表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/11

Ⅸ 後悔

流血表現、自殺描写があります。苦手な方は読むのをお控えください。

「は、嘘…?」

 信じられなかった。そこには陽葵がいたはずなんだ。なんでいないのかが全くわからない。けれど身体のどこかで陽葵のいる場所が分かっていたのか、急いでフェンスに駆け寄った。

 下からの無数の悲鳴が私の鼓膜を突き刺し、恐怖で体がこわばりフェンスにしがみついてしゃがみ込んでしまった。

 どう、してこんなことになったの?

「な…んで?はる、き嫌だ、ごめんなさい待って嫌だ。はる、き…!」

 さっきまで陽葵を自分から拒絶するようなことを言ったくせに、なに言ってるんだとは思っている。自分勝手だ。

 そっとフェンスの向こうを覗いてみた。

 学校の花壇に倒れている女子生徒の姿があった。

 胸が、心臓のあるあたりが激しく痛んだ。息ができなかった。まるで失恋した時のような…?

 …?私は陽葵のことが好きだけど、友達としてだ。恋愛的な意味はないはず。けれどずきずきと痛み続けるこの胸は、過去に失恋をしてしまったときに酷似している。けれど今はそんな感情に戸惑っている場合ではない。分かっていても現実逃避をしたくて考えずにはいられなかった。しばらく自分自身の感情に戸惑っていたが、救急車のサイレンの音が遠くから聞こえて思考が現実に引き戻された。

「そうだ、陽葵…!」

 私は震える足を必死に動かし、階段を駆け下り、何度か転びそうになりながら昇降口から飛び出した。ちょうど陽葵が担架で運ばれているところだった。彼女の所々青く染められていた髪が赤く染まっているのを見てゾッとした。

「陽葵!待って!待ってください!」

 担架を押す救急隊員らしき人に駆け寄りながら声をかけたが、近くにいた沢口に肩を捕まれ止められた。

「離して!離してください!陽葵…!」

 必死になってもがいたが、大人の男の人の力に敵うわけがなかった。無情にも救急車は走り出し、沢口の掴んでくる力が弱まった。何もできなかったどころか、私は迷惑をかけたということが悔しくて、その場に座り込んでしまった。周りにいた先生たちが私のそばに駆け寄って何かを言ってきたが、何て言っているのかは全く聞き取れなかった。

 私の胸はまだずきずきと、じくじくと痛んでいた。


 結局その後は先生に保健室に連れていかれ、三里先生になにかを言われて、車に乗せさせてもらって、家に帰った気がする。ほとんど上の空で何も覚えていない。けれど一つ確実に覚えていることがあるとすれば、陽葵が屋上から飛び降りたことだ。

 今でも思い出したらゾッとする。恐怖で体がこわばる。けれど、一番怖かったのは、辛かったのは陽葵だ。そんなふうなことをさせたのは私だ。

 私が陽葵を殺_

「違う!!」

 陽葵は死んでなんかない!!だから私は殺してない!陽葵のことをひどく傷つけてしまいはしたけれど、殺してなんかない…!

 でも、もし、本当に陽葵が…。

 なみだが頬を流れてはぼたぼたと落ちていった。淡い色のシーツに濃い染みを作っていく。

 もしかしたらという現実が怖くて、布団をかぶった。少しでも現実から逃げることができる気がした。そこで、ふと先程抱いた胸の痛みを思い出した。…あれは何だったんだろう。思い出しただけなのだけれど、胸がまたチリっと痛んだ。

 もしも、本当にもしもの話で、陽葵が死んでしまったら…私はきっと耐えられない。

 なんで?

 陽葵は大切なしんゆ…う?あれ、なんでだろう。何かが違う気がする。私は今までずっと陽葵のことを幼馴染と、親友としか思っていなかった…はずだ。けれどこれは友人に抱く感情ではないことぐらい私も分かっている。陽葵にあんなことを思ってしまった手前、この感情に名前をつけてしまうのがひどく怖かった。そんなことを思えば思うほど、胸はズキズキと痛むばかりだった。でも、この感情の名前を知っている。涙がぽたぽたと頬を伝っては顎から落ちていった。けれど、これだけは口にしてはいけない。絶対に。私にはそんな権利なんてない。

「最低だ…私は」

 何も言ってはいけないと、私は唇を固く引き結んだ。そんなことをしている間にも、頭の中で私ではないもう一人が停止させたはずの思考を加速させた。

 そっか、私は今まで友達としての好きと恋愛の好きの区別が付いていなかっただけなんだな。じゃあ、私が今まで感じてきたのはただの勘違いだったのか。今まで陽葵に感じていたものは…。それなら、私は今まで陽葵のことが_

「好き…」

 ダメだった。胸にある溢れんばかりの気持ちが、引き結んだはずの唇から僅かに漏れた。慌てて私は口を押えたが一度言ったことは誰かに聞こえたわけでなくても取り消せない。私のこぼれた呟きから思考は止まることを忘れてしまった。罪悪感と絶望と、気づけたことの喜びと_。いろんなことで頭がごちゃごちゃになってしまった。けれど、それでも、頭の中にいるのは陽葵ばかりだった。私が気づいたこの思いは今更すぎる。陽葵はあんなに傷ついた手前、こんなことを言われても喜ぶわけがない。

 そんな事を考えている間に外はあっという間に暗くなっていた。ぼんやりと窓の外を見上げ、月が綺麗だと思った。

 月の光に照らされて、何に対してかはわからないが勇気が湧いた。明日、陽葵に会いに行こう。三里先生が陽葵が運ばれた病院を言っていた。そこに行ってみよう。

変わらず投稿は不定期になってしまいますが、少しでも続きを楽しみにしていただけると嬉しいです。気軽にいいねやブクマ、感想などを送っていただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ