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stage2-W 『空中プラットフォーム用脱出装置 ブライトクラーケン』

 ブレイズハートMK.Ⅲの最高速は時速1500㎞にもなる。

 その速度のまま僕は敵機の後ろについた。


 「ママ! ごめんなさい! だから、お願い! 止まって!」


 モータが無理やりつないだ通信越しに懇願する。

 もちろん返答はなく、遠くから聞こえるようなすすり泣きの声だけが聞こえた。


 「仕方ない。 モータ、高度を下げさせた上でエンジンに損傷を与え、なるべく軟着陸させるようにする!」


 「でも、それだと……」


 「ああ。 分かってる。 だが、放っておいても仕方がない」


 僕はエンジンに照準を合わせ、引き金を引いた。

 前八基の旋回砲で前方を攻撃することができる位置にある四基(このように、射線が自機に干渉しない砲台が制御回路によって自動的に選択され、それだけが攻撃を行う便利機能が付いているようである。 撃ってたら気付いた)が火を吹き、エンジンや垂直尾翼の一部から火花が飛ぶ。

 とても効いているようには見えない。


 「モータ! 気をつけろ! 何かしてくる気だ!」


 こちらからの攻撃に対する反応か、敵機の最後部、エンジンの上下各二基のハッチが吹き飛び、そこから多関節のアーム、アイスボールとか言ったあの戦車に搭載されていたものの改良版と思しきものが飛び出してくる。

 アイスボールの物と比べてはるかに関節が多く、人の腕というよりは軟体生物の触手に近い。

 これの先端に二本は超大型の機関砲が、もう二本には大口径ののキャノン砲が取り付けられていた。

 もともと細めの台形の上に楕円を短径で半分にしたキャノピーが付いた形なので、そこから触手が生えているとかなりイカに近い形になる。

 その触手が大きくしなりながらこちらを襲ってくる。


 「速度を落とせ! ぶん殴られかねない範囲の外からあの触手を破壊するぞ!」


 「らじゃ!」


 僕らは急減速し、迫りくる触手の打撃から逃れた。

 完全にその届く範囲から逃れる。

 それに感づいたか否か、途端に 触手はぴたりと空間に固定され、先端だけがぐりりと動いてこちらを射線上にとらえた。

 僕は視界右上に固定された機関砲の触手に照準を合わせ、発砲した。

 夕日の荒野でのガンマン二人の決闘なら相手は潔く死んでいた訳だが、現実はそういう訳もいかない。 

 機関砲の集中砲火が敵触手の機関砲の付け根当たりの装甲を破壊するが、相手はひるむことなく発砲してきた。


 「左翼に被弾! ……各計器に異常なし! 攻撃を続行する!」


 装填完了した試作型レーザー砲の照準を今度は触手の真ん中に合わせる。

 そして引き金を引いた瞬間、敵の触手の中央部が焼失し、先端部が回転鋸に切り落とされた腕のように宙を舞った。

 転じて上側のもう一本に照準を合わせるが発射時に敵が触手を動かしたせいで、今度は先端のキャノン砲を貫いた。

 下側の触手はモータが始末していた。

 これにより、敵機の触手はすべて無力化された。

 そのまま僕らは距離を詰める。


 「ママ! お願い! 止まって!」


 モータは半泣きで叫んだ。

 しかし相手は応えることなく、機体中央のハッチが開く。

 複数の旋回機関砲がせりあがってきた。

 それはでたらめに砲塔を回転させ、不規則で予測不可能な弾幕を張ってくる。

 アラートが何回も鳴り響く。

 かなり被弾している。


 「まずい! このままだと長くはもたんぞ!」


 「でもどうやって避ければいいのよ! 弾が多すぎる!」


 いったいどこに仕舞っているのか(あるいは異世界由来の技術か)、相手はひたすら規格外の量の対空砲弾をばら撒いていた。

 状況はあくまで膠着状態だったが、被弾が装甲の閾値を超えたらその瞬間に安定を失いかねない代物だった。

 膠着は崩れた。

 盤外からの攻撃で。


 「なんだ!」


 敵エンジンの左側に大型のロケットが直撃し、敵の攻撃が止まった。


 「大丈夫か、ビストー!」


 クラインシケイダから放たれたロケットが再び敵機に傷を付けた。


 「世話をかけましたね。 君はかなりタフな状況にあったようですが、素晴らしい活躍でした」


 ダリルさんの機体が横につく。


 「ん? なぜ、これが僕らだと」


 「空港で暴れてたやつらに聞いた。 タッチの差だったよ」


 「それよりも、これに博士が乗っているというのは」


 「はい。 事実です」


 「ならば攻撃を止めて、あとは私に任せていただけませんか?」


 ウェイルさんが言った。

 決意に満ちたような声だった。


 「わ、分かりました」


 僕らはその言葉に従って後退し、ダリルさんに場所を譲った。


 「あー、博士、聞こえますか?」


 攻撃するわけでもなく、ダリルさんは通信を入れた。


 「あなたが何を考えているのかは、はっきり言って分かりません。 ただ、貴方が世界を薔薇で包み込もうとした。 そのことだけは聞いています」


 淡々と語りかけるような声。


 「先ほど反乱軍は連邦首都を完全に制圧し、これによりこの戦争は一旦の終了を見ました。 貴方だけがこれ以上戦う必要などありません。 今ならまだ間に合います。 先ほど何を考えてるかわからないなどと言いましたが、おそらくあなたは自分の技術が間接的に多くの命を奪ってきたことに悩みを抱いているのでしょう。 ならばかえって、この戦争を終わらせてください。 今までの罪が雪がれることはなくとも、新たな罪が加わることはないと思われます」


 「違う」


 驚くべきことに、沈黙を貫いていた博士が拗ねたような声で返事をしてきた。


 「私は、ただ、孤独に耐えられなかっただけなの。 みんなみんな私に嘘をついて、私の技術だけを見て。 せめて、誰かに感謝してほしかっただけなのよ」


 そういって博士は再びしくしく泣き始めた。


 「博士。 あなたが昔、一介の義肢研究者だった時に、貴方の国で小さな内戦が起きたのを覚えておられますか? ちんけな地方軍閥が形ばかりの独立をぶち上げ、結局国軍に制圧された事件です。 その時にあなたは、戦地の野戦病院で、傷ついた子供たちに義手義足を提供していた。 その時の子供たちは、今でもあなたに感謝していますよ」


 「なっ、なんでそんなことがわかるのよっ!」


 「僕がその一人だからですよ」


 信じられなかった。

 ここ数か月ともに戦っている間、ダリルさんは全くの五体満足にしか見えなかった。


 「あなた自身が作った義手だけでなく、貴方の理論を基にした義手のおかげで、私は普通の人間と変わらぬ人生を送ることができました。 あの病院にいた仲間たちとは今でも友人ですが、彼らもまたあなたに感謝しています」


 博士の泣き声が止まった。


 「今回の戦争においても、あなたの技術を必要としている人々が沢山いるでしょう。 どうか、彼らのために、貴方自身の為にも、その力を使ってください。 とても険しい茨の道になるかもしれませんが、これこそが、貴方の罪を雪ぐただ一つの道だと、私は思います」


 そうしてダリルさんは話を終えた。


 「……ごめんなさい」


 博士はそう言って、また泣きじゃくり始めた。


 「ちょうどいいことに元老院はあんたの存在を隠していたから、元老院壊滅によってあんたの痕跡は完全に消え失せちまった。 それにダリルの国の資料庫も壊滅しちまったから、あんたが興した戦争も、人々の記憶にしか残らない。 好都合だぜ?」 

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