stage2-K 『空中巡洋艦 フローティング・コフィン』
「空飛ぶ、巡洋艦?」
「そうだ。 胴体の中央を見てみろ」
そこには金属とガラスで構成された小さな球形のキャノピーを一回り大きい円形の金属枠で覆ったような球状の機械があった。
「あれが艦橋になっている。 そこから両翼の17.8㎝砲六基十八門と中央部の大型ロケット砲二基四門と大型回転機関砲一基、そして胴体に設置された多数の機銃と連装10㎝砲、無人偵察機と爆撃機構を制御している」
敵は大量の砲塔をいからせ、こちらを威嚇した。
「シャルフトさんの言葉を俺がすぐ信じたのを疑問に思わなかったか? 連邦の工廠にいたころ、『異世界由来』という名目の技術が提供されたことがあった。 大気からエネルギーを吸収し、燃料なしで動くことができる。 その上弾薬や自己修復資材まで自給できる悪魔的な技術だ。 この戦争の常識すら変え可燃代物を使って設計したのが、あいつだ」
「そんなものが」
確かにその羽の一つ一つには連邦の国章がしっかりプリントされていた。
「俺が一年前に連邦の手から逃亡したという事は言ったと思う。 俺はそれからもしばらくは連邦軍内の反元老院派から情報を仕入れていたんだ。 俺が亡命して10日後くらいの事だったと思うが、試験飛行中に『フローティング・コフィン』が消息を絶ったという報せを聞いた。 国民感情の悪化を防ぐためにそもそも存在すら明るみにされていなかった試験機の消失に関してはそれ以上情報が帰ってくることもなく、俺も事故で墜落でもしたのかと思っていた。 どうやら奴さん、家出してたらしいな」
フローティング・コフィンはそのまま高度を上げて僕たちの前についた。
通信機からノイズが走る。
「連邦の人間ね。 ここで会ったが運の尽き。 人殺しは黙って死になさい」
敵は攻撃を開始した。
「対空爆雷とロケット砲が危険だ! 注意しろ!」
前方の機体下部でハッチのようなものが複数開き、黒いものがぽろぽろと落ちる。
高度を上げ、敵を上方から攻撃することにする。
さすがに大型機よりは僕ら小型機の方が小回りが利くし最高速も早い。
一瞬で距離を詰めることに成功する。 当たれば即死は免れないとはいえ、艦砲はそこまでの脅威ではない。
しかしながら機関砲の乱射が恐ろしく、恐ろしく小さい当たり判定にあっても機銃弾がかすめたような金属音が時々聞こえる。
フライヤーのミサイル攻撃が幾つかの砲塔にジャストミートし、敵機が揺れる。
シャルフトさんのロケット弾が敵左翼に連続して直撃し、敵機が左に傾く。
「やってくれたね」
冷たい少女の声につられて下を見ると艦橋の両脇の開閉型のハッチが開き、下から巨大な黒い機械が一基ずつせりあがってきた。
両翼に配されたそれなりに大きい艦砲よりも更に二回りくらい大きい鉄の塊だ。
向こうを向いた宝箱が開くようにその上部が持ち上がり、180度開く。
そうして極めて長い砲身を持つ連装砲が二基完成した。
「ロケットランチャーには自信があるのよ」
危険要素のもう一つが火を吹いた。
工場地帯で戦った一台目の戦車のそれとほぼ同じ、移動する兵器には到底不釣り合いなサイズの巨大ロケットが僕の機体をかすめた。
機首を下げると、次弾装填はまだ終わっておらず、次弾は飛んできていなかった。
「大丈夫か!」
「なんとか! そちらは!」
「三人とも敵機の後ろについて機雷を掃除している。 言いたかないがはっきり言って膠着状態だ。 畜生!」
三人の方にロケットが撃ち込まれ、三人が体勢を崩す。
僕はその機に乗じて急降下攻撃を仕掛けた。
バランス崩壊覚悟で撃った大口径砲が右翼に直撃し、付け根当たりの布張りが大方吹き飛ぶ。 敵機の攻撃が一気に停止する。
僕はバランスを崩した機体を根性で立て直し、機首を上げた。
「ちょこまかと、連邦の戦闘機はつくづくしつこいわね」
通信に割り込んできた少女のセリフに違和感を覚える。
「お褒めにあずかり光栄です。 所であなたは私たちを『連邦』の人間だとお考えの様ですが」
その違和感の意味を解する前にダリルさんがそれを明らかにした。
「そうだ。 俺たちはむしろ連邦に反旗を翻している側だ。 お前もそうに見えるが?」
そしてウェイルさんが口を出した。
「じゃあなんで連邦の空母に乗ってたのよ!」
「連邦の国章をでかでかと掲げてるやつにだけは言われたくないな」
「そうよそうよ!」
息をのむ音がした。
「……信じるわ。 それより、あんた」
爆発音がして通信が途絶した。
左翼から黒煙が吹き上がる。
敵機の後方で再度の爆発が発生し、垂直尾翼と後部ローターがへし折れて分離した。
フローティング・コフィンは大きく体勢を崩し、高度を下げて行った。
さらなる一撃が左翼を打ち抜き、飛行装置は粉々に砕け散った。
「全機警戒態勢! 敵だ!」
「まさかまだママに意地悪する奴がいるとは、驚きました。 ちょうどいいです。 ママのためにも死んでいただきましょうか」
一難去ってまた一難。
雲を割り、新たな敵機が僕らの前に現れた。