stage2-D 『拠点防衛式重戦車 アイスボール ~ 工場最深部』
「ビストー! すまんがしばらく耐えてくれ! 俺も援護する!」
ロケットランチャーは後装式の六連装砲で、そこから発射されるロケットは一般的な一人乗りガンシップを優に超える長さを持つものだった。
おそらく直撃しようものなら即死は免れないそれを何とか前後移動でかわしながら、僕は言った。
「モータ! 撃ってくれ!」
「……わ、分かってるわよ!」
誘導ミサイルが何発か放たれ、対空機関砲によって破壊されなかった何発かが三機のキャタピラの一番前の奴の付近に着弾した。
車体が大きく揺れるが、攻撃はキャタピラの台形のカバーにダメージを与えただけで、決定打にはなりえなかった。
片方のランチャーから一発ずつ、30秒程の間隔で撃っていたロケットをいったん打ち尽くし、相手はランチャーの蓋を閉じ、代わりにロボットアームを突き出してくる。
「とっとと落ちてくださいますか!」
やられてたまるか!
右翼の前、距離で言うと機首の2mくらい前に腕の先端が来る。
ちょうどコクピットは敵戦車の砲塔の真ん中と同じ線上にあるから、もう片方の腕も後ろの方の似たような位置にあるはずだ。
左に少し動いて、前進後退してもロボットアームに当たらない位置をとる。
次弾装填を終えたモータがさらに打ち込んだミサイルが相手のミサイル砲に直撃し、装填済みミサイルに誘爆する。
車体が一層大きく揺らぐ。
ロボットアームの先端には一般的なエンジンに巨大な砲口を取り付けたような機械が付いていて、そこから太さのバラバラなチューブが何本もアームに巻き付くように伸びていて、本体に接続されていた。
「おい! ビスト―! そのロボットアームは」
キィンッ。
長剣で金属の塊を打ったような音が耳に入った。
そして、「燃え尽きなさいませ!」
「モータ! 高度を下げろ!」
目の前に横向きの巨大な火柱が現れた。
火炎放射の直撃は免れたものの、慣性によって引き寄せられた炎の残滓が、コクピットに降りかかる。
「熱っ!」
「だ、大丈夫!? 死んだらやーよ!」
「そんな縁起でもないこと言うんじゃない! 熱っ!」
僕が慌てている間に後ろを飛ぶウェイルさんのナパーム砲が右のロボットアーム(前に見えてる方)の付け根に直撃し、ロボットアームが上にぶれる。
僕は高度を上げ、先ほどまでは前方のキャタピラを攻撃する関係で前方にいたモータを撃つリスクのために封印していた機関砲をぶっ放した。
根元を撃たれたロボットアームが着弾位置からちぎれ落ちる。
下から上がってきたモータのミサイルが前方のキャタピラに第二撃を与えた。
カバーが弾け飛び、キャタピラが顕わになる。
「痛くてございます!」
敵が悲鳴を上げる。
「こっちのセリフだ!」
そう叫びながらウェイルさんは二発のナパーム弾を同時に打ち込んだ。
粘度を持った炎が戦車の後方にまとわりつく。
その炎熱に耐えかねてか、敵戦車が攻撃をやめる。
その機に乗じて、僕はダメージを与え続けたキャタピラにとどめを刺した。
金属製のベルトが吹き飛び、金属のホイールが接地する。
火花を上げながら敵は横滑りして道に面した工場の壁に車体の右後ろをこすりつける。
それはそのまま壁を破壊して回転しながら向こう側に潜りこんでしまった。
そのままスピードを上げ、先へ進む。
「やったな」
そのあとも道は続いているが、追ってくる気配はない。
「やったね! かっこよかったよ!」
「モータ。 まだ本番はこれからだぞ」
今いるところの少し前で峡谷は大きく広がり、巨大な丸い窪みへと接続していた。
その先に煙突がある。
その窪みへと入っていくと、直径8㎞はあるだろう空間には所狭しと工場が立ち並び、黒煙を上げていた。
僕らはその上を飛び越え、中央の煙突に向かっていった。
塔という物は往々にして末広がりなものである。
その煙突の束の根本も、著大なレンガ造りのコロッセオのような建物になっていた。
「リアクターはその中だ。 直接攻撃は難しいが、ちょうどここから見て真後ろにサブの排熱装置がある。 排熱でただでさえくそ暑い工場がもっと熱くなるのを嫌がったせいで、そこにしかないんだな、これが。 この暑がりはメインの水冷システムだけじゃ力不足だ。 故にそこさえ潰せば参っちまう」
そう軽口をたたきながらウェイルさんは中央の塔のまわりを回って裏の方へ飛んでいく。
工場の防衛は地上の要塞に大きく頼っているようで、峡谷の中からは殆ど攻撃はなかった。
塔の裏にでは巨大なファンが回っていた。
「熱暴走のエレガントなやり方を知ってるか?」
そう言いながらウェイルさんはファンの前にナパームを撃ち込んだ。
本来このファンは熱い空気と冷たい空気を交換するものだが、目の前で大火災が発生することで熱い空気と熱い空気とを交換するガラクタになってしまう。
そんな仕組みだ。
「じゃあ、うるさい虫をはたくとしようか」
さすがにこんな時間にもなると通報を受けた軍団が我々を討ち取るために到着しつつあった。