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stage1-B 『迎撃~友軍航空部隊』

 ワンダラーは本来誘導爆弾の運用のために開発された機体だが、僕は注文に当たって浮遊発動機の増設、空間制御魔法の設置以外にも機首部分に大口径(2インチ)の貫通砲二門を装備してもらった。

 これはあまりの高コストに計画中断を余儀なくされてしまった非業の機体『ハンドラー』を可能な限り再現したものだった。

 僕はここ4年の兵役で初めてそんな砲門を開放するスイッチを押した。

 先ほどの観察から、これらの機体は二次元的な機動力は極めて高いものの、三次元に関してはあまり自由度がないように見受けられた。

 よってワンダラーの旋回力、機動力を生かして真後ろに付き、発動機部分に貫通弾を叩き込んでやればただでは済まないだろう。

 僕はそう考えた。

 この作戦は功を奏した。

 一番近くにいた一機を打ち落とし、さらに旋回してもう一機を狙う。

 発動機への直撃こそ避けやがった物の、翼に深刻な損傷を受けてはこちらも長くはもたなかった。残り二機。

 こちらよりも高くにいたやつを先につぶすべきであると判断し、今度は下から突き上げるように肉薄する。

 今までに一番派手に、まるで風船に空気銃を撃ち込んだかのように景気よく相手は爆散した。

 翻って最後の一機の真上をとり、急降下しながら発砲する。

 ど真ん中からかなり致命的な傷を受けた時に特有の黒煙(飛行員たちには専ら『魂が出てる』と呼ばれていた)が上がったのを確認し、僕は一気に機首を上げ、僚機のいる方向へと飛んだ。

 そこで僚機たちを襲っていたのは先ほどの機体の親玉、クロウに対するクロウチーフみたいなやつだった。

 さっき倒した奴と比べて全体的に4倍くらいの寸法があり、空軍(うち)の基準でもかなりの大型機に該当する代物だった。

 見渡す限り僚機の状態は、バスター一機大破、チェイサー三機中破、無傷五基占めて九基。

 僕を含めて十二人編隊だったから、おそらく二機やられたということになる。

 そいつらの安否も心配だが、とりあえず喫緊の課題はこれ以上の犠牲を増やさないことだ。


 「こちらエンジア・ブローニ三等空佐! 全機撤退を最優先せよ! 繰り返す! 後追いはするな! 撤退を優先せよ!」


 そう通信機に檄を飛ばして、僕は装填済みの誘導爆弾を全弾撃ち込んだ。

 おそらく今までの僚機たちへの攻撃を見る限り機体両翼前面にかなり多くの誘導爆弾発射装置が取り付けられているようだ。

 揚空機の構造上、中央に発動機がある以上弾倉は翼の中にあると考えるのが自然だ。

 おそらく先ほどのように後ろに付いて打ち込み、弾倉もしくは油圧系統を狙うが最も確実性のある攻撃だと思われる。

 僕はこれ見よがしに敵機の視界内を通って高度を下げ、そのまま縦に大回りしてやつの背後に付く。

 ここ2年ぐらいやってない動きだ。

 流石に堪える。

 ゆっくり息を吐いて体の痛みを抑え、右の操縦桿の人差し指にかかるボタンを押す。

 貫通弾が二発発射され、中央部の装甲を抉る。

 途端、動いた。

 飛行員として培った勘で敵の微動を察知し、高度をわずかに落とす。

 圧倒的な数の針弾が頭上を通過した。

 まさしく危機一髪。

 誘導爆弾の装填が完了する。

 自動装填装置を最近換装したせいでリズムが合わないのは常々不満だったが、短い間隔で火力を放てると考えれば涙が出るほどありがたい。

 僕は機首を跳ね上げ、照準をあちらさんに合わせて左操縦桿にかけた人差し指を動かした。

 誘導爆弾の嵐が揚空機においては基本的に装甲が薄いとされる下部を何度もぶっ叩く。

 その衝撃で相手が若干浮き、そして機首が下がった。

 相手は高度を下げ、こちらは上げている。

 物理学の基本原理に従って高度を同じうした二機は再び先ほどのドッグファイトを開始した。


 『全機該当空域より撤退! どうぞ!』


 「でかした! 射影機は動いてるよな! どうぞ!」


 『現在送られてきた映像を解析中です! 現状我々の記録には残されていないと言うことしかわかりません! どうぞ!』


 「わかった! そのまま解析を続けてくれ。 どぅっ!」


 前方、今度は敵機の翼の上で何かが動いた。

 注視してみると今まで見えなかった機関砲と見られる小型砲身が翼の角部から計8本突き出している。 

 つまり中央から全体として放射状に弾が飛ぶようになっている。

 瞬時に射線を確認し、このコクピットがそのうちの二本の交点にちょうど重なっていることに気づく。

 僕は右の操縦桿を全力で前に倒し、機体を前方へと移動させた。

 高度を下げるのは間に合わないと言う読み通りに、本当にギリギリ射撃を避け、空白地帯に入った。

 ワインダー。

 本来は揚空機の編隊や大型機に使う拡散攻撃だが、それを一体に使ってきやがった。

 と言うか後ろを取ってきたやつにここまで凄まじい放火を浴びせてくる揚空機は未だかつて見たことがない。

 はっきり言ってオーバースペックも良いところだ。

 しかし戦況に変化がないと言うわけではない。

 変形機構に負荷がかかったところに貫通弾が直撃し、それに耐えきれなくなったフラッターが左右とも引きちぎれる。

 操縦席にかかった黒い液体が、相手の油圧系統が完全に死んだことをこの上なく雄弁に語っていた。

 おまけにもう二発お見舞いしてやると、発動機の片割れに直撃したそれが決定打となり、相手は大爆発と共に錐揉み回転を始めた。

 そして高度をどんどんと加速度的に下げていく。

 油圧不全のままああ言うふうな対数関数型の降下を始めた揚空機が体制を取り戻すことができる公算など皆無に等しい。

 それはその勢いのまま、真下の雲海に飲み込まれていった。


 「こちらエンジア。 敵機を撃墜した。 これより帰投する。 どうぞ」


 そして僕は砲門を閉じ、一般的な巡航速度をとると、そのまま空港の方へと進路を変更した。

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