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踏切の、その向こう側。  作者: 大水戸りる
2/7

違和感と日常

「……あれ」

気がつけば私は踏切の前にいた。

何か声が聞こえたような、何かしたような気がするけど、思い出せない。

記憶がここ数十秒の間、すっぽりと抜け落ちていた。

普通の人ならそれを気にすることかもしれない。

だけど私にはそんなことはしょっちゅうある。注意力散漫とはよく言われるものだ。

「でも今のはあんまりにもリアル……」

ゴォォッ。

がたんがたん、がたんがたん、と。

私の思考を遮るように。強い風と、電車が、通り過ぎる。

まるで考えるなと。何かが私にそう言っているかのように。

そして、私のそんな思考を持ち去って電車が過ぎ去っていったような、そんな気分になった。

……そんな気分になるなら、遮断機と一緒に私の気持ちも開いてくれませんかね。

「まぁ、いっか」

深く考えないことにした。妄想にでも浸っていたのかもしれない。

最近見たあの漫画とかあのアニメとか、ゲームとか、うん。多分そうだ。

踏切を越え、私は学校へと向かった。


「おはよー」

「あ、みなみー、おはよー」

みなみ、は私の名前。苗字は白神。白神南だ。

でも、なぜだろう。すごく今日は、私の名前なのに、違和感を覚える。

まるで、それが私の名前じゃないかのように感じる。今までそんなことなかったのに。

「どったの?元気ないよ、みなみ」

「やー、別に、なんでも」

誤魔化すように挨拶をしてきた友人、長野沙紀ながのさきに素っ気なく返す。

「ふっふっふ、みなみがそんな態度をするときは大抵何かあるときだ!さあ!この私に白状しろー!」

そういって後ろからがし、っと抱き着いてくる沙紀。

「やーめーろー、さーきー」

めんどくさいから引きはがしはしないけど言葉だけでも拒否はしておく。

ああ、別にコイツとはそういう恋仲とか百合的な関係ではない、お互いにそういう感情は持ち合わせていないのだ。残念だったな。

むしろそういうのは後輩の……。

「せんぱあああああああい!」

タックル。ああ、そうこれ、コイツだよ。で、痛い。めっちゃ痛い。

「今日はいつもより遅いじゃないですか!?どうしたんですか!?事故にでも巻き込まれたんですか!?」

涙目で早口にまくしたてながら、私に抱き着いてくる後輩の蒼葉帆奈美あおばほなみ

「そうなんだ。実は学校に来る途中、電車に轢かれちゃって」

わざとらしく声のトーンを低くして、

「ええええええええ!?大丈夫ですか!?怪我はないですか!?」

あまりの叫び声に、クラスメイトの数名がこちらを見る。全員が見ないのはこれが日常風景だからだ。

どうしてこうなった。私はこんな学校生活を送ると知っていたら転校しなかったぞ。

で、だ。そんなに肩を掴んで揺らすな揺らすな、眼鏡が落ちる。

「さっきまではなかったが怪我したかもしれん」

まだ痛いぞ。どんだけ全力疾走してきたんだお前は。


「えーっと……みなみ、どっちから突っ込んだらいい?」

見かねた沙紀が私に尋ねる。

「コイツからで。というかまず引きはがしてくれ、重い」

「レディに重いなんて言うのは失礼ですよ!?」

「レディはタックルなんてしない」

タックルされて倒れこんだところに乗っかられてさらに上半身を起こされて肩をぐらんぐらんと揺らされるものだからたまったものじゃない。

「はいはい、帆奈美ちゃん落ち着こうね、本当に事故に遭ってたら、みなみは学校に来れてないからね」

「ほ、ホントですか……本当に無事だったんですか……!?」

涙目で私を見つめる帆奈美。やめて。そんな眼で見られたら、冗談でも悪ふざけしてしまった私の罪悪感がすごいから。

「大好きな先輩にもしものことが合ったらって思って……私、居ても立っても居られなくて……教室の窓から見つめてたのに、いつもより来るのが遅かったから……それで、やっと来たのを見て、私、我慢できなくて……」

「いや、みなみの登校時間って、割とバラバラだよね?よく寝坊するし」

「だぞ」

遅刻はしないが割と今日みたいなギリギリになることもそれなりにある。

「でも家を出てからの時間はいつも同じくらいですから」

「え?」

「え?」

沙紀と私の声が意図せずシンクロする。

「な、なんでわかるのかな、帆奈美ちゃん」

なんとなく理由を察している様子で沙紀が尋ねる。

「先輩が心配で寝坊しすぎて遅刻しないか不安で不安で、それでいつも家を出るのを見届けてますから!」

とドヤ顔でとんでもないことを言ってきた。

ほら、沙紀が呆れているじゃないか。

「あ、だいじょぶです。夕菜先輩みたいに先輩の家の合鍵までは作ってませんから」

「夕菜ちゃん、緋色君の家の合鍵作ってるの!?」

「ええ、お揃いだね、って喜んでましたよ?」

「それって緋色君は喜んでないよね!?」

ああ、収集つかなくなってきた。

「……帆奈美」

仕方なく私も口をはさむ。

「はい、先輩」

純粋でまっすぐな瞳。常にそうあってくれ。ついでに心も純粋でいてくれ。

「悪かった。つけてくるなとかもう言わないから、一緒に登校しよう、うん」

「いいんですか!?」

眼を輝かせて嬉しそうに言う帆奈美。

「多分、その方がまだマシだね、みなみ……」

「野放しよりはリード付けてた方がマシだからな」

「そんな犬みたいな扱い……ああ、でも先輩になら犬扱いされても」

帆奈美はやはり、どこかに頭のネジを数本落としてきてるんじゃないのか?

「やめろ、そんな趣味はない。普通に接しろ、普通に」

「それが先輩のお望みとあらば!」

「多分今日1日持てばいい方だと思うな、私は」

「同感だ」

沙紀が苦笑して言う。引いていないのは、まぁ、夕菜の影響だろうな。

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