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stage1-C 『空港〜地下格納庫』

 空港の滑走路の上空に機体を止め、そのまま発動機を着陸用の編隊に変え、高度を落としていく。

 苦労してワンダラー本来の垂直離陸機能を維持したのは正解だった。

 着陸の瞬間に椅子に飛び乗ったくらいの衝撃が来る。

 操縦桿に間から手を突っ込んでボタンを押し、制御回路の動作を停止させる。

 左手を上げて円蓋の錠を外し、それを引き下げて外の空気に触れる。

 5歳の時からやってきたこの一連の動きに、ほんの少しのつっかかりを感じる。

 久しぶりに殺すか殺されるかの果たし合いをして気持ちが乱れているようだ。

 そもそもパイロットの仕事なんて旅客機や輸送機の護衛をしたり行事に出張っていって華麗な空中機動をお見せしたりするくらいなのだ。

 幹部候補生はあまり本気になって訓練しないし(僕にはもはや不要だからと言うのもある)、一般兵でもそう変わらないだろう。

 僕は激しく鳴る心臓をゆっくり落ち着けながら移動式階段を降り、滑走路に降りる。

 先程損傷を受けたバスターが輸送自動車で運ばれているのが見える。


 「……ん?」 


 何台か並走していた輸送自動車の一台が僕の機体の前で止まった。

 操縦席から運転手が顔を出し、機体を運ぶ旨を述べた。

 損傷は受けてはいないとはいえ、見えない場所に損傷を受けることは稀なことではない。  

 僕は階段から急いで降り、それを押して端にはけた。


 「あなたも来るんですよ」


 「え?」


 僕は自分を指さした。


 「はい」


 起重機でワンダラーちゃんを引き上げながら、運転手はこともなげにそう言った。


 「技研部からの勧告です」


 軍人は上層部には逆らえない。


「ちょっと着替えていいですか? 礼儀という物もありますので」


 僕は近くの建屋に駆け込み、最大限のお澄ましをして出てきた。

 僕は輸送自動車の横の小さな梯子を駆け上がり、運転席の真後ろ、普通に座ると乗せられた機首とお見合いすることになるベンチに座り込んだ。

 貫通砲の砲門部分に煤がこびりついている。

 綺麗なままのワンダラーに残された戦いの跡はそれだけだった。

 意外にサスペンションがしっかりしている輸送自動車は空港西の昇降機に乗り、そのまま地下の格納庫へ入っていった。

 激戦の疲れからうつらうつらとしていた間に、輸送自動車は目的地に到着していた。


 「つきましたよ」


 運転手に肩をたたかれる。

 揚空機が余裕で2台横並びになれる巨大な廊下のどん詰まりにある格納庫の巨大な鉄扉の前に僕らはいた。

 運転手が手を挙げると『U2D2LR2BAS』と印字されたそれが機械音を立てながら上昇していく。

 輸送自動車がゆっくりと動き出し、床に降りた僕もそれに並走する形で歩いていく。

 鉄扉の向こうには、5機の揚空機が止まっていた。

 それらはみなよく手入れされた真新しい機体で、どれも僕の見たことがあるものではなかった。

 それはつまりこれらは量産機ではないという事を意味していた。

 輸送自動車は僕のワンダラーちゃんを下すと、そのまま後進して鉄扉の向こうに退いた。

 そして鉄扉が再び下降し、完全に閉ざされた。

 格納庫が闇に閉ざされた一瞬後に天井の照明が付き、視界が完全に確保される。


 「よ~う。 エンジア~」 


 「あ?」


 聞き覚えのある声だった。

 声の聞こえた方を見てみると、格納庫の上のキャットウォークの手すりにつかまってこちらに身を乗り出してにやにやしている奴がいた。


 「……バルル」


 バルル・コルトンは僕の学校時代のライバルだった女だ。

 階級は同じだが、あちらは海軍の研究部に所属しているので、生意気にも将官制服を着ている。

 純粋なセンスでは僕の方がかなり上だが、彼女は揚空機とお絵描き以外の才能では悔しいが僕に勝っていた。

 学校を卒業してからも月一で飲む仲だが……。


 「なんでお前がいるんだよ」


 「お前さんと同じだよ~」


 「僕は何も聞いていない」


 バルルの後ろには知らない女の子が4人いる。 明らかに僕達よりはるかに若い子だったし、みんな養成学校の制服を着ていたから、学生なんだろう。


 「まあお前みたいな分かりやすい奴なら絶対わかりやすく喜んでるはずだもんな。 正面の扉に入んな」  

 

 そういいながらみんなは後ろの扉に入っていった。

 その真下、回転翼型の揚空機の陰に木製両開きの扉が二組あった。

 僕は右の奴の方にゆっくり歩いて向かっていき、ノブを握った。

 抵抗なくそれは動き、扉の方もまた抵抗なく動く。

 その向こう側に広がっていたのは、とても地下にあるとは思えない、何列も高級椅子が並んでいる映画館のような空間だった。

 この階の扉二枚の間には巨大な映写機が据え付けてあり、そのさらに真上にバルルたちが入っていた扉がある。

 そこから廊下が伸びており、両脇の階段でこの階につながっていた。

 彼女たちは中央当たりの椅子にめいめい座っていた。


 「どういう意味なんだ?」


 「まあ、座りなさい」


 バルルは自分の右隣の椅子をバンバン叩きながら言った。

 僕は指定された席の更に右隣の椅子に座る。 養成学校時代の研修旅行で言った王立劇場の物のようなふかふかの椅子だ。


 「いる?」


 バルルは大きな紙容器に入ったチュロスの束を差し出してきた。

 確かにこいつはこんな風に人を焦らすのが好きだった。

 チュロスを3本つかみ取ったところで映画館の空気が完成した。 すなわちブザーが鳴り、映像が投影されたのだ。


 『エンジア・ブローニ三等空佐。 バルル・コルトン三等海佐。 学士シャルフト・ヘッケラー。 学士プルパラ・マウゼル。 学士バロメア・スプリングフィールド。 学士ツバサ・ミロク。 秘密基地へ、ようこそ』

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