役に立たない第六感探偵
第六感とは日常でおよそ役に立たないものである。人より第六感に優れており、未来予知ができるこの私がいうのだから間違いない。
「ああまたか」
見えた未来にため息を吐いてしまった。
「……え?」
彼女は、目を丸くして固まった。
「ああ失礼。驚かせてしまったようですね」
私は手を差し出すと、彼女の前に立つ。そして自己紹介をすることにした。
「はじめまして。私は先黄泉スギル。私立探偵です」
「……知ってます。こうして事務所に来ているんですから」
女はそう言って私の手を握る。少しひんやりとした体温が伝わってきた。
「ああ、そういえばそうでしたね。しかし、それはそれとして挨拶をしなくてはいけません」
「はい」
「ではまず、名前を教えてください」
「佐烈まなみです」
もう名前からしてアレだが……。
「わかりました。証拠は必ず取りますのでお値段の話を」
「え! まだ本題に入っていませんが」
「旦那の不倫でしょ? 絶対写真撮りますからその場合の依頼料を……」
「あーもう! あなたに何がわかるのよ! 」
佐烈夫人は私の言葉に耳も貸さない。
「あの人は浮気なんてしてません! 」
「でも、この探偵事務所に来た時点でもう疑ってるようなものでしょう? 」
「違うわ。これは、その、ただの相談なの。別に依頼じゃないの! 」
「へぇ~、じゃあ、奥さん。うちの事務所の最大のウリ、私の第六感によれば貴方の旦那さん浮気……というか不倫してますよ。で、お値段ですが」
佐烈夫人は何も答えなかった。ただ黙ったまま、事務所を出て行ってしまった。
第六感なんて役に立たないことばかりだ。