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stage1-D 『指令』

 『秘密基地へ、ようこそ』


 映写機によって映し出されたのは、何処か高級そうな会議室の中央の玉座(かどうかは分からないがとにかく豪奢な椅子だ)に掛けた女性だった。

 空軍の将官の制服を着てこそいるが、むしろ研究者のような気配を醸し出している。 映像の会議室には彼女以外人っ子一人きりいない。


 『これでも礼儀を重んじる性質でね。 まずは自己紹介をさせてもらおう。 マニュパール・ヴェッジスミス技研管理官。 これより君たちの直属の上官となる』


 技研管理官が空軍で言う二等空将に当たる立場であることに思い当たる前に、私は手を挙げていた。 

 

 「勝手ながら質問させていただきます。 配属替えの辞令は受け取っていないのですが」


 『ブローニ三等空佐。 説明は最後まで聞いてから話したまえ』


 「失礼しました!」


 私は手を下した。


 『さて、君たちに集まって貰ったのはほかでもない、君たちをある特殊任務の司令部が指名したからだ。 言っておくが私は現場の長官に過ぎず、全権を持っているのは私よりもさらに上の人間だ。 その任務とはすなわち』


 言葉が途切れる。

 投影機のリールの音だけがカチカチと規則的に鳴っている。


 『君たちにはこの六機の究極戦闘機に搭乗し、異世界の敵性存在九勢力を襲撃、撃滅してもらう。 一切の追加人員配置、補給は認められない。 ……しまった、君が質問してきたばっかりに、話す順番を完全に間違えてしまったな。 今から詳しく説明してやる。 まず、異世界についてだが、我々とは別に王立研究機関の天文学部門がその研究を進めていたことは君たちも存じていると思う。 現在市井に公開されている情報は特殊望遠鏡の建造計画が持ち上がったところまでだが、実際のところを言うとそれは既に実現しており、多くの異世界の存在が確認された。 計画は成功だったが、いくらか厄介なことが分かった。 異世界の存在を認識しているのは我々だけではないこと、そしてその幾つかが我々の世界を攻撃対象としてみている可能性が極めて高いことだ』


 画面が切り替わり、九つの名前が浮かび上がった。


 『蒸気の世界』、『英雄の世界』、『電波の世界』、『少女の世界』、『分断の世界』、『途上の世界』、『妖怪の世界』、『宇宙の世界』、『怒蜂(どほう)の世界』


 その上に『敵性勢力が確認された世界』とタイトルが配されている。


 『我々の観測魔法は優秀であり、これらの世界に関してもかなり深いところまで情報を得ることができている。 しかしながらそれは遠眼鏡の機能を果たしているにすぎず、得られない情報もかなり多い。 それ以前に、あちらの世界に干渉することができない。 政府は異世界からの侵略に対する対策委員会を設立したものの、その制約のせいで実行可能な対策は敵の規模を鑑みて極めて困難であると考えられている防衛戦だけだった。 最近まではね』


 彼女はそこで言葉を切った。

 実際はあり得ないのに、その目はこちらを観察しているように思われた。


 『ほんのひと月前に工学部門が、異世界とこの世界を繋ぐ通路を生成する機械を実用化した。 転送装置ともいうべきこの機械により、異世界へのアクセスが、ほんの小規模ながらも可能になった。 揚空機ならちょうど6、7機ぐらいだな。 さすがにそれでは賭け同然の作戦しか実行できない。 人間の被験者を異世界に送り込み、帰還させることに成功した実験以降、大規模な戦闘部隊の湯瀬王を可能とする機構の開発まで、実用は凍結された。 しかし、事態は気づかぬうちにのっぴきならないものになっていた』


 突然左の方の席から息をのむような声が聞こえた。

 私は彼女の言及していることに気づいた。


 『その通りだ。 学士ミロク、学士スプリングフィールド、そしてブローニ三等空佐。 君たちはよい腕をしていた。 本日我々の観測している異世界の一つ『蒸気の世界』からの干渉があった。 そう、君たちの遭遇した所属不明ということになっている兵器。 これらが侵入したのは侵略目的ではなく事故であると考えられているが、これは世界がかなり近づいてしまっていることを意味している。 そこで軍部は現行の転送装置を起動し、選ばれた兵士たちによる奇襲作戦を行うことを決定した』


 それが私達。 暗い部屋の中に刺すような緊張が湧き上がってきた。


 『君たちはこれより異世界に飛び、脅威を排除することになる。 技術的制約により、作戦途中での補給、帰還は許可されていない。 成功の暁には、いかなる褒美をも、君たちの望むとおりに与えよう。 これは命令である。 上はより強硬に動くよう命令しているが、私とて人の情がわけではない。 なんでも質問には答えてやろう』


 私は震える腕を何とか硬直させて挙手をした。


 「失礼します。 作戦行動中にはこの世界における私たちの立場どうなるのでしょうか」


 作戦自体に異議を挟む気に全くならなかったのが自分でも驚きだった。


 「君たちは作戦行動中に死亡したものとして取り扱われる。 しかし、生還した暁には、完全に原状を取り戻せるように裏工作はされることになっている。 安心したまえ」


 私は手を下した。

 頭の中が真っ白になっていて、却って恐怖などは感じなかった。


 「失礼します」


 黒髪の女の子が手を挙げた。


 「なぜ私たちが選ばれたのでしょうか」


 『それは機密事項だ。 お役に立てなくて済まない』


 再び部屋は沈黙で閉ざされた。

 結局のところ作戦に出る事は絶対命令で、とてもじゃないが拒否できるものではなかった。 

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