stage1-E 『映写室』
「お前は何か知っているのか? バルル」
「……うん、隠すような形になってしまったが、私もこの作戦計画の一員だった。 何を隠そう先ほど映った人の三つ子の妹、水上艦の専門家スクリュート・ウェッジスミス女史の直属の部下だ」
「確かに技研部には名物の三つ子博士がいるというのは聞いたことがあるが……。 非難するようで悪いが、こんな」
僕はバルルの肩越しに闇の中にある彼女たちの影をちらりと見た。
「私としても心苦しいことだ。 しかし、上層部の圧力だけならまだしも、当の彼女たちがこの作戦への参加を熱望しているのがいけない」
「嘘だろ?」
そう言いながらも僕はバルルが嘘をついてなどいないということを理解していた。 もう18年来の友達なのだ。 分からないわけがない。
「嘘じゃない。 15から17歳のほんの子供が、この作戦の成功報酬をここまでしてでも欲しているというのはあまり信じたくないことだが、厳然たる事実だ。 この世界でこの作戦への参加資格があるのは、分かっている限りこの6人だけだ……僕は彼女たちを見殺しにしたくない」
「それでも」
「いいか、出撃しなければ遅かれ早かれこの世界は滅ぶ。 それに、仮に犠牲が出たとしても、誰か一人かでも生還すれば自分の権利を行使して死者を生き返らせることができる」
バルルはポケットから何かを取り出した。
「時間操作魔法を組み込んだこの時計は、魔力が完全に充填された状態なら2回まで破壊された揚空機を復活させてくれる。 異世界の間の次元は魔力で満ちているから、転送の間に完全充填可能だという試算が出ているし、それぞれの世界の中でも充填の機会が存在するだろう。 我々は命を一つしか持ち合わせていないという訳ではない。 そして彼女らはまだ粗削りとはいえ、お前にも比肩しうる腕のパイロットだ」
僕は時計を見、再びバルルの向こうの彼女たちを見た。
暗闇に慣れた目に、ひどく硬い表情の女の子たちが見える。
僕がこんな年齢だった時には、バルルと一緒にバカばっかりやってたっけか。
「分かった。 お前を信じる」
と、部屋の端からかなりの音量で悲恋物ののヒロイン死亡シーンのような気の滅入る曲が流れ始めた。
さっきの声もあそこから出ていたし、おそらく発音機があるのだろう。
ヤベッ、マチガエタと小さく聞こえた後曲が止まり、ガチャガチャと音がして今度は底抜けに明るいマーチが流れ始めた。
『いや、失礼失礼。 先ほど説明してなかったことのもう一つ、六機の究極戦闘機について説明しよう。 イエイイエイ』
「おそらくこれはケイメラ・ウェッジスミス女史だ。 姉妹の二人目で航空兵器の専門家」
『基本的に君たちの愛機を基に君たちの重視している部分を更に突き詰めて作った極めてピーキーな奴らだゼ! 外部装甲は軽さと丈夫さを極めて高いレベルで実現するために鋼、水銀、魔力、ミスリルを絶妙な割合で混ぜ合わせた超特殊合金。 発動機は純粋に魔力のみで動く最先端最高級の試作型。 操作系統には宮廷や市井の名のある芸術家を集めて究極の視認性、操作性を実現。 時間制御魔法による復活も標準搭載。 ハクシュ―!』
まばらな拍手。
『それではここからは個人の奴をお披露目。 まずはエンジアちゃん、『ワンダラー・アルティメットエディション』!』
画面に映し出された写真の揚空機は基本構造こそ僕のワンダラーと同じだが、各発動機に一枚づつ垂直尾翼ぐらいの大きさの翼が付いており、基本形態では放射状にそれらがに配されるようになっている。
『機動力が大幅アップ! 装弾数も2倍!』
「お前まだこんな変な奴に乗ってたのか」
「悪いか?」
『続いてバルルちゃん! 『ペネトレイター・アルティメットエディション』!』
予想した通りバルルの乗機は養成学校時代と変わっておらず(僕らは酒の席に仕事の話は持ち込まない派だった)、輪郭だけなら一般的な(上から見ると左右の角を落とした凹四角形の正中線少し後ろあたりに縦が横の8倍くらいの寸法になった楕円の中心が来るように重ねた感じに見える奴)揚空機に近いマシンだった。
この機体には誘導爆弾の先端のように尖った機首の両脇にぴったりとくっつく形で、平べったい八角形の光線砲の砲身が見えており、それぞれ放った光線が合流して極太のになる仕掛けになっていたはずだった。 さらにこれに飽き足らず翼には左右の翼には四基四門ずつ0.8インチ貫通砲が付いていた。
両翼の真ん中に一基ずつある発動機が噴流型であることを鑑みても、機動力はそこそこといったところか。
『機動力を向上させ、光線砲の火力を大幅増強! 補助機関搭載である程度は旋回なしで左右移動可能!』
「バルル、お前まだこんな古臭いやつに乗ってるのか」
「うるさい」