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stage2-B 『超大型要塞爆撃機 クレージーリングス』

 視界に入ったのはとても空を飛んでいるようには見えない巨大な兵器だった。

 下を向いた巨大なプロペラエンジンが複数基、金属のリングや円環状のパイプ数本でつながれた基礎の上に八基の対空砲台に囲まれた艦橋が据え付けられており、さらにその砲台一基一基に大型の砲台が伸縮を繰り返す金属製のアームで接続されている。

 そのパーツのあちらこちらにでかでかと連邦の国章がプリントしてあった。

 悪趣味だ。


 「なんですか、これは!」


 「『クレージーリングス』。 先遣隊として敵地に侵入し、自ら簡易型の要塞となって侵略の橋頭堡を作るための兵器だ。 恐らく大規模な随伴部隊がいるはずだ! いったん退くぞ!」


 「了解!」


 その時。


 「新たな敵影!」


 ダリルさんの勧告と同時に僕の視界内に全く見覚えのないガンシップが飛び込んできた。

 真っ白い、三角形のシルエットをしたその機体は、四本の火柱を上げながら敵に突入していった。


 「あれは!? 何なんですか?」


 「全翼型のガンシップだ! 俺も何機か実用レベルのモデルを作ったが、しかし、おい!」


 その白いガンシップはかなりの速力で敵機の方へと突っ込んでいき、そのアームの一つに攻撃を加えた。 

 おそらくロケット弾だろうその攻撃を受けたアームが大きく折れ曲がり、接続されていた砲台が下を向く。

 そして敵機をかすめたガンシップは再び旋回し、ダメージを受けた砲台に正確に第二打を加えた。

 砲台が爆発し、脱落する。


 「ちっ! 全機、旋回! 白い全翼機を援護しろ!」


 「分かりました!」


 「まかしとけ!」


 「やったるよぉー!」


 敵機の周りを大きく旋回しながら状況をうかがっていた僕たち三機は、そのまま向きを変え、敵機へと肉薄していく。

 まるで体と機体とが一体化したような感覚に包まれる。

 こちらに向けてかなりの弾幕が放たれているはずなのに、それらが着弾したという感覚もない。

 僕は機関砲を展開し、その引き金を引いた。

 同じタイミングで四機全機が攻撃をし、全身全霊の火力が敵機を襲う。

 まるでショートでもしているかのように各部から火花が散り、見えない巨人に捩じりあげられたかのように砲台が、アームが、プロペラエンジンが、リングが歪み、凹み、壊れていく。

 そして、敵機の中央から巨大な火柱が上がり、敵機はひしゃげたパーツごとに分解しながら、雲の下へと落ちて行った。


 「やったねーっ! ビスト―!」


 「旗艦がやられたんだ。 随伴部隊も我々を追ってくることはないだろう。 ……しかしあんなに脆い設計だったはずはないんだがな」


 そんなウェイルさんの言葉に割り込んでくる通信。


 「あなたたちは、誰ですか?」


 僕やヒンジと同じくらいの年齢の少女の声だった。

 この場でそんな通信を仕掛けてきそうな存在は一人しかいなかった。


 「あなたは白い全翼機のパイロットですね?」


 「はい」


 「ならよかった。 僕らは反乱軍本隊の生き残りです」


 「あなたたちもあれを、『連邦』を潰しに来た人なんですね?」


 も? 


 「私は、シャルフト。 元老院を潰しに、この世界に来ました」


 「この世界に?」


 分からないことだらけだ。

 

 「はい。 こことは違う世界からです。 私達、手を結びませんか?」


 「何故だ?」


 ウェイルさんが口を挟んだ。


 「この世界に来た仲間がほかに5人います。 彼らとは逸れてしまったのですが、連邦の首都で落ち合う取り決めを事前にしています。 ですから、一刻も早くそこに向かいたいんです」


 「一人で行くのが寂しいのか? 嬢ちゃん」


 「そんなこと、慣れています。 でも、複数人で行動した方が、安全です。 それに、この機体にかかった魔法は、貴方たちの機体をも大幅に強化してくれますし、当たり判定も減らしてくれます」


 『当たり判定』は軍隊用語ではない。

 彼女が正規の軍人ではない可能性が大きいとみてもう何が何だかわからない。

 そもそもここまで正直に言うものなどいようか。

 僕はこの戦争ですっかり疑り深くなってしまっていた。


 「分かった。 ……ビスト―、こいつの言葉は恐らく真実だ」


 「なぜですか?」


 「自慢じゃないが俺には人を見る目がある。 それに、我々の攻撃の威力が異常に上がっていたのも、彼女が連邦の機体に一目散に突っ込んでいったのは事実だ」


 「はい。 私もこの空域を飛行していたんですが、突然上がってきたあの機体を見て、攻撃を加えに馳せ参じた所存です」


 確かにあの戦闘中は操縦桿も妙に軽く、意のままに機体が動いてるような感じがした。


 「分かった。 信じよう。 軍人は迷信深いもんだ」


 「お互い、健闘を祈ります」


 「よろしくねーっ」


 ヒンジののー天気な言葉を聞きながら、僕は考えていた。

 クレイジーリングスと言ったか、あの機体は、はなぜ僕たちを感知できたのか。

 僕たちと奴とは、厚い鉛色の雲を隔てていたはずなのに。

 答えが出ぬ間に、いつの間にか白いガンシップは僕らと並走していた。


 「では、首都に向けて、行きましょう」


 「ちょっと待ってください」


 僕は彼女の言葉を遮った。


 「首都って、直行するつもりですか!? 僕たちは南の海上に向かっていたんですよ!」


 「でも、直行しないと、手遅れになるかもしれません!」 


 確かに爆撃機編隊は相当数侵入していたし、連邦の虐殺はまだ続くだろう。

 できる事なら僕だって直行したいところだ。


 「元老院さえ潰せば、私たちの脅威は無くなるんです」


 「それはそうですが、補給はどうすればいいんですか。 食わなきゃ戦ができないのは人間に限った話じゃないですよ!」


 「ならこんなのはどうだ」


 ウェイルさんが口を挟んできた。


 「ここから首都への道の間に警告に隠された秘密工場地帯がある。 そこを襲撃し、燃料や弾薬を分捕ればいい。 幸い規格は同じだ。 それに俺はあの工場の構造が完全に頭に入っている」


 本来なら賭けに近い作戦だったが、さっきの戦いのスペックを実現できるなら、まだ勝算はあると思われた。


 「やりましょうか。 プロペラが後ろ向きについてるからと言って、燃費が高いという訳ではありません。 いけますよ」


 「ありがとうございます!」


 僕たちは進路を変更し、工場地帯を目指すことになった。 

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