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stage2-N 『中央鉄道』

 首都と港湾部を繋ぐ産業用の鉄道網はやはりずたずたに破壊されていた。

 うちの陸軍も路線破壊用の工作車は保有しているのだが、枕木だけ破壊していく一般的なそれとは違って、線路自体がねじ曲がっていたり、線路の敷かれた土台が破壊されていたりと、極めて凄絶な様相を呈していた。


 「一体、何が……。 この戦争では、連邦側が圧倒的に有利だったんですよね?」


 「はい。 そうですが……」


 シャルフトさんの言葉に答えながらも、僕は眼下の光景を見つめていた。

 本当に酷いありさまだった。

 僕らがたどっている線路は六車線のレールが平行に伸びているかなり大規模な物であり、それ以外にもそれと合流する別の路線や車両基地、給水塔、鉄橋などの関連施設がある訳だが、それらもみなもれなく破壊されていた。

 単一の兵器による攻撃だとは到底思えなかった。

 しかし、それは僕らが今まで遭遇してきた兵器を思い浮かべてみれば、すぐに反証が成立してしまう程度の考えだった。


 「確かにえらいことになっているが、これで装甲列車や線路脇の砲台に煩わされることもなくなるだろう。 今回に限っては幸運だ」


 「ですが、やはり、連邦内でクーデターのようなものが起きていると考えるのが自然ではないでしょうか」


 僕はダリルさんの言うとおりだと思う。

 先ほどから航空部隊や地上部隊が迎撃に来るといった当たり前のことが全くなかった。

 それがかえって恐ろしい。

 連邦の首都は大陸でも最も高い山のふもとにある。

 眼下の地形は段々と険しくなっており、山岳地帯に近づいていることを感じさせる。

 さらに一時間ほど飛んだが、見たのは線路や沿線の施設の廃墟だけだった。


 「これは!?」


 ここ一時間分で初めて見た鉄道施設の廃墟以外の物、それは異形の戦闘機の残骸だった。

 先ほどの『フローティング・コフィン』と同じ球形のコクピットと大型の二重反転ローターの歪んだ残骸が線路の真ん中に落ちていて、火災を起こしていた。


 「分からない。 少なくとも俺が設計したものではない。 そして、おそらく落ちてからそう時間は立っていない」


 僕らはその上を通り過ぎ、先へと急いだ。

 山がちになった風景にやがて日が落ちかかり始めた。 空母が落とされたのが午後零時くらいで、そこから空中戦で一時間、艦隊戦で三時間。

 それに首都に向かっている間の時間も加味すれば妥当なところだろう。


 「なんかやな予感がする……」


 モータがぼそりといった。

 今までの流れだとここで敵機が出てきたのを思い出して僕は不審を覚えた。


 「モータ……」


 「ん? 何? ビスト―?」


 「いやな予感がするって……」


 「あらあら。 お久しぶりね」


 通信に割り込んでくる声があった。


 「これほど混線上等の通信装置を採用したのを後悔した日はないね」


 「お気持ちお察しするわよ」


 目の前に現れたのは大型の軌道戦車だった。

 本体は横から見たら平べったくて上底が中央から偏った所にある台形になった二車線にまたがる大型の車両で、傾斜が緩い方に20㎝砲一基をはじめこちらにハリネズミのように砲台を満載していた。

 逆に傾斜がきつい方にはエンジンでも積んであるのか、武装はない。

 それを牽引する機関車が二基本体の乗っている二車線に一基ずつ走っていて、更に砲台群の根元から生えた計六組の太いチェーンで六本の線路に一機ずつの工作車を牽引している。

 それが通った後の線路は破壊されており、またそれが線路上を走っているという事はつまりこれが破壊工作を行っていたという事だ。


 「では、自己紹介でもしておこうか。 私は、ミタラシ・メイデン。 ローゼン・メイデンの長女だ」 


 「矢張りメイデン博士の……。 見たところ連邦にまで牙をむき始めたようだな」


 「これはこれは。 ……ウェインさんでしたっけ。 あなたの設計した機体はなかなか使い心地がいいですよ。 妹たちもそう言っていましたので、代わりに感謝しておきます」


 「お褒め頂光栄だ。 『妹』達も戦場に立っているような言い草だが。 それに、その戦車を一人で動かしているような言い方も気になるな」


 「では後者から答えさせていただこうかな。 貴方が出ていった後に、連邦の技術者がちょっとした改造を加えたの。 結果として、搭乗者の神経と兵器の制御部を接続して、完全に意のままに動かせるようになっている訳」


 「は? そんな技術がある訳ないだろう。 これでも生命工学畑の知識には自信がある」


 「確かに普通の人間となら無理だけどね。 私たち人造人間ならその限りじゃないかな」


 「人造人間……。 そうでした! 確かに博士の技術を悪用して作られたのは、人型兵器でしたが!」


 「そうそう。 私は全身アルミニウム骨格に人造筋肉をかぶせた機械人形。 もちろん私以外の五姉妹全員もね」


 機械人形……全く耳馴染みのない単語だった。


 「あなたの兵器は結構そこん所の調整がしやすかったらしいのよね。 そういう発注をひそかにかけてたわけだし」


 「……」


 「一個目の質問についてだけど、それの答えも『正解』ね。 出奔した次女のモンブランが『フローティング・コフィン』。 三女のムースが『インセイン・ランナー』。 四女のメロンソーダが『アイスボール』。 そしてモンブランと一緒に逃げた五女マカロンが、あんたらのとこにいるはずよ」


 『M…… Meide…』→『Macaron Meiden』。

 僕は驚愕に打ち震えた。  

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