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踏切の、その向こう側。  作者: 大水戸りる
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蒼葉と南

「ごめん蒼葉。急に家に来たいなんて言って」

家に着き、蒼葉の部屋へ入った私は蒼葉に謝る。

「いえいえ、全然私は私は!!むしろ嬉しいです、一つ屋根の下、先輩と2人きり!」

「……蒼葉、お前には親どころか執事まで居るだろうが」

「そ、それはそうですけど!雰囲気です!雰囲気!」

こう見えて(というのは失礼な言い方だろうけれども)蒼葉は相当に恵まれた環境の下の生まれだ。

蒼葉には専属の執事までついているのだ。と言っても姿を見せることは滅多にないが。

……ただ、そこまでするなら蒼葉の情操教育もきちんとして欲しいところだ、真面目に。

「あの、先輩、大丈夫です?疲れてます?飲み物入れましょうか?」

「ん……ああ、ごめん、大丈夫だよ」

ああ、また意識が飛んでいたか。

「その、私……やっぱりその黒いスマホの方にヒントがあると思うんですけど……」

「そうなんだろうけどね」

それは私もわかってる。でもパスワードがかかっていて中が見れない。

でも。液晶が少し割れている。それはつまり、あの動画のものと同じの可能性が高い、ということ。

だけど私にそんな記憶はない。こんなスマホを買った記憶も、持っていた記憶も。

私の記憶の空白の数十秒に、いったい何が起きたっていうのだろうか。

「パスコードって4桁ですよねぇ。先輩の誕生日はどうです?」

紙に色々とよくわからない数式や数字の羅列を書いている蒼葉が私に尋ねてくる。

……蒼葉、こういう時はすごく真面目でいい子だと思うんだけどな。

「試したけどダメだったよ」

「むむむ……他には、よく使う暗証番号とか、語呂合わせとか……謎ときには自信あるんですけど……」

頭を抱える蒼葉。

「あーもー!悔しいですー!私が先輩のお役に立ちたいのにー!!」

何とかして私の役に立ちたいんだろう。今はその気持ちが嬉しい。

「適当に打ち込んでロックかかっても無駄に時間かかっちゃいますし……ある程度決め打ちしていかないとだから……」

頭を掻きむしりながら、私には理解できない数式を書いている。

横には踏み切り、とか、線路、とか電車、とか、アナグラム?とか。とにかくいろいろ書きこんである。

「と、言っても、2人で考えて思い当たるものはあらかた入れてみたんだよね」

自分の注意力のなさを呪う。あの時間、きちんと意識がはっきりしていれば……していれば?

待った。むしろ……逆?

「……私の体感は数十秒だった、でもこの動画では5分近く私は棒立ちしてる」

「ですね」

「私は今まで自分の感覚を信じていた。でも、疑ってみようと思う」

「っていうと……どういうことです、先輩?」

「私の記憶がおかしくなっている可能性だ」

自分を疑う。つまり、私は本当に5分ぼんやりとしていたのだと。

ではなぜそれを数十秒だと思い込んでいたのか?

そして。このスマホ。

「もしかしたら……」

私は。以前自分が投げやりになっていた時期があった。そんな時、私は。

……いや、今はそんなことよりも。

「……蒼葉」

「は、はい」

「私の過去は知らないんだよね」

「ええ、さすがに転校してくる前のことまでは」

……知られていても困るけどさ。転校理由とか。色々と。

「そして、このスマホ。これのことも知らないよね」

「ええ、初めて見ました」

「ってことは。これは、私の知らないもの。つまり、新品の可能性がある」

「そ、それは飛躍しすぎでは……」

「違ったらまた違う可能性を考えればいい」

パスコード。0000。

画面上部の鍵のマーク。その鍵が外れ、真っ黒なホーム画面が表示される。

「す、すごいです、さすが先輩!そうめい!てんさい!かっこいい!すき!」

語彙力。先ほどまでの賢そうな蒼葉はどこへやら。そして最後のは無視。

「蒼葉が知らない、ということは、つまりそういう事なんだろうな、って思っただけだよ」

それもある。でも、めんどくさがりな『私』ならきっとそうする。

初期設定のままにすれば忘れないから。

「み、見てみます……?何が中に入っているか」

「新品なら何もないと思うが」

……新品ならね。

とりあえず写真を開く。何もない。メールも0件。アプリも入ってない様子だ。

使ってない……それとも、まだ、使う時間がなかった?

「やっぱり新品なんですかね、これ……」

横から見ている蒼葉が考え込みながら呟く。

「それならなおのこと、何故私がこれを持っていたのか、ということになるけど……」

黒いスマホは置いて自分のスマホを改めて調べようとする、と、蒼葉がそれを止める。

「……待ってください」

「どうした、蒼葉」

「先輩。それ、眺めてたんですよね」

「記憶にはないけどね」

「ということは……ちょっと先輩、貸してください」

「ん」

青葉に手渡しする。

「ああっ、先輩の温かい手が」

「……真面目にやってくれ」

「すみません、つい素が」

「それが素なのかお前は……」

ほどなく真面目な表情に戻り、蒼葉が黒いスマホを調べる。そして。

「……やっぱり。ありました。履歴です」

蒼葉がスマホを私に見せる。

「……これは」

そこにあったのは、ブラウザの閲覧履歴。

「……まだ見てません。一緒に見ましょう」

意を決して頷く。そして、画面をタップした。

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