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stage2-T 『降下作戦』

 『GO!』


 モンブランさんがそう叫んだ瞬間に金属が外れるような音が鳴り、そして全身が浮き上がるような感覚が走った。

 それは上昇から急降下に転じた時の感覚そのもので、パイロット経験の長い僕には一瞬で何が起こってるか察することができた。

 この機体は母艦から切り離され、空中に放り出されたのだ。


 「ものすごく揺れるかも! 掴まって!」


 モータが叫ぶと同時に実際凄まじい風の音が響き始め、体にしみこんでくるような重い揺れが起こり始めた。

 それは1分ほどで鎮静化し、安定飛行の体勢に入ったことを感じさせた。


 「行けるか?」


 エンジア氏の通信が入る。


 「ええ、問題ないですよ」


 モータが答える。


 「体と一体化しているみたいです」


 だそうだ。


 「現在敵機はまだ離陸していない。 急降下攻撃を仕掛け、離陸前に仕留める。 理解した?」


 「OK」


 モータは肯定の意を言葉で示し、そして思いっきり機首を下げた。

 雲を突き破り、僕らは高度を下げて行った。

 眼下には夜間照明で縁取られた巨大な何本もの滑走路が見える。

 明らかに空港の上空だ。

 高度を下げていくにしたがって、空港の中央、一番幅の広い滑走路に、赤い影が見えてきた。


 「『パープル・ヘイズ』なんて名前なんだから、てっきり真紫だと思ってたんだけど?」


 モータが呟いた。


 「操縦には慣れたのか?」


 「慣れたも何も何となくでやるしかないんだから、大丈夫。 ところで、ビストーはどう思う? なんで赤いの?」


 「『パープル・ヘイズ』ってのは旧式の飛行機燃料から出てくる明らかにやばい排煙の事だ。 それを吸っているせいで昔のパイロットは寿命が短かったらしいって親父が言ってた」


 「へぇ~。 所でなんで私たちこんな話してるの?」


 「さあな」


 平和だった。

 戦闘の間のわずかな平穏はかえって記憶に刻み付けられ、ここ最近しばしばこういう風に他愛もない事を話していたような錯覚に襲われる。

 前線に立って闘争心の限り敵に攻撃している僕らはまだましな方で、侵攻を受けた側の人間は全員極めて精神的に厳しい日々を過ごしてきたわけだ。

 闇に包まれた首都の様子を鑑みるに、侵攻側もそれはさほど変わるまい。


 「フフフ」


 「ビストー、何笑ってんの? 寝不足?」


 「違う」


 一番戦況がひどかったときは三日間寝ずに撤退戦を繰り広げたこともある。

 最近はむしろ眠れた方だ。


 「これでこのクソ長かった戦争も終わるんだよな」


 「倒したら、ね」


 モータが笑った。


 「勝てるに決まってるさ。 俺もお前も、学校では最上位だったろ? それにシャルフトさんの部隊も協力してくれるんだし、ウェイルさんたちも協力してくれる」


 「ノリノリだねえ。 ま、私も似たような感じ」


 雲よりはるかに上から降下し、右下の高度計が500mほどを指した所で、モータは機体を水平に戻した。 

 探照灯で照らされた夜闇に異形の戦斗機が映る。


 「全機状況を報告!」


 エンジアさんから通信が入る。


 「こちらモータ・メイディア! 異状なし!」


 「バルルは大丈夫~」


 「ツバサ・ミロク、いつでもいける!」


 「シャルフト機、異状ありません」


 「プルパラ、全無人機状態良好。 両発動機状態良好。 異状なし」


 「……バロメア、……異常、……ないです」


 エンジア隊は妙に個性豊かな集団だった。

 軍隊ではよほどのことがない限りこんなバラバラな奴らを一部隊にまとめることはしない。

 そこに違和感がないわけではなかったが、異世界に単騎で送り込まれるような精鋭部隊だと話も変わってくるだろうから、そこは無視した。


 「プルパラ、観測情報を報告せよ!」


 「下方に攻撃目標を確認。 攻撃目標からの熱源反応は微弱であり、発動機はまだ起動されていないと思われます。 今すぐ起動したとして、離陸まで十分以上かかるでしょう。 随伴部隊として、小規模な回転翼機部隊と中規模の対空機甲師団が空港内に展開しています。 しかしながら中央滑走路付近の対空網は比較的薄いと思われます。 これは発着時の事故の危険性を低減するためでしょう。 これを逆手に取り滑走路に待機している敵本隊を叩くのが有効だと思われます」


 プルパラさんとやらは淡々と一連の情報を開陳した。

 あの高度でここまで細かく観測したというのなら驚嘆に値する技術だ。


 「分かった。 バルルとシャルフトは敵機の前面に回り、滑走路に攻撃を加えてくれ。 私とプルパラは空港付近を周回し、敵防空部隊を攻撃する。 残りは中央滑走路に合流するサブの滑走路上空を進み、横から攻撃目標に攻撃を加えてくれ」


 7人分の「了解!」の声と同時に、皆は全機一斉にエンジンを全開にした。

 攻撃目標担当の五人は二列縦隊になって滑走路上空に突入した。

 30mもない高度を維持しながら高速で空を滑っていく。

 割り込んできたヘリコプターを蹴散らしながら進み、僕らはついに敵巨大空中プラットフォームと相対することになる。 

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