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stage2-J 『襲撃』

 夜明けまで特別異変が起こることもなく、僕らは平穏な朝を迎えた。

 朝食として缶詰のビスケットと貯蔵用のチーズを腹に収め、その後今後の動向に関するミーティングが開かれた。


 「現在位置は首都のある大陸の付近の海上。 このままのペースで言えばあと4,5時間で到着するだろう」


 「もうそんなに来たんですか?」


 僕は驚いた。

 僕らが飛び立った場所から首都までは16000㎞近くあったはずだ。


 「俺の設計を信じろ。 こいつ設計上は巡航速度で時速900㎞ほど出るようになっている。 それに、彼女の魔法の効果だと思うが、俺たちが工場までたどり着くまでの時間を考えるとどうも俺たちのガンシップは1000㎞近く出ていたようだ。 計算こそしていないがこいつにも明らかにその影響が生じている」


 成程。

 女傑には感謝してもしきれない。

 

 「首都近辺まで近づくと、さすがにある程度の防空網が仕掛けられていることが想定される。 首都の対空警戒圏に差し掛かる前にこいつは乗り捨てておいた方がいいだろう」


 ウェイルさんは居住まいを正した。


 「この船で見つけた金庫を調べた。 中にはこんなものがあった」


 彼は書類の束をこちらに渡してきた。

 モータがそれを受け取った。


 「断定こそできないが、殆ど確実にそいつは連邦の機密文書だ。 しかも、連邦軍軍部とは独立した、元老院の下についた組織の物だろう。 その中には、人類滅亡につながる超兵器の使用が示唆されている。 連邦の首都近辺に隠されたとだけ書かれているこの兵器の制圧も、今回は行わなければならないだろう」


 僕はそこで昨夜の会話を思い出した。


 「何処かは分かってるんですか?」


 「さっき言った以上に詳しい事はわからん。 だが、人類滅亡さえ視野に入れた兵器だという事が書かれていた。 実は首都に忍び込んでいる工作員から相当な規模の軍事施設が急ピッチで建造中であるとの情報を仕入れている。 これが一か月前の話だが、件の兵器の運用のために何らかの別用途の施設に偽装して建設された施設である可能性が高い」


 「そこを叩くんですか?」


 「そうだ。 そこで、首都に侵入した暁にはシャルフトちゃんとお前たち二人、そして俺とダリルが二手に分かれて動く。 俺たちが元老院の『愚者』達を捕縛し、お前たちが敵兵器を制圧する。 敵施設は首都を囲む大河の中州に建設されている」


 「あなた達は大丈夫なんですか? 彼女の恩恵がなくても」


 ウェイルさんは肩をすくめた。


 「見くびるんじゃない。 これでも俺の機体には通常のガンシップとは比べ物にならない強化を施してある。 ダリルの機体もなかなかの名工の作品だ。 不足はない」


 「分かりました」


 「かなりハードな戦いになるだろう。 機体を点検しておけ」


 そうして話を終えた僕らは格納庫へ向かった。

 補給(『スペランカー』の場合は風車のブレードの交換と使い捨てベアリングの交換。  ここに替えがあるという事は僕の国に最高機密だったはずの技術が敵の手に落ちているという事を示していた)はきちんと行われていて、これなら『スペランカー』は二週間以上最高スペックを発揮し続けることが可能だろう。


 「大丈夫です」


 「オーケー。 敵軍港の上空に差し掛かっている。 最悪の場合緊急脱出の必要も出てくるだろう。 心しておけ」


 ウェイルさんがそう言った途端、格納庫の全体が大きく揺れた。


 「口は禍の門、か。 ……離陸準備! 急げ!」


 僕はそのまま『スペランカー』に飛び乗ると、エンジンを起動させた。

 完全に離陸体制が整うまでに何度も格納庫が揺れる。

 ウェイルさんがスイッチを起動し、ハッチを開ける。

 ハッチの向こうには空の奥へと流れていく黒煙が見えた。

 明らかに攻撃を受けている。

 そこで機体が大きく揺れ、地面が傾いていく。


 「行け!」

 

 僕らは一斉にエンジンを吹かし、ハッチから離脱した。


 「生きてるか!?」


 ちゃんと四人分の返答が聞こえる。

 このような離陸は極めてイレギュラーな行為であり、全員の離脱成功は二度と期待してはいけないほどの幸運、というか僥倖と言えた。

 後ろから爆発音が聞こえた。

 旋回してみると、僕たちの乗ってきた飛行空母が右翼から黒煙を噴出しながら前のめりに高度を下げていた。

 そして雲の下から飛び込んできたロケットがその船底に突き刺さり、それは五つの破片に爆散した。

 それが雲間に消えないかのうちに、僕らの前の雲塊を割って巨大な航空機が姿を現した。


 「あれは!?」

 

 「面倒なのが来たな」


 それは胴体だけでも一般的なフェリーくらいの寸法で、その前の方から同じくらいの長さで艦砲がぎりぎり乗るくらいの幅の甲板が左右に突き出している。

 そこから等間隔に十本ずつ金属製の骨が放射状に生えており、扇形の鉄枠に白い厚布を張った羽が重なりつつ付いている。

 つまり三分の一金属三分の二布張りの翼で、布を含むと翼の幅がちょうど胴体の長さと同じくらいになる。

 プロペラは双翼に三発ずつ。

 そして胴体の前先端に二重反転型のが一発。

 また、後方の尾翼部分は額縁型の双胴機のように平行に二つ伸びた航空機の尻尾部分が垂直尾翼の根本の垂直翼でつなげられているわけだが、この額縁の間にも同じプロペラを三個縦につないだようなプロペラが接地されており、全体としては八発機になる。


 「こいつは、空中巡洋艦、『フローティング・コフィン』だ」

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