Ⅹ ごめんね
次話でラストです
「……、__のせいだ。ふざけ_な!」
「っ!?」
誰かに怒鳴られ慌ててベッドから起き上がった。
「夢か…」
やけにリアルで鳥肌が立っていることに気が付いた。寝た気にはならなかったけれど、いつものように頭のだるさや重さがなくて少し安心した。
今日は陽葵に会いに...謝りに行く。私はスマホで陽葵の入院しているらしい病院の面会時間を調べ、それに合わせて家を出ることにした。
早めに朝食を済ませ、着替えをしていつでも出かけられるようにした。本当は今日も学校があるがさぼろうと思っている。運がいいことに今日母さんは朝早くから出かけていて、父さんはもともと長期出張のため、自宅には私一人だ。さぼるには都合がいい。
電車に少し揺られ病院に近づいたころ、私の心臓は今までにないほどバクバクと音を立て緊張を訴えていた。じんわりと湿りだす手をにぎり、病院の受付に入っていった。
「す、すみません。東間陽葵さんの友人なんですが、面会ってできますか」
「東間さんですね…。少々お待ちください。…はい、できますよ」
受付の人は親切な人で丁寧に病室の場所を教えてもらえた。
…よかった。会えないとか言われたらどうしようかと思ったけど、受付の人の様子だとそこまでケガがひどいわけでもなさそうだ。
安堵でわずかに浮上した気持ちは陽葵のいる病室が近づくにつれ、どんどん重くなっていった。扉の前に立ち、ネームプレートに陽葵の名前があることを確認して大きく深呼吸をした。
陽葵が起きていて会話ができたら昨日のことを謝るんだ。ごめんなさいって。今更過ぎることだけれど、言わないよりはましだ。ノックをしようと手を挙げた時、
『僕が飛び降りたのは、こんなふうになったのは、小菜のせいだ。ふざけんな!』
朝の夢のことを思い出した。
思わずあげた手が止まった。陽葵なら許してくれるって本当にそうなの?実際は私がそう思い込んでいるだけじゃない?
「違う」
そうだ。こんなふうに考えるのは違う。陽葵のほうがもっと、ずっと怖かったはずだ。それに許してもらえるなんて最初から思ってない。だから…。
__コンコンッ
ややためらいがちになった音がドアから響いた。中から返事はないけれど静かにドアを開け部屋の中に入った。
「陽葵?」
部屋の中は無機質な白で染められていて、どことなく不安な気持ちになったが、ベッドの上で死ぬように目を瞑って寝ている陽葵を見つけ起こさないように近づいた。体にところどころまかれている包帯が痛々しい…。それが私のせいだと思うと、胸が締め付けられた。
そっとベッドの横に置かれていた椅子に腰かけ、綺麗な寝顔を見つめた。
陽葵の瞼がわずかに震えた。
「はるっ…!?」
ゆっくりと目が開いていた。ぱちぱちと数度瞬きをしたあと、目だけで私の方を見た。目が合った瞬間、その目が大きく開いて口をパクパクさせた。
「さ…な?」
私の名前を小さくつぶやくと、痛みを我慢するように顔をしかめた。
「急に来てごめんね。あと、私が今から言う事に反応しなくていいからね」
陽葵はまだ驚いたように目を見開いていたが、頷くようにゆっくり瞬きをした。
「昨日は、ごめんね。謝って済むことなんかじゃないってわかってるんだけど、とにかく謝らさせてほしい。本当にごめんなさい。でね、私陽葵が、屋上から…。いや、えっと、あの後ね、私、ね」
陽葵は不思議そうに瞬きを繰り返した。けれど、なんだか陽葵の顔を見ることが怖くて目元を見てすぐに目をそらした。
「私もね、陽葵のこと、が。好きだって気が付いたの、恋愛の意味で」
「え……?!」
陽葵は信じられないといった様に目を見開いた。
やっぱり、都合の良すぎることだよな。きっと、なんで今更。とかって思われてる。でも、ちゃんと最後まで言わないと。怖くても。
「あんなこと、して、陽葵を傷つけたのに、こんなこと言うのはおかしいのはわかってるんだけど、ね。でも…、あれ?何て言ったらいいのかわかんなくなっちゃった」
ははっ、と自分でも情けなくなるほどかすれた、小さな自嘲を含んだ笑い声が涙とともに病室に落ちた。少し黄ばんだ床に小さな水溜りができて、私はそれを見つめることしかできなくなった。
「さ、な。いま、の本当?」
しばらくの沈黙の後、かすれた小さな声が私の鼓膜を震わせた。慌てて顔をあげると、陽葵の顔がこちらをまっすぐ見つめていた。その目が私を責めてきているものに見えて、思わず顔を反らした。
「ね、え」
何も言わなくなった私にじれったくなったのか、かすれたなにかに縋るような陽葵の声が聞こえた。私は何も言えなかった。
「なにか、言ってよ。無視、ひど、いよ」
責められるように言葉をかけられるように感じて私は、そばにあった丸椅子に座り込んだ。
「なんで、今、更?そんなの、」
「嫌に決まってるよね」
確実に私が悪いのに、陽葵の言葉の続きを聞くのが怖くて尖った声で遮った。陽葵の言葉をちゃんと聞かなければいけないのはわかっているけれど、自分の気持ちをうまく言葉にできないのが悔しくて、手の甲に爪を立ててひっかいた。
「そん、なこと、ないよ。嬉し、い」
言葉をとぎらせながら紡がれた言葉は、恐怖で固まっていた私の心を優しくほぐしてくれた。でも、それでも陽葵がその場しのぎで言っているかもしれないという不安がぬぐえずに、また涙がこぼれた。
顔を恐る恐るあげると、綺麗な大きな瞳から流れる一筋の涙の痕が目に入った。その次に優しく口角を上げてこちらを見つめる陽葵の顔が見えた。
「小菜、聴いて?僕ね、あの日の前日に母さんに、あんなこと言われて。辛くて、苦しくて、焦っちゃって小菜に、あんなこと言ったの。ホントは迷惑なのはわかってたんだけど、もう、そういうのもどうでもよくなっちゃうくらい、切羽詰まってたの」
そう話す陽葵の顔は、とても晴れやかで話している内容とあまり釣り合ってはいなかった。
「でね、小菜にあんな顔されたときに間違ってるって気が付いたの。でもねあの時の僕は狂ってた。小菜は驚いてただけなのに、否定されたって勘違いして飛び降りた。……ごめんね」
私って、こんなに泣き虫だったっけ?わからないけど、涙が止まらなかった。たった四文字の言葉なのに、陽葵が言う必要ない言葉なのに、なぜか嬉しかった。
「なんで謝るの?全部私が悪いのに、ごめんで済むわけないけど、私こそごめんね。」
何が面白いかわからなかったが、陽葵が笑い始めた。私もつられて笑い声をあげて笑い始めた。ところどころ沈黙が病室に広がったりしたが、笑い声がそれ以上にこの空間を満たしていた。
「陽葵があのまま…ってことがなくてよかった」
「なんで?」
「なんで?ってあたりまえじゃん。今もこうやって笑いあえてるからに決まってるじゃん」
「へへっ」
本当に今の時間があってよかった。
変わらず投稿は不定期になってしまいますが、少しでも続きを楽しみにしていただけると嬉しいです。気軽にいいねやブクマ、感想などを送っていただけたら幸いです。




