stage2-M 『超巨大四胴型強襲揚陸艦 インセイン・ランナー合体形態』
敵艦の中央が跡形もなく消し飛んでいた。
たった一発の砲撃で。
僕はすぐその攻撃がどこから発射されたのかに思い至った。
「あの戦斗機は元々強襲揚陸艦用の支援機の発注を受けて作ったものだ。 あれは超弩級の揚陸艦の船体と合体し、艦橋としての機能を果たすことができる」
霧の向こうから現れたのは、恐ろしく大きな船の姿だった。
普通の戦艦の三、いや、四倍以上の横幅があり、長さもそれと同じぐらいの巨大な艦。
それが敵艦にとどめを刺したことは明白だった。
なぜなら、61㎝砲の規格外に巨大な砲身が甲板上で威容を放っていたからだ。
「貴様! 何をした!」
「やったやったぁ♪ ママに褒めてもらおっと♪ ……役目を果たしたまでよ」
通信が繋ぎっぱなしになっていた。
「仲間殺しが、か!」
「うるさいなあ。 ん……そーいや、ママ、あんたらの話してたかも。 いいこと思いついた♪」
その瞬間主砲の砲身が下を向いた。
「この船は艦橋部に極端に機能を集中させている。 そこを潰せ!」
主砲の装填が終わる前に僕らはエンジンを全開にし、敵艦の上へと躍り出た。
艦の後ろ半分は航空甲板になっており、彼女がワンオペで船を動かしている現状、艦載機に動きはない。
しかし、前方に搭載された四連装砲八基とより大口径な連装砲三基、更にハリネズミのように配された機関砲やロケット砲が火力をぶつけてきた。
僕らはそれをよけながら攻撃を加え始めた。
しかし、相手に大したダメージを与えることはできなかった。
いかんせん僕らの中に爆撃機はないので、さすがに戦艦以上に手強い相手にはいいとこ蟷螂之斧。
「うるさいなあ。 お前ら。 早いこと落ちてくれない?」
余裕綽々である。
「やっぱ子育て下手だったんじゃないですか。 博士」
「ママの悪口を言うな!」
夫婦漫才みたいなやり取りがなされるのは戦場では極めて異常な光景だ。
敵艦隊は完全に沈んでしまっており、それゆえ友軍も歩みを進めてくる。
そして戦場は超兵器が制海権と制空権を奪われた状態をごり押しで解決する惨状と化していた。
「……全く効いていません」
シャルフトさんが弱弱しく言うとおり、友軍機が複数撃ち落とされ、友軍の攻撃も全く効いていない。
そんな紅茶開く状態がしばらく続き、場の趨勢がこちら側不利に傾き始めたその時、
「うわっ!」
敵艦の対空砲撃をよけながら攻撃をしていた僕の機体が突如として大きく姿勢を崩した。
「嵐だ!」
体勢を立て直して足元を見ると、さっきまで平穏ではあった海が波立ち、超悪天候の様相を呈している。
しかし空模様は変わっていない。
異常な光景だった。
その高波に敵艦はもまれていた。
「そうだ! あいつは重心が高すぎるせいで航行時の安定性が著しく低く、それゆえ元々の強襲揚陸艦としての運用は見送られた。 それがこんな荒波にもまれてみろ、長くはもたんぞ」
「なんてもの設計してるのよ! ぐえっ」
通信に割り込んでくる声は明らかに狼狽していた。
「東の方の伝説に神様の起こした嵐で侵略者を撃退した話があるそうだ。 きっと今回もそれなんだろ」
「馬鹿なことを! ……ひゃぁっ!」
恐ろしく高い波が敵艦の船腹を叩いた。
そうして、まるで島のような巨体はあっけなく横向きに持ち上がり、荒れた海面に叩きつけられた。
規格外の超弩級戦艦は、あっけなく転覆した。
「設計ミスをさらされてお恥ずかしい限りだが、とりあえず危機は脱したようだな」
ウェイルさんが言った。
敵艦は海の上にまだかろうじて浮かんでいたが、海上に見える部分はゆっくりと小さくなっていっていた。
どうやら船底部の格納庫が浸水してしまったようだ。
「こちらビストー。 敵艦を撃沈しました。 敵港湾内に戦闘可能な残存部隊は確認できません。 どうぞ」
「分かった。 しかし、今の嵐は……」
「不明です。 ……僕たちはこれより敵首都への殴り込みをかけます」
この港と首都とをつなぐ鉄道路線がある。
根拠地を差し出す前に友軍先遣部隊がそこに殴り込みをかけていたはずだった。
「分かった。 我々はこの港に橋頭堡を築く必要があるので、君たちを援護することはできないが……健闘を祈る」
僕は敬礼をした。
そうして僕らの部隊は首都へと歩を進めた。
結局その場の誰しもが嵐に原因には気づかなかった。
それは港から離れ、首都へと向かって高高度を飛行していた。
連邦の新鋭機に共通する球形の制御部分から上下に同型の大型二重反転プロペラが生えた異形の空中要塞。
異世界由来の技術によって天候改変能力を取り付けられたこの機は、本来ならいまだ連邦への攻撃を続けている反乱軍の部隊を撃破する任務を仰せつかっていた。
しかしながら、いざ港に来てみるとそこでは連邦の国章を掲げた戦艦が破壊の限りを尽くしていた。
まず嵐を起こし、敵を無力化しようとした。
僥倖というべきか、相手は呆気なく沈んだ。
そこに件の部隊もいたので、却って彼らに攻撃を加えようとした。
そこで入電があった。
首都でクーデター。
掻い摘むとそのような内容だったが、それ以上の情報はあちらにも入っていないようだった。
操縦席の少女は舌打ちをした。
元老院の体制が長く持つはずなどないと常々言っていた彼女には、今回がその終わりではないのかという観念がとり憑いていた。




