
いまだ理解できず。という顔をしたアルタだったが、ローズはお構いなしに続けた。
「私たちは粉塵とかで相手が見えないときは魔力探知や気配探知の魔法を用いて相手の状況を把握するでしょう?」
「おう...。」
「アルマ君はその裏を突いたのよ。探知に集中させることで、通常目視で確認できるギリギリの速度であなたに近づいて、そのまま蹴りを喰らわせたのよ...。」
最後に深くため息をついたローズを見ながら、アルタはきょとんとした顔で言った。
「...ってことは、俺が...負けたってことか!?」
「そういうことよ...。」
「クソォォオオオッッ!!!俺の連勝記録が!また途切れちまったぁっ!!!」
病室でいきり立ったアルタにアルマとローズは苦笑いした。
「まぁ、これで士官学校卒の程度も分かったことだし、任務の時は実力を合わせやすくなったかな?」
「んだよ...。」
「...俺も、こんだけの怪我したのは父さんとの稽古で派手にやられたとき以来だし...パートナーとしては丁度いいんじゃないかな?」
微笑みながら答えるアルマを見て、アルタも応えた。
「へへっ!当たり前よ!!」
罵り合いながらも、絆を深めた二人だった。
ガラガラ!
3人が談笑していると、医務室のドアが開いた。
「さぁて、仲良く談笑してるとこ申し訳ないが...ちょっといいかな?」
会話を遮ったのは、隊長のクリㇺハルトだった。
「隊長...?どうかしたんすか?」
「いやぁ、全部見させてもらったけど、二人とも派手にやったね。」
クリㇺはアルタとアルマの肩に手を置きほくそ笑んだ。
「...?俺らはもう大丈夫ですよ。俺もアルタも会話できるくらいには回復してますしね。」
「そうっすよ!もうピンッピンで...。」
そう答える二人を遮るようにクリㇺは言った。
「それなら、お前らが壊した壁...直してくれるな...?」
静かな圧を感じたアルマとアルタは、しぶしぶ承諾することにした。
「それじゃ、よろしくね~♪...。」
クリㇺが鼻歌を歌いながら医務室を後にすると、ローズが口を開いた。
「私、あの隊長さんちょっと苦手なのよね...なんかのんきっていうか、テキトーというか...。」
「そうか...?俺はなんとなく気が合いそうな気がすんけどな!」
「はは...確かにね!」
その後も3人の談笑は続いた...。
次回!魔王遁走曲
第3話 兵士たちの練習曲
アルマ 「次でさっそく任務だってさ」
アルタ 「よっしゃ!燃えてきたぜ!!」
クリㇺハルト 「その前に、練習場の壁直しとけよ?それがお前らの初任務だ」
アルマ&アルタ 「はい...。」
魔王遁走曲 第2話 おわり
クリㇺさんは短髪シルバーの赤い瞳が特徴的だよ。
リッカさんは黒髪メガネの美しい女性(26)だよ。
”ゴルドベル”という名前のゴツさに若干コンプレックスを持ってるよ。