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果たして僕はお姉ちゃんの暴走を止められるのか?!

両親が死んだ。


結婚記念日の旅行中、観光バスの整備不良が原因で事故が起きて、死んだ。


平凡な県立高校に通う、平凡な学生である僕は、一瞬で悲劇の主人公となってしまった。


親類縁者もなく、僕は広い家にひとり、毎日ぼんやりと過ごしていた。


両親の遺産が多くあり、多額の保険金も下り、バス会社からの和解金も出て、家には数億円相当のお金がある。


実際には、後見人をしている弁護士の人に管理されているのだけれど、普通の同年代の少年にしては過ぎた金額を自由にできた。


だからなんだってんだ。


両親はもういない。


この現実は僕には重すぎた。


よくドラマだの映画だので両親を亡くして泣き叫ぶ場面があるが、現実にはあまりにも圧倒的な虚無感で悲しみの余地なんてなかった。


実は夢だったんじゃないかと何度も夢想したが、もちろんそんなはずはなかった。


現実感がなさすぎて、涙も出ない。


我が家はそれなりの資産家だったので、僕に残された我が家は、ひどく空疎な寂しい空間だらけの建物と化し、家庭的な雰囲気など望むべくもなかった。


今日も学校から帰ると、元は一家団欒の場所だった居間に座り込み、ぼんやりの過去の情景を思い返していた。


そこへ……。


部屋の中心に突如、光が閃いた。


突然のことに目をパチクリさせていると、光は強くなり、一メートルほどの光球になったかと思うと、それはどんどん大きさを増した。


あまりの眩しさに腕を上げて目を庇う。そうしている間にも光はどんどん強くなった。


その光の中から、影が現れた。


その影はあっという間に人の形を成し、居間のテーブルの上へと降り立った。と同時に光は消え、元の電灯が照らし出す室内に戻った。


しかし人影は消えなかった。


光の強さで目がチカチカしている僕は、目をこすりこすりその人影をよくよく見た。


長い髪の女の人だった。間違いなく女の人だった。なぜならそのひとは全裸だったからだ。


「えええええ?」


ようやく視力が回復した僕は、つい間抜けた声を上げた。


なぜ。どうして。全裸の女性がここに現れたんだ?


腰まで伸びたロングヘアは見事な真紅だった。その肢体は完璧と表現したいほど均整が取れている。いや、美しいと表現した方が適切かも。


その女性はこちらを向いて、これまた真紅の瞳で僕を凝視した。その顔立ちも彫刻のように端正で、肌の色はシルクのように白い。


「あ、あの……」


その人が口を開いた。


「JHGFRDJHIKJOLL」


「は?」


英語だろうか。いや、たぶん違う。少なくとも英語以外の言語らしいが、僕の知識では判別できない。


「RUHGGFD」


「え、えと、えと」


当然ながら僕は日本語しか話せない。それにしても外国映画やなんかで耳にしたことがあるどの言語にも似ていない気がする。


登場の仕方からして、もしかしたら宇宙人だったりするのだろうか?


女性がこちらを向いた。そして、困惑して立ち尽くしている僕に向かってツカツカと歩いてきた。


「な、なんですか」


「UHN」


やはりまるで理解できない言語で彼女がそう言うと、僕の頭を両手で掴んだ。


もしやこれがキャトルミューティレーションとかいうヤツか?!


真正面から見た彼女の顔はやはり美しかった。月並みな表現ながら美人としか表せない。その両目がそっと閉じられた。そして僕の顔にゆっくり接近してくる。


まるでキスされるかのよう。


「あ、あの……」


しどろもどろになった僕の額と、彼女の額が接触した。まるで母親が子供の熱を測るかのように。


次の瞬間、脳裏に閃光が走った。痛みはなかったが、そのショックに驚いて思わず後ずさると、彼女の両手は僕を開放していた。


そのままみっともなくソファの上に座り込んでしまった。それでも彼女から視線を外せないまま、その美貌見つめていると、その唇がニヤリと笑った。


「どうだ。これで言葉が通じるだろう?」


「え? あれ? 日本語ができるんですか?」


「さっき、おでことおでこをくっつけただろう? その時、貴様の記憶を私の脳髄にコピペさせてもらった」


「記憶をコピペ?!」


反射的に自分の額に手を当てた。


「おかげで少しはこの世界のことが知れたぞ。しかし奇妙な世界だな」


「この世界……って別世界から来たみたいなこといってますけど……」


「お主の記憶には説明しやすい概念や単語が多いな。説明が楽になる」


「説明してくれますか」


「もちろん」女性は意味深な笑みを浮かべた。


「ええと、あなたは誰ですか? どこから来たんですか?」


「私は魔王だ」


「魔王って……あの魔王?」


「そうだ。お主のイメージほぼそのままが正解だ」


「ゲームのラスボスとかの?」


「そうそう。我はこことは別の世界、つまり異世界で魔王をやっていた存在だ」


「異世界転生してきちゃったんですか?!」


「正確には、勇者どもに強制的に転生させられたのだがな。私が強すぎたため、異世界に追放されてしまったのだ」


「あ、もしかしてさっきのおでこのは……」


「魔法だ」


「やっぱり。ということはすごい魔法とか使えるんですか?」


「それはもうたっぷりとな。ここの都市を壊滅させるくらいは朝飯前というやつだ。別にするつもりはないがな。なにぜ私はこれからここの都市で暮らさざるを得ない状況だからな」


「魔法で元の世界に戻らないんですか?」


「転移の魔法は禁忌中の禁忌でな。まさか勇者一行が手を出すとは思わなんだ。さすがの私も手を出さなかったくらいにヤバい魔法なんでな。というわけで転移の魔法は使えん」


「なんで禁忌だったんですか?」


「んー、お主の言葉でいうなら、ゲームバランスが壊れる、という感じかな」


「あー、確かにそれはヤバいですね」


「私の魔力はこの世界ではチートもいいところだろうしな」


「なるほど。それはそうですよね」


確かにさっきの魔法ひとつでも、世界中の諜報機関が目の色を変えて奪い合いそうだ。


「しかし……お主の胆力もなかなかのものだな。異世界の魔王に対峙して平然としておるとはな」


「いや、単に現実感がついていってないだけっていうか……夢オチじゃないですよね」


「夢ではない。残念ながら夢ではない。現実に私は元の世界から追放されたのだ」


魔王は長嘆息をした。さすがに元の世界に思い入れもあるのだろう。その全てから無理やり切り離されてしまったのだ。普通なら絶望して自殺しても不思議ではない。異世界転生ものではあっさりと異世界で生きていくことを受け入れているが、現実的に考えると言葉も常識も通じない異世界は、相当ストレスフルな環境のはずである。外国にひとりでいっただけでノイローゼになってしまう人間もいるくらいだ。夏目漱石なんかはロンドン留学のときにストレスのあまり精神を病んでしまったくらいだ。いかに強大無比な魔王であっても、一人ぼっちで異世界に放り出されたのだ。ショッキングなことであるのは一般人と大差ないのだろう。


「あの……元気出してください」


我ながら空々しい励ましの言葉に、魔王は答えた。


「まずは……」


「まず?」


「服を貸してくれないか?」

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