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stage2-U 『超巨大空中プラットフォーム パープル・ヘイズ』

 攻撃目標は滑走路の中央に鎮座していた。

 行きに撃ち落としてきた超大型を名乗る爆撃機の、更に二倍ぐらいの全長を持つそれは、巣で眠る大鷲のように静かにそこにあった。

 普通飛行機という物は基本的にまっすぐな胴体に翼が付いたような形になっているようなものだが、こいつに関しては後ろについたロケットエンジン(四本を束ねたもの)が非常に大きく、胴体はさすまたの柄の方を前にしたような形になっている。

 さすまたの柄の中央は左右に張り出して六角形をなしており、そこから左右に甘い角度の後退翼が突き出している。

 機首は尖った新鋭戦闘機然とした形をしていて、長球型のキャノピーが付いている(このキャノピーだけで大型バス位の大きさがある)。

 その両脇には幅広の鉄骨とその両脇に細いのを二本並べたようなものが突き出している。

 艦載機を発進させるための滑走路代わりに使う発射台だろう。

 その証拠に付け根にはちゃんと格納庫のシャッターがある。

 両翼にも大型のエンジンが四発ぶら下がっている。

 そしてそこかしこに丸形や長方形の閉じたハッチが配されている。

 おそらく旋回砲やミサイル砲などが格納されているのだろう。

 そんなごっつい巨体を支えるのはボディの柄部分の両脇にずらっと並んだダンプトレーラー用レベルの巨大タイヤであり、ここから漏れ出てくるのも凄まじい威圧感だ。

 その全てにおいて規格外の機体の横合いから、高度を同じうして僕らは接近していった。


 「敵機への接触まで3.2.1!」


 「おうりゃ!」


 全員の火力が敵の赤いボディを撫ぜる。


 「装甲が厚い!」


 普通の戦闘機なら原形もとどめないほどの火力だったが、相手は恐らく戦艦並みの頑強さを持っていた。 

 ぶつからないぎりぎりの位置で機首を上げて敵機の上を通り過ぎる。


 「斬れない!」


 先ほどツバサ・ミロクと名乗った声が叫んだ。

 横をエンテ型の機体が通り過ぎる。


 「……飛んでもいない相手に斬りかかるの……、やめた方がいいと思うよ……」


 「バロメア、黙っててくれるかしら」


 「……こいつは魔法で作った刃で敵を攻撃する機体に乗ってるんだけど……、自分の危険も仲間の危険も顧みないんだよね……、ひどいよね……」


 もしかして僕たちに話しかけているのだろうか。

 たとえそうだとしても重要な情報は『斬れなかった』こっきりである。

 旋回して敵機に再び向き直る。 


 「マカロン。 ママに言うことがあるんじゃないの?」


 通信に割り込んでくる妙齢の女性の声。


 「!」


 「何を黙ってるの? あんたと言いモンブランと言い、育て方を間違えたのかしらね」


 ローゼン・メイデン博士はそう言って深いため息をついた。

 それと同時に敵機の各部で赤い光が点灯し、各部のハッチが開いて中から迎撃兵器が現れる。


 「くっ! 敵が攻撃を開始!」


 「こちらプルパラ。 敵機各部に強烈な熱源反応を確認、発動機が起動したと思われます。 発動機を重点的に攻撃し、離陸を阻止してください」


 「……見たら分かる」


 大型のクレーンのようなものを二丁吊り下げたヘリコプターが前に出て、巨大なショットガンのようなものを構えた。

 そして敵機の後部エンジンに大きく接近し、それを放つ。

 エンジン上部の旋回砲をいくらか吹き飛ばし、エンジンにもダメージが入る。


 「どうしてあなたはママを邪魔するの?」


 「……だって、罪のない人も含めて、人類を皆殺しにしようとしてるじゃん」


 「分かってないわね。 ママは自分の意に反して兵器を開発させられ、愛する人々の命を奪われた。 それの復讐のために連邦に亡命しても、結局連邦を支配する『元老院』の連中も同じ穴の狢。 それにこの戦争が始まってからの各国の様相を見たかしら? 国を捨てて逃げる者、国民の命などどうとも思っていないような作戦を立てる者、とにかく屑ばっかりだったわ。 それと『人類皆殺し』って言ったわね? 勘違いよ。 私がすることは、このミサイルに積んだ薔薇の種子をばらまいて、現存の国家体制という物を全て破壊すること。 そうすれば、愚かな指導者は取り除かれ、私の様な人間は二度と出てこなくなる。 そう思わないかしら」


 「……ママ、ほんとにそう思ってる?」


 多分に狂気じみたものであるはずの彼女の言葉には、実際には何の狂気は見られなかった。

 代わりにその震え声から読み取れたのは、自分自身信じきれない考えにしがみつき、かろうじて自信を正当化している哀れな人間の声だった。

 ギムナジウム時代の教師(元軍人)が、戦争はそういう人間を生み出してしまうのだと遠い目で語っていたのを覚えている。


 「それでも無辜の人々が被害を被るのは同じじゃない? それに、そうやってママがおろかだと考える指導者以上にたくさんの人々を、ママが与していた元老院が傷つけたんじゃないの?」


 「まずい、それ以上言うな!」


 「ママにはそうやって正義の革命家気取りをする資格なんてないと思うけど」


 モータは誤解している。

 そもそも彼女の主観上では初対面の相手をいきなり『ママ』呼ばわりしているのが異常だ。

 おそらく彼女は疲れと昂奮(あるいは兵器制御の副作用かもしれない)とで正常な判断能力を失いつつある。

 少なくともそれを他人の内情を読み取ることに避けるほどの余裕が残っていない。


 「マカロン……」


 そういって博士は圧し黙った。

 そして……。

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