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踏切の、その向こう側。  作者: 大水戸りる
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「ずっと見てたの?」

「ええ、それはもう、先輩ですから!」

いい、それはいい。落ち着け私。今はもっと蒼葉に聞かなきゃいけないことがある。

「見間違いとかじゃなくて?私にそっくりな別の人だったとか」

「私が先輩を見間違えると思います?」

「思わない」

「でしょう」

再度ドヤ顔。むかつくけど話を続け……いや、待った。

私のスマホ……そういえばどこに行ったんだろう。

昼休みに触ろうと思ったけど見つかんなかったんだよね。特に見たいものがあるわけでもなかったから気にしてなかったんだけど。

「私のスマホ、どっかにいっちゃったんだよね。たぶん鞄の中にあるとは思うけど」

動画を見ても鞄にしまっているよう、に見える。

蒼葉はそれを聞くと待ってましたと言わんばかりに、

「あ、じゃあかけましょうか?私」

と。

「……私、蒼葉に番号教えてたっけ?」

「やだなぁー、先輩と私の中じゃないですかーもー」

「教えた記憶ないんだけど」

スルーされたので再度言う。

「教えてもらった記憶もないです、はい」

そう言いながらも蒼葉はスマホを取り出して操作する。そして。

ヴーッ、ヴーッ、と。バイブレーション。

やっぱり私の鞄の中にあるらしい。

この際どうして蒼葉が私の番号を知っているのかは気にしない。

どうせ沙紀あたりにきいたか、夕奈か緋色が教えたんだろう、きっと。

そう思いたい。そうであって。

「ありがとう」

でも一応例は言う。そして鞄の中を探る……っと、あった。

「液晶は……割れてないな」

「ふむー、むしろ落としてないかのような綺麗さ。まさに先輩と同じくらいのきれいさ!先輩のスマホですし当然でしょうけど!はあああ、やっぱり先輩素敵ですっ!」

「学校では100歩譲って我慢するが、街中でそういうのはもう少し控えてくれないかな、蒼葉」

「あ、はい」

私に注意され、すっと冷静になる蒼葉。

「あれ、でも……先輩のスマホ、買い換えました?」

「いや?」

最新機能とかにこだわりのない私が買い換えるのは壊れた時か、やりたいアプリが対応してないとか重いとか、そういうことがない限りない。

「先輩のスマホ、白系ですけど、もうちょっと青みがかってたというか、薄水色だったとおもうんですけど」

「うん、そうじゃん、これ」

私が手にしているのは蒼葉の言う通りのカラーリングのスマホ。

「いえ、そうじゃなくて、えっと、ああもう、いいや、秘蔵のデータですけどやむを得ません!」

そういって蒼葉は私に自分のスマホを突き付け、動画を見せる。

そこに写っているのはまぁ、知ってたけど私。

「立派な盗撮動画だな」

「私の記憶のメモリーだと言ってください!」

「意味重複してるから」

「そうですけど!じゃなくて!ここ!ここですよ!」

そう言って動画をズームして指さす蒼葉。

指した指の先は、私が持っているスマホ。

それは黒色のスマホだった。

「ま、まさか愛人用……!?先輩、やっぱり私に隠し事を……」

「……真面目にもう一度聞くよ。これ、本当に私?」

「え、ええ、断言します」

気圧されたのか、真面目にそう答える蒼葉。

「……あのさ、蒼葉」

「はい」

「私、こんなスマホ持ってないし、何なら見たこともないよ」

「え……?」

蒼葉もさすがに驚きの表情を隠せない。

それは私も同じ。血の気が引くような、恐怖感。

よく見ると、目も虚ろで。ただただ、ぼんやりと私のものではないスマホを眺めている私が動画に映っている。

「それに……私はそんなに長時間ぼんやりしていた記憶はないよ」

「で、ですね。短時間ならよく見ますけど、こんなに長いのは私も初めて見ました……」

おかしい。なにかが。


と、その時。先ほどと同じように、ヴーッ、ヴーッ、と。

バイブレーションが、鞄から聞こえる。外ポケットからのようだ。

嫌な予感がしつつも開けてみる。


黒い、スマートフォン。動画に映っていたものにとても良く似て……いや、きっと、同じもの。

「……どうして……これが、私の鞄に……」

「い、悪戯じゃないです?ほら、いまもどこかで録画してて、ドッキリ作戦だいせいこ―!みたいな!夕菜先輩ならやりかねませんし!」

「夕菜はそこまで悪趣味なことはしないよ」

「わ、私が悪趣味だっていうんですか!?」

「真面目に聞いて」

「はい」

「私も混乱してる。気が変わった。蒼葉の家に行こう。落ち着いて話したい」

「……ええ、先輩のお役に立てるなら」

私も蒼葉も、冷静になれていない。そして、なにより。

理由ははっきりとは言えないけど。

今、この踏切にとどまる。あるいは、渡るのが。何故か、とても怖かった。

私たちは道を引き返して、早足で蒼葉の家へと向かう。

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