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愚者危うきに近寄る  作者: ペーパードライブ
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全消事件

 世の中なぜこうも退屈なんだ。


 俺はこの頃常日頃そう思って過ごしている。もちろん、そう思って過ごせること自体とても平和で感謝して享受するべきものであることはわかっている。だが、そのような幸せとされる生活があまりにも長く続くと人は麻痺してしまうのだろう。


 不幸なことでもいいから面白いことがおこってほしい。

 俺はこのように考えていたかつての自分をひどく恨む。


 大学1年の夏。私は世間一般では人生の夏休みとされる時期を過ごしていたが、その心は満たされているとは言えないものだった。とにかく退屈なのだ。生活に不自由なところもない。体は健康。人間関係も悪くはない。常に何か面白い出来事が起こっていないかだらだらとネットサーフィンをする毎日であった。そこで俺は何やら面白そうな2ch記事を見つけた。


 全消事件


 全消という場所にあるトンネルをに入ったものは必ず姿を消していて、今までの被害者は推定で3000人にも及ぶという。地名とみんな消えてしまうということのダブルミーニングで全消事件ということで一時期物好きな人間が騒いでいたが、その人たちもそのトンネルに入ると必ず行方不明となってしまい、最近ではこの事件について話題にしているものはほとんどいないという。捜査に当たってトンネルに入った警官なども全員消えてしまったことも、この異常な被害者数になってしまった一因である。あまりの危険さに現在はトンネルは封鎖されており、警察による捜査も打ち切られている。これは30年位前の話で、今ではほとんどこのトンネルに近づく者はいないが、今でもトンネルに入っていくもの好きは少しいて、行方不明者は毎年わずかながら出ているという噂である。


 このような話を見ると俺は年甲斐もなくワクワクしてしまうのだ。そもそも論理的に考えてトンネルに入った人間が百発百中で消えるのはあり得ない。そのことを自分で確かめずにはいられないのである。


 よし、行ってみよう。

 俺はすぐに出発することにした。

 そのトンネルは私の家から1時間もかければ到着するところであった。


 一時間かけて到着したら案の定、そのトンネルは封鎖されていた。しかし人はいないのでトンネルに入るのはわけないことであった。


 俺はロープなどを潜り抜けて封鎖されたトンネルの中に足を踏み入れた。そしてトンネルの中を進んでいく。トンネルの長さは全長約500メートルである。多少カーブしているので出口は見えないがそれほど長くはない。トンネルの奥に入っていくとさすがに暗くなっていき、多少の恐怖がわいてくるものの、それでも、わくわく感に打ち勝つことはできず、先へ進んでいく。


 なんだ、特に何もないじゃないか。やはりあのネット記事はただのうわさだろう。何十年も前のことで、ちょっとした出来事が歪曲し、大げさに伝えられたにすぎないのだ。そのようなことを思い、恐怖感は薄れていき、俺はその噂を自分の身をもって否定できるという事実に喜びを感じ、さらに奥へと進んでいく。

 

何も起こらない。どんどん奥へと進んでいく。奥へ、奥へ、奥へ……。

「!?」


 ようやく俺は違和感に気づいた。このトンネルの全長は500メートル。しかし俺はこのトンネルの中を30分は歩いている。なのになぜ反対側の出口に行きつかない。


 身の危険を感じた俺はすぐに来た道を走って引き返す。そうだ、走ったのなら20分程度もあれば出られるはず……。


 そう考えていた俺は甘かった。30分走り続けてもトンネルの外に出ることはできなかった。

 そうか、あの噂は本当だったのか。俺はこんなところで、くだらない好奇心によって死ぬのか……。


「死にたくないか?」


 トンネルのどこかから謎の声が聞こえてきた。


「誰だ、わたしをここから出せ!」

「よかろう、貴様は特例だ。ここから出してやろう。運がよかったな。ただ、ここから出た後は、今まで消えていった連中よりも悲惨な出来事が待ち受けることになるだろうな」


「何を……、いっている……?」


 謎の声がやんだ後、私の目の前に突然光が舞い込んできた。これは、入り口だ。見覚えのあるロープ。私はそれを潜り抜けて無事トンネルの外へ出ることができた。


 そうだ、結局あれは私の幻聴に過ぎないんだ。長くトンネルに入って興奮していたせいで気のせいに違いないんだ。現に俺はトンネルの中に入って無事に出ることができたではないか。


 家に帰って、俺は半ば興奮気味に、そのトンネルのことを思い浮かべながら床に就く。


 バッ! 


 突然目の前が照らされる。まぶしくてとっさに目を閉じた。その光になれると俺は徐々に目を開ける。するとそこには俺の部屋でなく別の謎の空間が広がっていた。


「君は選ばれたんだ。君はこの世界を救うべく、力を授けるとしよう」

「貴様は誰だ、そしてここはどこだ!」


 俺の問いかけにその謎の声の主は答えることも、姿を見せることもしなかった。

 気が付くと俺は自分のベッドの上で、もう朝を迎えていたようだった。

 あれは何だったんだ……。夢か。


 そんなことを考えながらテレビをつける。いつものように、やれどこぞの芸能人が不倫をしただの、役人が不正を働いただの大して興味のないいつものことが報じられている……わけではなかった。その日のニュースは、いつもとは明らかに異彩を放っていた。あのトンネルで死体が3000体ほど一気に見つかっていた。その身元は今調べている最中であるということだった。


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