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stage2-G 『僕らの昔話』

 別に言いたくないという事はなくて、しいて言うなら何を言うべきか困るくらいだった。 だから僕はそうためらうこともなく話を始めた。


 「僕の、昔から貴方の先輩と同じような境遇に立っていました。 父親、叔父、祖父、そして僕を生んですぐ亡くなったらしい母親も、僕の一族はみんなパイロットでした。 うちの一族は戦争や人命救助で多くの功績を積み、爵位を持っていました。 その上、曽祖父が興した飛行機を生産する会社が成功して得た財もありました。 うちは『航空貴族』とさえ呼ばれていたんです。 僕もほんの小さなころからガンシップを駆って、一度はガンシップに関しては厳しかった親父に『俺よりも才能がある』なんて言われたこともあります。 それから僕はかなり本格的にパイロットを目指すようになり、ギムナジウムに通いながらパイロットとしての訓練を積み重ねてきました。 僕がモータと出会ったのはまだこの戦争が始まる前の平和なある日でした」


 その日のことは恐らく一生忘れ得ない物であろうと思う。

 その日、高等ギムナジウムの技術展覧祭の最終準備のために、僕は朝のまだ日が完全に昇り切ってない時間に家を出た。

 僕は祭の高揚感のためにまるで眠気を感じていなかった。

 むしろ軽い足取りで、僕は学校へ続く山間の道を歩いていた。

 ギムナジウムは大型風車を設置するために山の上に建造されており、この登校路は生徒たちには極めて不評だった。

 そんな山道に、朝闇の中でもわかるほどの違和感があった。

 ギムナジウムへの道の中腹に、巨大な土の山があったのだ。

 勾配が厳しいとはいえ、ギムナジウムまでの道はしっかりとタイルで舗装されている。

 僕はその山の前で足を止めた。

 周囲に意識を向けて原因を探してみる。

 道の脇の木々の一部が倒れていた。

 僕は道から身を乗り出してそこから下を覗き込んだ。

 焦げたにおいがする。

 下にはガンシップのようなものの残骸が見えた。

 近くにはギムナジウムの試験飛行場がある。

 試験機が事故を起こしたのだとしたら一大事だ。

 僕は湿った赤土の地面に手を突きながらゆっくりと斜面を下りた。

 下にあったのはやはり見覚えのない一人乗りガンシップの残骸だった。

 墜落してまだ間がないのか、機体は未だ黒煙をもうもうと上げている。

 僕はコクピットを調べた。

 小柄な少女がいた。

 僕はびっくりして身を引いた。

 仮に生きた人間なら見逃してはいけない。

 そう思って再び僕は機体に近づいた。

 コックピットのキャノピー越しに彼女の姿を覗く。

 彼女はとてもガンシップにコクピットには似つかわしくない赤と黒とを基調としたドレスを着ていて、機体のコントロールパネルに突っ伏して気絶していた。

 キャノピーは落下時の衝撃でかフレームが歪んでおり、簡単に開いた。

 僕は彼女を抱き上げる。

 ある程度重量感と熱を感じる。

 おそらく生きているだろう。

 僕はそのままゆっくりと低い態勢のまま坂を上り、上の道まで運ぶ。

 そしてその体を傷つけないようにゆっくり地面に降ろした。

 顔を近づけてみると規則正しい呼吸音が聞こえてくる。

 確かに生きてる。

 彼女は恐らく身長150㎝位の小柄な女の子だった。

 短めの金髪に白っぽい肌、そしてそこまで高くない鼻と薄い唇。 

 僕らと同じ人種の人間に見える。

 見えていたドレスはひざ下ぐらいのワンピースで、上に赤いベストを羽織っていた。

 傷はない。

 そこまで確認したころで僕は彼女の首元に何かを見つけた。

 地面に膝をついて顔を近づけてみると。 それはドッグタグだった。

 そこに書かれた文字はかすれていて、完全には読めなかったが、おおよそ『M…… Maide……』と書かれていた。

 名前はわからないが、苗字は恐らくMaideaだろう。 この国に限らず、大陸中でよくある苗字だ。


 「おい! 聞こえるか!」


 活を入れる。

 うめき声を上げながら彼女は眼を開いた。


 「だっ! だれ!?」


 「僕が聞きたいところだ。 君の名前は?」


 「私は……」


 彼女は頭を抱えた。


 「覚えてない……」


 記憶喪失か?


 「とりあえず病院に行こう。 どこに怪我をしているかわからない」


 しかし彼女は僕の言葉を聞いて明白な拒絶の意を示した。


 「いやっ!」


 「なぜだ?」


 「……わからない。 でも知られたくない」


 状況が分からない。

 もう二押しぐらいしてみるが彼女の拒絶は揺るがなかった。 しかし彼女を置いていきたくはない。


 「分かった。 じゃあ、僕の家にいったん行こう。 君のことは秘密にできるはずだ。 ……立てるか?」


 彼女の肯定のジェスチャーを確認してから、僕は彼女に肩を貸して、立ち上がった。


 「そうやって僕はモータを連れて帰った。 これが一年ちょっと前の話だ。 内内で調べてみたが、彼女の正体は結局分からずじまいだ。 ガンシップに関しても船籍すら不明。 らちが明かないからとりあえず彼女はうちに住み着いた。 モータってのが、僕の国の古語で『漂流』って意味だ。 暫くは記憶は戻らないけど、それなりに楽しくやっていた。 彼女はガンシップのパイロットとしての才能があったし、こんな名前を気に入ってしまうような奴だから、僕にはいい話し相手遊び相手だったよ。 でも、3か月前にこの戦争が始まって、戦況悪化によって親父とは離れ離れになってしまった。 だから僕たちだけで反乱軍に参加した」


 僕は話を終えた。


 「……いまだに何も思い出せないけど、こいつとの生活は楽しかったよ。 あんたならわかると思うけど、血のつながりの欠如は必ずしも情愛の欠如を意味しないわ」


 「……確かに、二人の間には親愛の情がふつふつと……」


 モータの顔が一気に紅潮した。


 「そんなんじゃないからね!?」


 「モータ、そんな一瞬で否定しなくても」


 「え~、ほんとですか?」


 女傑は意外とその系統の話が好きだった。

 シチュー鍋を持ったウェイルさんが入ってくるまでモータはシャルフトさんの追及を否定し続けた。

 僕は案外まんざらでもなかった。 

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