stage2-S 『それいけブレイズハートMk.Ⅲ』
そして部隊は目標地点近辺へと到達した。
モンブランさんからその話を聞くと、僕は移動式のタラップを押して格納庫の中央へ行き、それを使って翼の上に上がった。
後部操縦席はそもそもが支援乗員用のものらしく、三面鏡のような翼と同じように青く発光するレーダー用モニターがまず目に入った。
シートに座るとちょうど目線と同じ高さに来るそれの上下には、乱雑に種々の計器が配されていて、それらが退廃的なネオンサインのように煌めいていた。
革張りのシートに座る。
両脇には前面のマシンからコードが絡みついた金属枠が突き出していて、どうやら腕を入れて何かを操作するようだった。
モニターの上側は空いており、モータが座る操縦席の上側が少し見える。
僕は立ち上がって開いたハッチの裏側を確かめ、開閉用のスイッチを探し出した。
それを押すと、ゆっくりとハッチが下がってきて、僕がシートに座って5秒くらいで完全に閉まった。
「OK、座った?」
通信が入る。
モンブランさんの声だ。
「はい」
「んじゃ、マカロン。 まず操作だけどシートの両脇にちょうど腕を突っ込めそうな機械があるわよね? 腕を突っ込んでみて。 あ、彼氏さんはいったん待っててね」
腕を組んで成り行きを見ていると、前の方からモータの小さい悲鳴が聞こえてきた。
「どうした!」
「いや、なんかくすぐったくて、……腕に何かが入って来るみたいな感じ」
通信が入った。
「うん、問題なし。 今ので神経と繋げる用の端子が体内の挿入されたけど、痛くない?」
「ん、まあ、ちょっとこそばゆい位ね」
「これで腕を通してあなたと機体がほぼ完全に接続されたことになるわ。 ある程度の慣れはいると思うけど、一遍自転車に乗れるようになったらそれを忘れることはないのと同じで、記憶を失っているとはいえ、かつての名パイロットなマカロンなら大丈夫だと思うわ」
機内に神聖なコーラスのようなエコー音が響き始めた。
『同期完了。 操作可能になりました』
心なしかモータの姉妹たちに似た合成音声がそう告げた。
「え~と、彼氏さん? 乗ってみた感想はどうですか?」
モンブランさんは今度は僕に質問してきた。
「え~、思ったより乗員が少ないんですね」
サイズ的には六人乗れそうだったが、ふたを開けると複座機だった訳だから、そこは気になった。
「まあ、制御回路を徹底的に詰め込んであるから、その分乗るスペースが減ってるってこと。 それを突き詰めて無人化したのが、貴方たちが戦ったMK.Ⅱに当たる訳。 この際言っておくけど、貴方の担当するのはレーダーと副砲ね。 あなたのシートの両脇にも人造人間用の操縦装置があると思うけど、その下に切り替えスイッチがあるわ。 それを切り替えると普通の人間用の操縦桿が出てくると思うわ」
言われた通りの場所で見つけたスイッチを押してみると、元あった装置が言われた通りに上に一個横に三個ボタンが付いた一般的な操縦桿がせりあがってきた。
「左が旋回機関砲の操作、右が試作型レーザー砲台の操作用になってるわ。 右の操縦桿の第二ボタンでレーザー砲台についたカメラに画面を切り替えられるから、それを照準器代わりにして敵を狙えばいいわ」
言われた通りスイッチを押してみると、さっき入ってきた格納庫の入り口が映った。
「分かりました」
「私はどうすればいいの?」
モータが口を挟んできた。
「勘で動かせば動くわ」
簡潔である。
「もうちょっとなんか無いの?」
「そういう風になってるからしょうがないわ。 マカロン自身の体に刻み込まれた感覚に従っていけばどうという事はないと思うわ」
モータは渋々肯定の意を示した。
「んじゃ、これからやることを説明するね。 あと5分程度で空港上空へと到着すると思うわ。 私は上空から偵察機を飛ばして支援を行うから、マカロンは例の異世界の人たちと一緒に空港へと降りて。 私の予想が正しければ、今回戦う相手は『超大型空中プラットフォーム パープル・ヘイズ』。 空飛ぶ空母、というより、空飛ぶ要塞とでもいうべき兵器だね。 強力な兵装を多数搭載し、また強力な装甲を持つこいつは、離陸されてしまえば手が付けられないだろうね。 今回の作戦では上空からの急降下攻撃により、ママの機体の離陸を阻止することを目的としているわ。 エンジンや翼に損傷を与え、安定離陸を不可能にすれば、敵の作戦行動を阻止できるはずと考えての計画よ」
その時、空襲警報を思わせるアラートが響いた。
「敵空港上空に到着。 んじゃ、今からマカロンたちを空中で投下するから。 健闘を祈るわ」
そういって通信は切れた。
それと同時に機体が大きく揺れた。
カメラの向こうでは格納庫の床が真ん中から割れ、クレーンで牽引された状態のまま機体が下りていくのが見えた。
そして機体は『フローティング・コフィン』の真下の空中に吊るされる形になった。
揺れはない。
「ほんじゃ、行くよ。 3、2、1、GO!」