Ⅴ 悩みの導因
部活が終わり、制服に着替えて下駄箱に向かうと先程と同じような仕草で立つ佐神くんがいた。私はそんな彼の前を素通りしようとしたが、ガシッと腕を掴まれた。
「え、ちょっ、まって。どこ行くつもりなの!?」
当たり前のように私と佐神くんが約束をしていたようなことになっていたことに驚きつつ、あえて面倒くさいと言った顔を作りながら振り返った。
「どこにって帰るつもりなんだけど…。だいたい、別になんの約束もしてなかったじゃない。帰ろうが佐神くんのとこに行こうが私の勝手でしょ?」
私がまくし立てると、バツが悪そうに顔を歪めた。きっと正論だから何も言えなかったのだろう。だが、彼の話の内容が陽葵に関わることだということを思い出した。なら話は別だと思ったが、今日はもう帰りたい。ということで、そんな私の提案で佐神くんと連絡先の交換をすることにした。何故か明日も今日のように話すという約束を持ちかけられたが、陽葵のためだからしょうがない。半分投げやりな気持ちで了承した。
次の日の朝、最近は陽葵の電話がなくてもよく眠ることができるようになった。お母さんに挨拶し朝食を食べ、家を出ると陽葵の後ろ姿を見つけた。
「陽葵、おはよ」
後ろから話しかけたからか陽葵はわずかに方を跳ねさせた。
「…っ。さ、小菜」
驚いたように息を呑み、慌てたように振り返る陽葵の姿に、
「っ…!?」
私は陽葵と同じように息を呑んで驚いた。彼女の目は僅かに赤みがかっていて、潤んでいるように見えた。心做しか、わずかに彼女の声は震えているようにも聞こえた。
陽葵にその状況がどうしたのか聞くのは悪手な気がして、聞くことができなかった。私にできたことは、ただ、
「一緒に、学校行こう?」
静かにそう聞くしかなかった。陽葵もただ静かに、けれどわずかに安堵したように頷いた。
下駄箱についても尚、陽葵は一言も喋ることはなかった。教室について、
「じゃあ、また」
やっと一言だけ話してくれた。
昨日佐神くんが心配していた以上にやばい状態なのが容易に理解することができた。机で伏せていると佐神くんに起こされそのまま屋上へ拉致された。
「やばいな」
「うん、やばいね」
ふたりともフェンスに背を預け、第一声がそれだった。何がやばいのかは聞く必要もないだろう。互いに顔を見合わせ、同時にため息をついた。
「昨日小菜が言ってた、心当たりって?」
さり気なく私の呼び方が変わっていたが、どうでもいい気もしてそのことには触れず話を続けた。
「あ〜、うん。あのね、先週の土曜日なんだけど、陽葵の家に泊まったんだよね」
私はきっとこれだろうという心当たりを少しずつ話し始めた。
***
「いきなりでしたのに、すみません。ありがとうございました」
お昼になる前に陽葵の家から帰ることにしたので、陽葵のお母さんに挨拶といきなりだけど歓迎してくれたお礼をした。陽葵と陽葵のお母さんは私が玄関のドアを閉めるまで手を振ってくれた。
_ガチャン
よし、帰るか。そう思っていた。
『……………はぁ。陽葵。あなた、どういうつもり?小菜ちゃんとはもう関わらないって言ったじゃない。ママに嘘ついてたの?ええ、そうね』
くぐもった、そして怒気を含んだ声が私の耳に聞こえた。その内容が理解できなくて思わず足を止めた。
『ち、ちがっ…。小菜は体調が悪いって…言ってた、か…ら』
段々と尻すぼみになる陽葵の言葉に何故か胸がきゅっ、と締め付けられた。
『たとえそんな言い訳があっても、違うことはないでしょう?もう一度言うわ。これから、小菜ちゃんと関わるのはやめなさい』
『…っ。で、でもっ!』
『でも、じゃないわ。それともママの言うことに逆らうの?』
昔から陽葵にそんな事を言って自分の思い通りに動かしていた、あの人が私は大嫌いだった。今陽葵がどんな顔をしているのかはわからないけど、陽葵のもとに駆け寄りたくなった。
しかし、陽葵の一言で、私は家に帰らざるを得なくなった。
『…わかり、ました』
***
その夜にかかってきた電話口の声はいつもと何ら変わりなかったから、それらのことをすっかり忘れていた。全て話し終えると佐神くんは信じられないと言った様子で、口を開いていた。
「多分、陽葵が朝泣いていたのも今言ったのが原因だと思う」
彼は最初こそなにか言おうと口をパクパクさせていたけれど、気まずそうに口を噤んだ。そしてチャイムが鳴り始めた。
「…陽葵が、あれだけ落ち込んでいるのは、それだけの理由じゃないと思う気がするけどな」
やっと口を開いたと思ったら、何やら意味深なことを言ってさっさと先に一人で教室へ戻ってしまった。残された私は彼の言ったことを考えようとしたが本鈴がなり始めたため、急いで教室へ駆け戻った。
変わらず投稿は不定期になってしまいますが、少しでも続きを楽しみにしていただけると嬉しいです。気軽にいいねや★評価、コメントしていただけたら幸いです。