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Ⅺ ありふれた言葉の末に

 陽葵の怪我の程度はそこまでひどいものではなく、退院した後も特に日常生活に支障はなかった。退院して一週間ほどは自宅で休んでいたようだけれど、その間に陽葵の家庭事情は大きく変化していた。

まず、海外出張で家を空けていた陽葵のお父さんが帰ってきたそうだ。そして事情を聞いたお父さんは、陽葵を人間として否定した陽葵のお母さんに激怒したそうだ。そしてそのまま、一度お母さんを家から追い出し、離婚の手続きを進めているとかなんとか…。

 色々あったけれど、今は陽葵が幸せに感じているならなんでもいいような気がして、深く考えるのはやめているのだけれど。


 久しぶりに陽葵と一緒に登校していると、佐神くんがこちらに手を振りながらすごい勢いで走ってきた。

「はるぎぃ〜!!よがっだー!!!」

 佐神くんは泣きながら陽葵に抱きつこうとしていた。だが、陽葵はとても軽やかな動作で身を横に引いて躱すと、佐神くんはコンクリの地面に顔面から突っ込んでいった。

「……えっ!?大丈夫!?」

 最初こそ、何やってんだ佐神くん、面白いな〜。くらいに思っていたのだが、顔面から突っ込んでいったのにはさすがに驚いた。

 けれど陽葵は気にした素振りも見せず、そのまま横を通っていこうとしていて、さすがに止めた。

ちょっとは心配してあげようよ。という意味も込めて視線を向けると、仕方なさそうに肩をすくめた。

 軽くかがんで、倒れたままの佐神くんに手を差し出した。佐神くんは嬉しそうに手を取り立ち上がったが、陽葵はすぐさま手を振り払っていて、ちょっと面白かった。

 なんだかんだで一緒に登校して、久しぶりに三人で入った教室は、いつもと同じ空気な気がして、なんだか落ち着いた。

「小菜。ちょっと屋上…。は流石に入れないか。じゃあちょっとついてきてくれない?」

 カバンに入った教科書類を机にしまっていると、早速と言わんばかりに声をかけられた。断る理由もないし、陽葵のお願いだ。断るわけにはいかないだろう。

「はーい、ちょっとまってね。…はい、いいよ!どこ行くの?」

 嬉しそうに笑う陽葵に手首を掴まれ、もう人けの少ない下駄箱に連れて行かれた。

 私の手を放して、数歩離れた場所に立った陽葵は、少し恥ずかしそうに唇をかみながら振り返った。

「小菜!」

「は、は…ぃ!?」

 いきなり名前を呼ばれて、驚いて変な声が出てしまった。

「好きです」

「は、はい!…はい?」

 突然の告白に思わず返事をしたが、すぐに疑問をいだいて聞き返してしまった。

 ただ、一つ言えることがあるとすれば、あのときとは違い、戸惑いよりも嬉しさが勝っているということだ。

「ほら、あのときは僕はまともな考えができてなかったし、病院じゃ、あのあとちょっと話したらすぐに帰っちゃったでしょ?」

「う、うん」

 未だ動揺は収まらず、間抜けにもただ返事をすることしかできない。

「だから、ちゃんと伝えて、答えてもらおうと思って」

 私はただ目の前にいる彼女を見つめて、口を間抜けにぽかんと開くことしかできていなかった。

「小菜さん、改めて言わせてください。僕はあなたのことが好きです。もし、小菜が世間からどう思われるかとかを気にせず、僕と一緒にいてくれるというのであれば…。僕と…、僕と、付き合ってくれませんか?」

 震えた声で、真剣な面持ちで私の目を見据えてくる陽葵に、心臓が変な音を立てた。顔に熱が集まっていき、同時に言い表せぬ幸せが胸の中を満たした。

 静かに伸ばされた腕の先の、私と同じくらいの大きさの手のひらを見つめた。

 私の中に迷いなんてなかった。けれど、幸せに満ちた心のなかに、少しだけ、ほんの少しだけ不安が残っている。今まで16年間変わり続けなかった関係が変わってしまうのが、なんだか怖かった。あの日、陽葵を傷つけてしまったからこそ、この手を取るのが怖かった。

 でも、それ以上に私は、この関係を変えてみたいと思った。この手を取りたいと思った。

 伸ばされたままの手におもむろに近づいてみる。陽葵が少し目を開いて、ほんの少し口角を緩めていた。

 指先に少し触れ、私は陽葵の指に自分の指を絡ませた。

「陽葵は…いいの?」

 思わず出た言葉に陽葵は不思議そうに首を傾げた。

「あの日、私は陽葵のことを、あの人(陽葵のお母さん)みたいに傷つけて否定しちゃったのに?いいの?」

 少し怖くて、制服のスカートをきゅっと握った。私は手を握ったまま、軽くうつむいて、スカートにできた深いしわを目でなぞった。

 ほんの少しの間を開けて、握っていた手が一度解かれつなぎ直された。そして繋いでいない側の手も軽く握られた。それに伴い私は顔をあげると、優しく微笑む陽葵の顔が目に入った。

「気に病み過ぎだよ、小菜。僕はそうなっちゃうのはしょうがないって言ったでしょ?どうでもいいことなんだよ、もう。一番は小菜がどうしたいのか、だよ。一回僕のことは置いといてさ、ね?」

 いつもと変わらぬ陽葵の優しさが今は痛いくらい身にしみて、鼻の奥がツンとした。

 小菜はどうしたい?と優しい選択肢を用意してくれる陽葵を私は好きになったんだ。

 恋愛の意味として。

 それをちゃんと理解しているからこそ、私は…。私は、陽葵と…

「恋人になりたい…です」

 そっと唇の隙間から逃げ出した言葉を風が拾い、きっと陽葵の耳に届けてしまったかもしれない。

 きっと届いてしまったのだろう。陽葵は嬉しそうに微笑んでくれていた。

 ぐっと、繋がれたままの手を引かれた。そのままバランスを崩し、陽葵の胸に倒れ込む形になってしまった。

 優しく手を離され、その手が私の背中に回された。その腕に優しく力が込められるのと一緒に私の顔に熱が集まっていくのが分かり、更に恥ずかしくなった。

「ねぇ、小菜。僕の方こそいいのって思ってたんだ。だから…。ちょっとまって!どうしよう!僕今めっちゃ恥ずかしいんだけど!!」

 余裕がありそうな態度で話をつづけていた彼女に、少しずるいと感じていたが、どうやら私だけじゃなかったようで安心した。

「えっと、これから…よろしくおねがいします…?」

 最後に疑問符がついてしまったが、陽葵が更に強く私を抱きしめてきた。

「僕も、よろしくおねがいします」

 色々な事があったけれど、私達の関係は恋人に変わることができた。予鈴のチャイムと、遠くから聞こえる生徒のざわめきが私達をこころなしか祝ってくれているような気がした。




「陽葵!」

 私は、陽葵と付き合った日にちゃんと、伝えられなかったから。この世界で一番大好きな恋人に、この世界にありふれた言葉から、選んだ末に、私はちゃんと伝えるんだ、


 愛していると。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

僕の作品で初めて完結することができたことが嬉しくて達成感がすごいです。また、この小説は書いている途中での設定変更が多くて、少し最初と辻褄が合わなくなってしまったりしてしまったかもしれませんがそこはご了承ください。例を上げると陽葵の恋は実らず、あのまま…。という設定だったり、小菜は誰ともくっつかなかったり…。などなど、たくさん出てきます(苦笑)

一番わかりやすいのはタイトルですね。

「ユウガオが咲く頃、アサガオを摘み取る」は花言葉を使っていると、投稿したばかりのときに言ったんですけど…

ユウガオの花言葉:はかない恋

アサガオの花言葉:愛情、あなたに絡みつく

「ユウガオが咲く頃」ではかない恋になるという意味。「アサガオを摘み取る」で愛情(花)を摘み取り、残った気持ち(つる)が絡みつくという意味で、陽葵の小菜への愛情(恋心)は実らず、飛び降りた理由は小菜にあると思うため、後悔で苦しむ…。といった意味をこめていました。

本編では、一度苦しむシーンはありましたが、みんな幸せになれたと思います。

最後にこんなあとがきでいいのかな?とも思っていますが、最後まで読んでいただきありがとうございます!

次は「青色の私は灰色の君を好きになる」を完結するために奮闘します!まだ読んでいないという方は、最初の一行だけでも読んでいただけたら幸いです。

これからも執筆活動頑張ってまいりますので、よろしくお願いします!

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