表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚者危うきに近寄る  作者: ペーパードライブ
3/5

理不尽な偶然

「それで、俺は何をすればいい!」

「これを操縦すればいいのだよ」


 白い何もない空間から突如として見慣れないものが出てきた。


「これはなんだ」

「見てのとおり、操縦桿さ。君はこれを操縦してあれを倒すのだよ」

「ええい、何でもいい」


 俺はその操縦桿を操作しようとそれに近づく。

 不思議とその操縦桿を直感のまま、何をどうすればいいのか分かった。


「どうだね、ちゃんと力は授けられているだろう。では頑張ってくれたまえ」


 そういってその謎の声の主からはもう声が聞こえなくなった。


 奴は一体何だったんだ……。まあいい、今はこいつを何とかするのが先決だ。俺が操縦すると、視界が広がった。これは、この街の景色か。ということは、この謎の空間は海の中にあったということか。


 その景色はかなり高いところから見下ろしたものと推測でき、どうやら俺は巨大ロボットか何かを操縦しているということらしい。そうか、なんとなく現状がつかめてきたぞ。早い話が、これで奴を倒せということか。


 俺はさっき自分の家を襲ったやつを捕捉した。こいつか、サイズは俺の操縦しているものよりも全然小さいな。これなら余裕だ。


 俺は敵に接近し、ロボットを操縦して敵を殴る。


 何回か殴ったところで敵の装甲がはがれてきて丸いものが見えた。これが核だな。俺はそれを思いっきり殴る。すると敵は大爆発を起こした。


 まずい、くっ!


とっさの爆発で俺は防御態勢をとるしかなかった。どう考えても死んだと思ったが、ロボットの装甲は十分固く、装甲は大破したが、俺のいる内部は無事だった。


 ふう、やっと収まったか。しかし、あれが最後の悪あがき、自爆みたいなものか。危なかったぜ。


 ようやく爆発による光が収まったので俺は徐々に目を開けた。その光景に俺は一瞬自分が夢ではなく現実にいることをにわかには信じられなくなった。


 町が消えているのだ。跡形もなく。さっきまであった町が。


 ど、どういうことだ……。


「游魔撃破おめでとう。立花君」


 さっきの謎の声が聞こえてきた。


「どういうことだ、これは!」

「君があの丸いコアを破壊するのが少し早かったらこうはならなかったんだがねー」

「ふざけるなよ!それじゃまるで俺のせい……!」

「君のせいでしょう~。トンネルに入ったのも君。游魔撃破前に爆発させる隙を作ったのも君。まあ、とりあえず倒したんだし、よかったじゃないの助かって~」


 俺は昨日トンネルに大した動機もなくフラッと入ってしまったことをこの上なく後悔した。


「じゃ、俺をもとの場所に戻せよ」

「君の家は消えたんじゃないの。戻すも何も」

「もういい!出口はどこだ!」


 謎の声の主はまた突然姿を消したのか声は聞こえなくなり、気づくと俺は外に放り出されていた。


 ここは、どこだ。あたりを見渡す。もう俺の知る街並みではないが、おそらくこれは俺が住んでいたマンションだ。


「おーい、だれかいないかー」


 俺はほかに誰かいないか懸命に歩いて探したが誰もいなかった。ポケットにあった携帯で母親に電話をかける。


「母さん、俺だけど、そっちに今から帰るよ」

「あんた、ニュース観たよ!よく無事だったねー!」

「あ、ああ」


 母親によると俺の住んでいたこの街では今のところ生存者はほとんど確認できていないとのことだった。

 

 実家に帰ると母親は泣いて出迎えてくれた。俺はもうてっきり死んだものと思っていたのだろう。無理もない話だ。


 俺はネットでこの騒ぎを調べてみた。その中で目を引くものがあった。


 あの生存者がこの街を消した犯人である。


 そういった趣旨の記事である。俺は言い知れない恐怖を感じた。この記事が面白半分で書かれたとしてもこれは真実に近いともいえるのだ。俺はあの町の壊滅的被害を抑えられなかった。


 しかし、俺にはああするしかなかったのだ。ろくに情報もなく、突然わけのわからないまま謎の敵と戦わされて。倒しただけでも感謝されてもいいのではないだろうか。もう疲れた。とりあえず今日のところはゆっくり休むとしよう。


 俺はそのまま寝てしまいそうなところだった。その瞬間、家の中から悲鳴が聞こえた。


 母さんの声だ。部屋に行ってみると母さんは死んでいた。


 これは……。


 後ろから気配がしたのでとっさに振り向くと刃物を持った男が立っていた。振り向く前から刃物を振りかぶっていたが、その腕をつかむことに何とか成功し、俺は男を投げ飛ばして事なきを得た。


「おまえ、何者だ!」

「貴様のせいだ……。俺は知っているぞ、貴様があの巨大ロボを操縦していたんだろう」

「俺のせい……か」


 俺にはわからなかった。世の中はなぜこのように理不尽にできているのだろうか。あの怪物を俺以外に倒すことができるものがいただろうか。


 いや、俺があの時トンネルに入らなかったらこの立場も別の人間がやっていただろう。俺が足を踏み入れた。それはただの偶然で、この世にそれほど深い意味はないのだろう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ