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Ⅰ 幼馴染

「ごめん…ね。――。好きになって。」

 聞き慣れているはずの幼馴染の声が、異国の言葉のように理解できなかった。

小菜(さな)、今日は部活ないの?珍しいね。」

 ブレザーに袖を通し、教科書や筆箱をリュックに詰め込んでいると、幼馴染_東間陽葵(あずまはるき)が不思議といった様子でリュックを背負って近づいてきた。

「ん、まあね。なんかね、顧問が今日体調不良らしくて。それに、雨降ってるでしょ、校内は他の運動部が使うからとかで、今日部活はなし。」

 部活が大好きな私にとっては最悪すぎて、思わず溜息がこぼれてしまった。陽葵はそんな私を見て、片手を上に少し上げる不自然な動作をした後に、

「どんまい。」

と、慰めてくれた。少し表情が歪んだように見えたのは気のせいだろうか。

「安い慰め方だね。」

 少しひねくれた答え方をしてしまったが、陽葵のことだ。気にはしないだろう。でも、我ながらかわいくないなぁ。

「ふふっ、そうかもね。っと、そうだ。小菜は今日部活ないんでしょ?それなら、僕はもともと帰宅部だからさ、一緒に帰らない?」

 思っていたとおり、陽葵は嫌そうな顔ひとつせずに、むしろ笑いながら肯定して、その上一緒に帰ろうと言ってくれた。さては、私が部活がないことを嘆いたのに気がついたな。

 陽葵はいつもそうだ。私がいつも欲しがっている言葉をくれる。その優しさにはいつも感謝してもしきれない。陽葵の誘いを喜んで受け、急いで準備の続きを始めた。


「でさ〜、数学の沢口がね―。」

 帰り道はなんともない、むしろくだらない話で少し盛り上がっていた。

「ぅわっ!?」

 しかし、突然足元にあった何かに引っかかって、やばい、転んだ。と思ったら陽葵が私の腰に手を回し支えてくれていた。

「あっぶな。陽葵〜、ありがと!助かったよ。ていうか誰だよ。こんなところに空き缶捨てたやつ。」

 私が転びかけた原因は、無造作に凹んだ空き缶だった。私はなんども陽葵にお礼を言っていたが、ちなみにまだ腰を抱えられたままだった。陽葵は私がころんだ原因である空き缶を睨み続けていて、そのまま動く気配がなかった。

「陽葵。あのさ、その〜。この体勢ちょっと恥ずかしいな。」

 私の一言で我に返ったのか、ボンッと音がしそうなほど一気に陽葵の顔が赤くなった。

「あっ、あああぁ…!?いや、えっとその、ぅぁ…っと。ぼ、ぼぼ僕は!?いや、そのさっ、小菜ごめっ!?」

 壊れた人形のように同じことを繰り返す陽葵に思わず苦笑してしまい、落ち着くように声をかけたが、効き目が全くと言っていいほどなかった。それにしてもここまで動揺しても、まだ離してもらえないのはなぜだろう…?

 しばらくしてやっと落ち着いてくれたのか、私がまた転ばないように優しく離してくれた。これでも私はかなり羞恥を感じていたため、ちょっとだけ安心していた。しかしそれもつかの間、ものすごい勢いで、

「ごめん、小菜!きゅ、急用思い出したから、先帰るね!!」

と叫んで、陽葵は走って帰ってしまった。

 何だったんだろう…?せっかく久しぶりに一緒に帰れると思っていたのに。というか、陽葵の顔が終始赤面していたのはどうしてだろう。やはり陽葵も同様、あの体勢は恥ずかしかったのだろうか。呑気にもそんな事を考えながら、少し寂しくなった帰路を歩いた。

 帰宅後、陽葵の様子が気になり無料メッセージアプリを起動して、メッセージを送ってみた。

【はるー、大丈夫?用事間に合った?】

 すると既読はすぐに付き、一瞬で返事が返ってきた。

「うぉ!?早いな。」

【大丈夫だよ。なんとか間に合ったけど、いきなり帰ってごめんね(._.)】

 陽葵はよく文末に可愛い顔文字を使っているので女子力高いなぁ(?)と…。とにかく用事に間に合ったようで良かった。私は特に気にしていないけど、また機会があったら帰ろう。と送りスマホの電源を切った。そのままスマホをベッドに投げ、私もベッドに飛び込んだ。

「っ…はぁ。」

 何故か溜息がこぼれた。原因はなんとなくわかっている。陽葵のことだ。陽葵は私と一緒にいる時、本気で楽しそうに笑ってくれる割に、時折苦しそうに一瞬だけ顔を歪めてしまうのだ。そんな彼女を見るだけでもこちらの胸が苦しくなってしまう。こんな事を考えていても無意味なのは理解しているのだけれど。

 …陽葵は、私と一緒にいるのは…嫌なのかな。ついそんなネガティブな事を考えてしまう。でも100%ないとも言い切ることができないから余計に、怖くなってしまう。

(パチンッ)

 こんな事を考えていたらだめだ!と私はそれなりの力で頬を挟むように叩いた。気がつけば手元が月明かりに照らされていて、ちょうどお母さんの夕食ができたという声が聞こえた。改めて深く考えるのはやめることにした。

 今日はもう、ご飯食べてお風呂に入ったら寝よう。明日も、部活はないからまた陽葵と帰れるだろう。

変わらず投稿は不定期になりますが少しでも続きを楽しみにしていただけると嬉しいです。気軽にいいねやコメントしていただけたら幸いです。

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