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stage2-A 『反乱軍根拠地』

 僕たち反乱軍は、もとはと言えばかつて連邦に与することを最後まで拒んだ小国の正規軍に、連邦の所業に反感を持った軍人たちが合流した極めて巨大な組織だった。

 しかし、連邦の力、それも究極の肉体、究極の生命、究極の兵器を手に入れた元老院の『愚者』たちの力を前にして、竜巻に襲われたあばら家みたいに反乱軍は根こそぎにされてしまった。

 かつての小国の首都付近にある飛行場。

 連邦軍の魔の手は、ついに僕らの根拠地にさえ襲い掛かってきた。 

 反乱軍本隊はありったけのリソースを持ったまま脱出したものの、ここに駐留していた防衛隊はほとんど壊滅した。

 燃料不足のために照明が落とされた暗い格納庫の中、僕はガンシップ『スペランカー』の飛行前点検を終えた。 

 ランタンをそばのテーブルの上に置き、隣のスツールに座り込む。


 「大丈夫かい?」


 同じように自分の機体のメンテナンスを終えたウェイルさんが隣に来た。


 「英雄たちはみんな死んだ。 あとは僕らが立ち上がる番なんだ」


 「……」 

 

 彼の本名は知らない。  

 彼はほんの一週間ほど前に反乱軍に参加した四十がらみの男で、その来歴は全く知らない。

 しかしどこかからか持ってきた高性能機体を駆る彼は極めて優秀なパイロットだった。


 「ビストぉー、な~にかっこつけちゃってんのよ」


 「あなたのような子供がそこまで思い詰めていてはいけませんよ。 私だって、義体技術を悪用して侵略活動を働いた犯罪者と真正面からぶつかったことはありましたが、今回はその時よりもタフな状況です」


 僕の相棒でミサイル砲台を駆る少女、モータ=メイディア。 

 そしてもともとこの小国の公安警察に勤めていた三十代の男性パイロット、ダリル。

 今反乱軍で動けるのは僕を含めたこの四人だけだった。

 モータのミサイル砲台は僕のガンシップに随伴する補助兵器なので、動ける機体は実質三機しかない。 

 双発型で上部の翼の真ん中に大口径砲を積んだバブルウィング型(つまりは哨戒機を転用した奴だ)青い複葉機『スペランカー』、ナパーム砲を三基搭載した双発の戦闘爆撃機『クラインシケイダ』、後ろを向いたレシプロエンジン二基を両翼に持つ単葉高速戦闘機『ファンブル』、そして誘導ミサイルを搭載した『スペランカー』のまるまっちい支援ヘリ、『フライヤー-typeε』。

 これが今動ける戦力のすべてだった。


 「しかし、もうここももう長くはもたないでしょう。 幸いまだ友軍の空母艦隊が生きています。 かなり長い旅になるでしょうが、そちらに逃げることが一番勝機を秘めているといえましょう」


 「そうよ! こんなしけたころで死ぬなんて真っ平ごめんなんだから!」


 僕はスツールから立ち上がった。


 「モータ。 あれを」


 モータはシャッターの開放スイッチを押した。

 シャッターが開き、鉛色の曇天の下に焦土と化したかつての古都の景色が見える。


 「……ちっ! 連邦の野郎ども!」


 そう毒づいたウェイルさん以外もみんなそんな気持ちだった。 僕は『スペランカー』に飛び乗った。

 途端、頭上で大爆発が起き、格納庫の屋根が大きく崩壊して、その裂け目から強烈な炎が飛び込んできた。

 エンジンが完全にかかるまでの一瞬の間に火勢が強まり、完全に視界が橙に染まる。 

 

 「焼夷弾だ! 飛べ!」


 一番起動に時間がかかるウェイルさんの乗機が飛び立った途端、高台に建つ空港全体が大爆発した。


 「危機一髪、ってとこね」


 モータが通信機越しにそう言ってきた。


 「残念だがまだ危機からは逃れてないぞ」


 「ビスト君は周りがよく見えてますね」


 僕の返答を聞いたダリルさんが言うように、周囲にはまだ連邦軍の爆撃機が数えきれないほどいる。


 「高度を奴らより上に取るぞ!」


 「ラジャ!」


  操縦桿を最大まで引き、殆ど真上を向きそうなくらいに機首を上げる。


 「前方に敵!」


 モータが叫ぶ。

 雲間に見てきたのは連邦軍の量産型重爆撃機だった。 

 僕らから見て左側に動きながら、まさに現在進行形で爆撃を行っている最中だ。

 小型機三機では普通喧嘩を売らない相手であるが、この際そんなことは言ってられない。


 「俺がやる。 お前らは来なくていい」


 『クラインシケイダ』は『cryin' cica(啼く蝉)da』の名の通りのエンジン音を上げながら僕に先行し、僕らよりはるかに速く敵に肉薄していった。

 蝉は旋回機関砲の攻撃をものともせず左翼の付け根に取り付き、攻撃を加えた。

 可変翼の内部のナパーム砲のように見えたその攻撃は敵の翼の付け根に正しく命中し、……あっけなく翼の根本は爆発し、砕け散った。

 片翼をもがれた相手が回転することで爆弾がバランスを崩したのか、内部でも複数の爆発が起こる。

 たった一発のナパーム弾で、町一つを焦土と化すことのできる強大な兵器はあっけなく空中分解した。

 僕は落ちてくる破片を交わしながらさらに高度を上げ、ついに雲の上、爆撃機編隊には到達できない場所まで来た。

 機首を下げ、水平姿勢をとる。


 「無事か?」


 「私はだいじょうぶ―!」


 ちゃんという事を聞いてくれたのはいいのだが、モータの機体は基本目の前にあるので言われなくても分かる。


 「私も大丈夫ですよ」


 ダリルさんからも応答があった。


 「ウェイルさん、聞こえますか?」


 「問題ない」


 下の方から特徴的なエンジン音が聞こえてきて、『クラインシケイダ』の灰色い迷彩柄の翼が見えてきた。


 「どんな魔法を使ったんですか?」


 僕は軽口をたたいた。


 「……もう隠しておくのも無意味だろう」


 通信機の向こうでウェインさんが極めて深刻な声でいった。


 「俺はかつて連邦の兵器開発部で主任として働いていた。 俺は自分の兵器がどのように使われているかも知らされぬまま殺人機械を設計し続けていた。 そして俺は自分の兵器が、余りにも多くの罪なき人々の命を奪っていたということを知った。 俺は連邦から逃亡し、一年以上かけて死を偽装した。 そして反乱軍に兵器の情報をリークしようとしたが、俺がたどり着いたころには反乱軍は散逸し、俺のリークはほとんど役に立たない状況になってしまっていた。 そこで、俺は自ら作った最先端戦闘機を駆っていっそ自力で兵器群を破壊することにした。 俺一人の手では非常に難しいことだろうが、連邦に打撃を与えて死ねるのならそれが本望だと思った」


 そしてウェイルさんは嘲笑のニュアンスの入った笑いを漏らした。


 「あの爆撃機も俺の設計だ。 初版の設計図には、弾倉、油圧、燃料の配置に欠陥があり、それが集中した部分を攻撃されればああいう風に翼がいかれちまう。 どうやら連邦にはそれに気づける技術者はもういないみたいだな」


 「でっ、でも、私たちはそんなこと気にしませんよっ。 ね? ね?」


 モータが取り敢えず擁護の声を上げる。


 「あ、ああ」


 「私もこれ以上仲間を減らそうという気は全くありません」


 取り敢えず落ち着いた空気が流れている。

 戦場でそれが長続きすることは稀であり、今回もまたその例に漏れなかった。


 「ビスト―、何かやな気配がする」 

 

 「何を言っているんですか。 モータさん。 レーダーにはそんな敵影は……」


 ダリルさんの言葉が一回止まり、そして。


 「全機散開! 下です!」


 僕は大きく左に舵を切り、さっきの位置から高速で遠ざか視界の左端に金属の壁がせり上がってくるのが見える。

 僕は機首を上げ、それを躱した。

 背後から砲撃。

 やはり敵だ。


 「全員無事か!」


 「問題ない!」


 「こちらもです!」


 大きく旋回し、機体を敵に向ける。  

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