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stage1-A 『始まりの空』

 古来より魔法でも科学でも説明のつかない不思議な現象に遭遇するのは、僕たち飛行員だと相場が決まっている。

 僕の爺ちゃんは前の戦役の最中に空飛ぶ巨大な金属の魚と遭遇したというし、ハンデア叔父さんは巨大な機械人形とやりあって生還したと自慢していた。

 これは僕の一家に限ったことでなく、引退した父が経営していた酒場に集まる飛行員たちはみんな似たような自慢をしていた。

 嘘ではないにしろ、彼らの証言は何かの見間違えではないか。

 そういう思いはまだほんの少しあった。

 養成学校で最先端の機械工学をみっちり叩き込まれた僕には、いくら空の男たちが信用に足る人たちだとしても、にわかに信じられる話ではなかったからだ。

 が、今僕の目の前でその可能性が消え去った。

 養成学校を首席で卒業し、空中警備隊の一員になった僕は、王都から半径10000ヤード圏内の哨戒に当たっていた。

 申し遅れたが僕の名はエンジア・ブロー二。

 これでも女の子だ。

 僕は今日昼食を終えた直後、こんな指令を受けた。


 『王都北部の森林地帯にに異常な大きさの飛行魔物の群れを確認、迎撃に上がれ』


 これは『異常』の定義がここ20年更新されていないせいで、工業発展の影響で魔物が活性化しつつある昨今ではよくある命令だった。

 私の機体は、主席にのみ与えられる特権としてオーダーメイドで作ってもらった『ワンダラーエンジアカスタム』。

 ブロードソードのような細身の機体の根本に操縦席を配し、独立稼働する発動機八基をその周りに円環状に浮かばせた、わが麗しき愛機。

 とにかく馬鹿みたいに速力に特化したこの機体に搭乗した私が現場に到着するのは極めてよくあることだった。

 今回もまた例に漏れず、いの一番に王都の北にある巨大な森林地帯の上空の巨大な魔物の群れの目の前に滑りこんだのは私だった。

 安全距離を保ちながら見てみた限り、黒い霧のようなそれはおそらくキラービートルのでかい群れだろう。

 連中はうるさいわりに輸送機の旋回砲でも余裕で相手できる脆いやつらだから、この機体に積んである誘導爆弾で十分に処理できるだろう。

 私はそう考えた。

 しかし魔力が濃い。

 キラービートル如きがここまでため込むことは稀だ。

 両側の発動機四基を下に向け、旋回能力を重視した形態に移行する。

 照準器で群れの形をなぞり、全砲門を開放する。


 「チャー、シュー、メーン!」


 私は学園の同期たちの間でいつの間にか定着していたフレーズで3カウントをかまし、操縦桿の上部を押下した。

 機体の側面、開けておいた発射口から連続して32発の誘導爆弾が飛び出し、空中で曲がって照準で示した方向に一目散に飛んでいく。

 爆炎、爆炎、爆炎。

 黒い霧が一気にその勢力を削がれる。

 なんの問題もない。

 私は計器類の真ん中に固定された通信機を外し、口元に添える。


 「こちらエンジア。 群れはそこまで厄介なもんじゃない。 おそらく私だけでやれる。 どうぞ」


 『オーケー、エンジア。 ですが、こちらの計測器はいまだ異常を示しています。 油断しないでください、どうぞ』


 「注意する。 どうぞ」


 私はそう言って通信機を戻し、誘導爆弾の次弾を装填する。


  「……!」


 ペダルを踏みこみ、一気に高度を下げる。

 先ほど私がいた位置を魔導弾の嵐が包み込んだのを確認、操縦桿を大きく倒し、一気に速力を上げた。  

 魔導弾。

 知能が低い魔物が魔力を行使するときには魔力を固めて飛ばしてくる弾のことだ。

 しかし魔物の中には魔導弾を飛ばすことすらできない体当たりしか能がないやつも多く、キラービートルなんかはその典型だった。

 しかし、向こうの群れの奴はみんな魔導弾を飛ばしてきている。 紫色の光弾が機首や発動機を貫通する。

 専用機は最先端の空間制御魔法によって、操縦席を除けば敵の攻撃が全く当たらないようになっている。  

 私は誘導爆弾の装填が完了したのを見て機体を大きく旋回させ、紫色の魔力の弾幕の薄くなった空間に機首を向け、発動機を最高出力に設定した。

 かなりの反動が掛かり、そして機体は敵の群れに突入する。

 そしてその真中で、全弾発射をかました。

 爆炎が一瞬で魔力に引火し、黒い霧の柱が大爆発する。


 『エンジア、その空域の魔力が急速に上昇しています! 現状を報告してください!』


 「さっき爆破したばっかりだぞ!」


 『……ということは……、私の経験からして何かが転送されてくると考えるのが自然です! その場から緊急離脱してください!』


 管制官は10年以上この仕事をしている熟練者だ。

 幹部候補生の私でも、軍においては目上の人間に逆らうことは歓迎されないという事実からは逃れられないし、何より私は彼女のことを信用していた。


 「分かりました!」


 と。

 突然前方の青い空の中に夜空のような空間が生じ、それが鋭い輪郭の四芒星を形成する。

 そうだ、学校で習ったことがある。

 これは異世界とこの世界とを繋ぐ門のような存在だ。

 そしてその中から、四体の黒い影が飛び出した。

 発動機を逆噴射させ、大きく方向を変えてその物体と距離をとる。

 そして再び旋回し、機首を対象に向けた。


 「こちらエンジア! 未知の飛行物体を確認! 僚機に連絡して引き返させてくれ! 彼らでは力不足だ! どうぞ!」


 そいつらは絵本に出てくるカリカチュアされた燕のような凹四角形型の黒い―僕の目に狂いがなければ―揚空機だった。

 機体中央には二基の火箭式発動機が取り付けられ、翼の両脇には臙脂色のラインが引かれている。

 武装に関しては不明……しかし、余りにも動きが速すぎる。

 私のワンダラーならば問題なく追いつけるが、部隊に配備されている量産機では、……おそらくチェイサー(戦闘機タイプ)なら命をとられることはないだろうがバスター(戦闘爆撃機タイプ)ならまともな試合は期待できないだろう。

 それに私以外の隊員は殆ど新兵と呼んでよく、また戦闘センスなどは最低限の物しか持ち合わせていない。

 経験の絶対数を加味すると、さすがにこんなものと鉢合わせさせるのは酷だろう。


 『僚機より入電! 未知の飛行物体と会敵、迎撃に当たるも、戦況不利。 とのことです! どうぞ!』 

  

 遅かったか!


 「こっちのを潰したら行く! どうぞ!」

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