口下手な僕の最強の武器
「ねぇ。綺麗じゃない?」
ロマンティックな雰囲気の中で、夜空を見上げて君はいう。
「綺麗さ。」
気の利いた返事なんかできたことなんてない。
うん。と返答しないだけマシだと思ってほしい。
口が下手なんだ。
言葉を発するときに、メチャクチャになってしまうんだ。
「なんかその返事つまんない。」
そうは言わんでくれ。
精一杯なんだ。
「お前の方が綺麗だよとか言えないの?」
逆に問うがそんなセリフ言われたいのか?
言ったら言ったで気持ち悪いとか言われそうだな。
「ごめん。」
ほら、僕の口から出たのは謝罪の一言さ。
これ以外の選択肢は僕には存在しない。
歯が浮くようなセリフは決して言いたくない。
恥ずかしいのはもちろん、軽いと見られたくないし、真剣だからこそ言葉なんて簡単に出てこないだろ?
「頭はいいのにね。なんで言葉が出てこないんだろうね。」
「そんなの、他のことで頭がいっぱいだからだろ。」
「他のことって?」
言ってしまった。
言ってしまったからには本心を言うべきか、嘘をつくべきか。
嘘はバレた時に面倒だし、本心は恥ずかしすぎるし。
「ねえ?何考えてたの?」
あわわわわ。
近づいてこないで。
頭が回らなくなるから。
上手い言い訳なんてこんな状況じゃ出てこないから。
近い近い。
「まさか、風呂上がりにすれ違ったあの子のこと?可愛かったからねぇ。」
「そんなわけないだろ。」
「じゃあ、何よ。」
「それは、き、き、きっ。」
「き?」
「昨日の晩御飯なんだったけなって。」
「何それ?」
いいのさ。
口下手なんかこんなもんだろ。
話す事から逃げてるかもしれないけど。
苦手は苦手なりに考えてるんだ。
「決める時は決めてくれるんだよね?」
「・・・。」
ああ。
そのつもりさ。
口下手の最強の武器だからね。
「待ってるから。」
ハードルがさらに上がってしまった気がする、、、