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踏切の、その向こう側。  作者: 大水戸りる
7/7

非日常は終わらない

……私は踏切の前に立っていた。

なんでだっけ……って、そっか、今日も学校じゃん。通学路だし。

寝起きレベルにぼんやりしてしまっている。……まさか、立ったまま寝てた?

ああ、昨日見たい深夜アニメがあって……それで夜更かししたからかな。

眼をこすりながら、スマホで時間を見る。

「……うっわ、何分ぼーっとしてたんだ、私」

5分はゆうに過ぎている。


と。カンカンカン、と音を立てはじめる。

まだ電車が来る気配はないし、遮断機もまだかなり上の方だ。これは間に合う……って、駄目に決まってる。

遅刻してでもそういうことはしちゃいけない。

が。不意に何かに背中を押されたような感覚で線路内に入り込んでしまう。

その衝撃で転びそうになるのが必死でこらえる。

「っととと、やっば……」

確かこういう時はさっさと線路から出る。はず。

躊躇うのが一番危ない。戻ろうとも一瞬思ったけど。

思ったより突き飛ばされたらしい。この距離なら前に行く方が近い。一気に前へと走り抜ける。

「あっぶな、セーフ」

電車はまだ来なかったのが不幸中の幸いだ。

「なんだったんだろう、今の感覚……」

でも。背中の感覚もだけど、それ以上に、心の中の誰かが。

前に進め、一瞬も躊躇うな、って。

そう言ったように感じたから、身体が勝手に動いた感じだった。

「……ばっかみたい」

あるわけないじゃん、そんなオカルトチックなことなんて。

いや、オカルト自体は好きだけど。あくまでも見るのが好きなだけ。

自分自身に呆れながらも、通学路をのんびり歩いていく。


「せーんーぱーいー?」

そんな私の平穏を崩す声。

「ん、おはよ、蒼葉」

「先輩、私見ちゃいましたよ」

「なにを?」

「ほら、ばっちり証拠動画です!」

ドヤ顔で私の踏切を横断する動画を見せる蒼葉。

「いやいや……」

「誤魔化そうとしても無駄ですよ!これを教師に見せられたくなかったらおとなしく私と一緒に……!」

「なに勝手に私を盗撮してんの」

それっぽい意見で返す。そりゃ危険行為をした私が一般的には絶対悪いけど。

「なっ……!そ、そこに気づくとはさすが先輩」

「いや普通にダメでしょ。つーか見てたんなら助けても…って、あれ」

さっきの動画に明らかな違和感を覚える。

「どうしたんですか、先輩」

「え、私、最初から駆け抜けてた?」

「ですよ。普段そんなことしないのでびっくりしましたよ」

「誰かに押されて、転びかけたんけど?危うく殺されそうだったんだけど」

「え、そうですっけ……?そんな風には見えませんでしたけど」

動画を少し戻す。うん、そんな感じにはとても見えない。あれ?

「……気のせい、かな。疲れてんのかな」

「せんぱーい、夜更かしは疲れますよー?無理はダメです!」

「なんで知ってるの、蒼葉……」

「だって先輩の好きな深夜アニメの放送日でしたし。先輩リアタイ派ですし」

なんで蒼葉は私のことをこうも詳しいんだ。

っと、あともう1つ気になること。

「あの踏切、ずっと待ってたのって私だけだったよね」

「そうですね、ずっとぼーっとしてる先輩も意外な一面って感じで素敵でした。皆さんスルーしていくとは見る眼がないですね」

「いや何度も踏切開いてんのに行かないやつは普通に変な人扱いされても仕方ないでしょ……じゃなくて。動画のこの辺まで戻して」

「ええ」

言われるままに動画を戻す蒼葉。本当にずっと撮ってたのか、蒼葉……。

「待って。この子。こんな子いたっけ?」

私が踏切を渡った少し前から、隣にやってきた同年代くらいの少女。

私の記憶だと他に人はいなかった……はず、なんだけど。

「蒼葉は覚えてない?」

「私は先輩しか見てませんでした!」

「うん、そういうと思った」

ま、いっか。距離的にも、動画を見ても彼女は何もしていない。

変に疑うのはよくない。忘れよう、寝不足から来る私の不注意だ。終わり。

「で、先輩。せっかくなんで一緒に登校してもいいです?」

まさかそれが目的でここで待ってたんじゃないだろうな、とも思ったけど。

「……まぁ、行き先同じだし、構わないよ」

断って後ろからずっと撮られてても嫌だし。

それならまだ視界に入っている方がマシだ。

「やったー!行きましょ、先輩、できればゆっくり!」

「割と時間食ったからのんびりしてたら遅刻するって」

「ああぁ、そんな厳しい先輩も素敵です、ぱしゃり」

「撮るな撮るな」

しかし蒼葉が不思議そうな顔をする。

「……あれ?」

「ん、どうした?」

「なんか記憶にない写真があってですねー」

「そんだけ撮ってたら忘れるものくらいあるでしょ」

蒼葉の言葉を特に気にせずに歩き続ける。

「ええ、普通はそうなんですけど……」

「なになに、心霊写真でも写ってたりとか?それなら見たいぞ」

そういうのは割と興味がある。足を止め、蒼葉の方を振り返る。

「なにが写ってたんだ?ほら、見せて見せて」

そう言うと蒼葉は困ったような表情で。

「あー、いや、たいしたことじゃないんですけど……先輩って、スマホ買い換えましたっけ?」

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