stage2-C 『隠された工場地帯』
「この下だ」
雲の上、夕日の中でも、工場の場所はすぐに分かった。
雲より上に付きだす警告灯の群れと巨大な煙突の束。
あまりにも異様なその建築物は工場の真ん中にあるものだとウェイルさんが教えてくれた。 雲の上で旋回して、煙突からある程度離れた位置で雲にもぐりこむ。
雲の下には大地を走る罅のような巨大な峡谷と、その中に張り付く工場群が見えた。
「いいか」
この少し前にウェイルさんが彼の作戦を説明してくれていた。
「この工場は中央にあるリアクターからのエネルギー供給によって動いている。 そこを叩けば、工場全体が機能不全に陥るだろう。 続きは工場の状況を見てからになるが、勝てる賭けだ」
彼にはまだ腹案があるらしかった。
先ほどの煙突の根本にあるのがそのリアクターらしい。
「工場地帯の周縁部には多くの対空装備が設置されているが、それらはみな峡谷の上の大地に作られている。 故に、対空防衛圏の外にある峡谷の端から中にもぐりこみ、リアクターまで飛ぶのがいいだろう。 対空兵器は下への攻撃が不得手だと相場が決まっているからな」
その言葉の通りに、中央から大きく離れたところまで、ガンシップでも余裕をもって通れそうな巨大な裂け目が続いている。
僕らは空の上で機体をよじり、垂直に高度を落としていった。
そして峡谷の上に差し掛かったところで、僕は大きく機首を上げた。
垂直近い態勢で落ちていたガンシップが峡谷の中で水平姿勢になる。
「みんな~、大丈夫?」
一番大丈夫そうなヒンジが言った。
彼女の機体は小型ヘリだ。
他の三人が無事を報告する。
「こんなのは親父に嫌というほど叩きこまれた操作だ」
僕もそう言ってシーケンスの成功を証明した。
STOL機は操縦が難しいし、この機体にはさらにそれを難しくする隠し玉が仕込まれていたが、これでも僕はこの国の英雄と呼ばれた男の息子だ。
夕闇の中、僕&ヒンジ、ウェインさん、ダリルさん、シャルフトさんの順で僕たちの姿をとらえたものはしばらくいなかった。
やがて両脇に工場の建物が現れ、峡谷を横断する配管、ベルトコンベア、クレーン、線路などが現れるようになる。
僕は砲門を開放し、機関砲の雨を浴びせて障害を取り除きながら、ひたすら進んだ。 いつしか空襲警報のサイレンが鳴り始める。
ヒンジも搭載した誘導ミサイルを飛ばし、僕を支援してくれた。
最初は二基のガンシップが入ってぎりぎりの幅だった峡谷が段々広くなっていった。
そうして工場の中枢に入り込んでいくにつれ、両脇の道に急行した砲兵や対空車両の姿が見られるようになった。
ヒンジはそれを見つけてはミサイルを撃ち込み、僕もワイドショットを起動して両脇の道を攻撃していった。
僕たち四機は、そうやって工場を破壊しながら突き進んでいった。
しかし恐ろしく広い工場だ。
煙突の位置から考えてまだ道の半ばにも達していないだろう。
その時、視界の右側に動くものがあった。
そちらの方を向くと、僕の見たことないほどの巨体を持つ黒灰色の戦車が崖沿いにひかれた道路の上をそれに見合わないほどの速度で僕と並走していた。
ガンシップと並走できるのだから化け物じみた俊足だ。
それは全砲塔をゆっくりこっちへと向けた。
対空高角砲と思われる連装砲が車両のフロントの排土板の上に三基、そしてそれを挟みこむように対空ミサイル射出装置が九門ずつ、車体の後方にはこちらを向いた角形のロケットランチャー二基(ランチャー一基が、縦に並んだ『スペランカー』三基が丸ごと入ってしまいそうなほど大きい)と、大型クレーンくらいの太さのある折りたたまれたロボットアームをその下に一本ずつ積んだ大型砲台が付いている。
それを支えるのが三機の独立した二輪のキャタピラだった。 そんな怪物が工場群の間口の面した崖沿いの道路の上を、積み上げられた荷物やバリケード、小型の作業車を蹴散らしながら僕を追ってきていたのだった。
「あれもあなたの設計ですか?」
「ああ。 攻撃性能こそ高いが居住性が最悪で試作機二基で没になった代もんだ。 おそらく乗員の人権を無視してるんだろうな。 おい、ヒンジ! キャタピラを狙え! あのデカブツは一基でもいかれたらもうまともに動けん!」
「そこの未確認機! 止まりなさいませ!」
「何を言ってるんだヒンジ……。 違う! 誰だっ!」
通信に割り込んできたのは少女の声だった。
「君の知り合いか?」
「いえ、違います」
「お止まりなさらないのならばこのロケットランチャーを以って撃墜いたします!」
僕らと同じくらいの少女の声は、僕らの会話に頓着せず、機械的に警告の声を発していた。
「嘘だろ……!? あいつら、なんでこんな事を……」
「沈黙は否定の答えとみなします! 迎撃態勢!」
砲塔が少しジャッキアップされる。
ロケットランチャーの蓋が開き、ロボットアームが展開する。
「まずい! ヒンジ! 撃て!」
「そ、そんなあ……」
ヒンジが引き金を引きあぐねているうちに、相手は攻撃を開始した。