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stage2-O 『超大型軌道工作車 スピーディー・スパイダー』

 「え……、な、何を」


 モータが震える声で言った。


 「そうだ! 何を言ってるんだ。 彼女が人造人間なわけないだろう!」


 「ま、ぱっと見で人造人間だと分かる程ママの腕は低くないよ。 殆ど人間と同じ組成だから物も食べるし排泄もする。 違いってったら再生産性と成長性の有無くらいね。 マカロンの事だからそれに気づかれるまでに関係を深めているってことはないと思うけど」


 いけしゃあしゃあと彼女は言った。

 そもそもの前提が非現実的すぎるために却って反論は難しかった。


 「違う! ……私は」


 「嘘ついてるって感じじゃないね……。 ははーん、記憶喪失か」


 心臓をひねりつぶされたような圧迫感を覚えた。


 「私たち人造人間はある種の不具合のせいで強い衝撃を喰らうとたまーに記憶へのアクセス回路が飛んじゃうんだよね。 そこんとこ直しちゃえば何の問題もないけど、あんたに関してはその限りではないわね」 

 

 彼女の言葉を真実として採用しても何の矛盾もなかった。

 そのことが怖かった。


 「マカロン。 本当に忘れたの? お淑やかで妹思いなお姉ちゃんを、妙に勘が鋭くてエキセントリックだけどお人好しであんたと仲が良かったモンブランを、マザコンで気持ち悪いくらい献身的だけど世話焼き好きで誰にでも優しいムースを、くそ真面目で融通が利かないけど頭がよくて空気が読めるメロンソーダも、そして人一倍責任感が強くて争いを好まない性格だったあんた自身を……本当に忘れてしまったの?」 

 

 語りかけるような口調での詰問が終わり、場に残されたのはエンジンの唸り声だけだった。


 「……違う!」


 「ん?」


 モータが言った。


 「私はモータ・メイディア! 私がそう信じたいんだからそうに決まってる! それに、どうせあんたの妹たちはもう殺してしまったんだ! 仮に私がお前の妹だったとして、もっとたくさんの妹たちの仇なんだ! 本当に妹に情があるなら、有無を言わせず撃ってこい!」


 言葉を吐き出すたびに声が大きくなっていき、それはやがて熱い感情の奔流になっていた。


 「ビストー! 敵戦車を攻撃! 首都攻略の通り道を確保する!」


 「分かった!」


 そうして僕らはエンジンを吹かし、敵軌道兵器へと迫って行った。


 「そういう主観第一的な考え方、結構好きだったよ。 やっぱあんた、変わってないね」


 そう言いながら敵も速度を上げ、八基の工作車から旋回砲を展開し始める。


 「かかってこい!」


 敵の主砲がゆっくりとこちらを向く。

 その砲撃準備ができるようにならないうちに僕らはそいつに肉薄し、攻撃を加えた。


 「待て! 馬鹿野郎! そいつから離れろ!」


 ウェイルさんの怒声が耳に入り、それを受けて動く前に、敵戦車の側面にあったシャッターが開いた。

 機首を上げ、高度を上げることで僕らがいなくなった空間を、鉄骨を束ねたような機械腕が薙いだ。


 「すまん! そいつには工作用の機械腕を積んであった!」


 「早めに言ってくださいよ!」


 旋回してみてみると、シャッターから突き出していたのは太い鉄骨の束二本を単純なジョイントで繋げたような代物で手の部分には工業製品的冷酷さを漂わせる武骨な作業用マニュピレーターが取り付けられていた。

 それが左右一本ずつ本体から突き出していた。


 「ひゅー! よく避けたねえ! お姉ちゃんびっくりだよ」


 「黙れ!」


 モータはヘリにのみ許された信地旋回してアームにミサイルを十発叩き込んだ。

 右腕の二の腕に当たる部分が赤熱し、捻じ曲がる。


 「いって! 威力高! マカロン! あんた何やったの!」


 「あなたの後ろにいる人の助力」


 「へ?」


 シャルフトさんのロケット弾の乱舞が後ろから主砲を刈った。めくれ上がった砲塔の残骸が転落する。

 それに巻き込まれたチェーンが二本千切れ飛んだ。


 加速度にむらが生じた工作車二基が線路上で横転し、爆発した。


 「いででで!」

 「機関車をやれ!」


 ダリルさんとウェイルさんが敵戦車に突入した。


 「喰らえっ!」


 ダリルさんが敵戦車の後方(相手の視界が向いていると考えられる方)をこれ見よがしに横切り、敵戦車の背後ではウェイルさんが爆弾のようなものを投下した。


 敵戦車が大きく揺れ、金属がこすれる轟音とともに減速し始めた。


 「何をしたの!」

 

 「中枢破壊用の焼夷弾だ。 もうまともに動けるようには見えんな」


 機関車が大破したことにより、これ以上の戦闘が不可能になった敵戦車にウェイルさんは煽りの言葉を吐いた。


 「う……。 いたたた。 マカロン、なかなかいい仲間だね……」


 「ごめん、……お姉ちゃん」


 「ん……もしかして思い出した?」


 「いや……。 でも、貴方とは昔から知り合いだったような気がする」


 「現にそうなんだってば。 ……じゃあ、その実感に免じて、ちょっと頼まれてくれるかな?」


 「何を?」


 「私達も、ママがやろうとしていることがさらなる虐殺につながることだという事は分かってる。 多分元老院の命令で、やりたくもない虐殺に加担しているのだと思う。 姉妹はみんなこのことに気が付いている。 ママ大好きなムース含めてね。 でも、ただでさえ孤立してるママが娘にも裏切られたと感じてしまえば、ママにとっては耐えられないと思う。 そう考えて静かにしてたけど、このように連邦の施設に対する攻撃命令が出たとあっては、もう取り返しのつかないことになりかけているわね。 どうか……ママを止めに行ってほしい」


 「……うん。 分かった」


 「ママは首都外縁の空港にいる。 ここを叩いてしまえば元老院に対して作戦中止の言い訳も立つ」


 「……行ってみる」


 姉妹の会話がそうやって終わりそうになったところで、姉は最後に一つだけ付け足した。


 「最後にいこと教えてあげる。 あんたの姉さんたちはみんな生きてるよ」


 「!」


 「メロンソーダは腕が一本吹っ飛んで修理に回さないといけなくなってるし、ムースはかろうじて飛行部分で脱出したけど浸水の影響が大きくてこっちもドック入りしてる。 モンブランは流石に丈夫なもんで、さっき支援に行くって電信がきた。 私だってきっと死にはしないさ」


 「……うん。 ありがとう」


 そこまで言ったところで機関車のダメージが閾値に達し、ただでさえ戦闘時の7割くらいになっていた速度が完全にゼロまで落ち込んだ。

 僕らは巨大戦車の残骸を飛び越して、彼女のお願いを果たしに出た。 

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