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体が……ちっちゃくなっちゃた!?

作者: 一二三六

「くっそぉーどうしよう……」


 服は科学部から貸してもらったけど、解毒薬がないから規定の時間になるまで待たなきゃいけない。それまで科学部の部室で待たせてくれりゃいいのに、実験と称されて部屋から追い出されるわ、当然カギはかけられるわ。この姿で誰かに見つかりでもしたら、大事になるのは間違いない。だって高校に小学生ぐらいの子供が入り込むことなんて、まずないんだし。


「うっわ、サイアク……」


 そんな時、目の前からやってくる見覚えのある女子生徒に、俺は小声でそんなことを言ってしまう。よりにもよってなぜ彼女なのだろうか、これもアイツらの仕組んだ実験なのだろうか、と疑ってしまうほどだ。だって数ある生徒の中でなにも幼馴染の『ニナ』が来ることはないだろう。そんな偶然、あってほしくなかった。彼女も彼女で確実に俺に気づいたようで、珍しいものでも見るような目で俺の方へとどんどんとやってくる。しかもアイツは生徒会長。つまりこういうことは率先して関わってくる、正義感の強いやつだ。俺はもはや絶望に打ちひしがれながらも、必死で対抗策を考えていた。


「あれぇーどうしたのかなぁ? こんなところで、迷子?」


 俺の目の前に来たところで、俺に目線を合わせるようにしゃがみ込み、優しそうな感じでそんなことを訊いてくる。


「う、うん……そう……迷子なの……」


 あくまでも変だと思われないように、小学生を装ってちょっと困ったような感じで返事をする。ただ小学生を演じている自分があまりにも気持ち悪すぎて、吐き気をもよおすレベルだった。


「そうなんだぁー……でもどうして高校に来たの?」


「あっ、えっと……そう! お兄ちゃんに用事があってきたの!」


 そんな痛い質問をされてしまい、俺は頭の中で必死に言い訳を探し、なんとか答えてみる。ただ俺はひとりっ子で、実際には兄なんていない。うまく話が合わせられればいいが。


「へぇーそうなんだぁ! 1人で偉いねぇー」


 そんな子供の言葉を全くもって疑うこともなく、あっさりと信じてしまうニナ。そして俺を褒めるように、俺の頭を撫でてくる。頭を撫でられるなんて久しぶりで、しかもそれが俺の好きな人にされているということもあってか不思議な、でもどこか懐かしいような感覚に苛まれる。これに上手いや下手なんてあるのか知らないけど、ニナのそれはとても心地よくてクセになってしまいそうだった。


「えへへー」


 それが表情にも漏れてしまい、緩みきっただらしのない笑顔を見せてしまう。そんな俺にニナは微笑んでいたが、次第に俺の顔を見つめながらいぶかしげな顔へと変わっていくのがわかった。


「あれ、でもこの顔、どこかで……?」


 そりゃそうだろうな。だってお前は俺の幼馴染だからな。そりゃ小さい時の俺の顔ぐらい、記憶の片隅ぐらいには残っているだろう。ただ、今の俺にはそれは非常にマズい事態だった。今目の前にいる子供が俺だということがバレてしまったら、一大事だ。何をされるか、わかったもんじゃない。


「き、きっと他人の空似だよ!」


 なので俺は言い訳がましい嘘をつくことにした。この反応からみても、俺の小さい時の顔はたいして記憶に残ってはいないのだろう。だから俺からそんな言葉を言ってしまえば、そんなちっぽけな疑念は砕けてしまうのだ。


「へぇー難しい言葉知ってるんだねぇーえらいえらい!」


 俺の思惑通り、話が逸れてしまったことで、さっきまでの疑念はどこへやら。俺がそんな言葉を使ったことで、褒めるように再度俺の頭を撫で始める。ヤバイ、これめっちゃいい。なんか心がゾクゾクしてきた。意外にもこの幼児化の実験で、俺は新たな扉を開いてしまったようだ。俺にこんな趣味があったとは。


「それよりも、お兄ちゃんのとこに連れて行かなきゃね――」


 そんな新たな境地を見つけてしまった俺を他所よそに、さっきの『お兄ちゃんに用事』を思い出したようで、探しに行こうとしてしまう。


「あっ、待って! お姉ちゃん、ボクのお兄ちゃんは今ちょっと忙しいから、それが終わるまで待ってたの!」


 俺はそれにすぐさまニナの制服のすそを掴み、さらに嘘を嘘で塗り固めていく。


「へぇーそうなんだ」


「だから……さ、お姉ちゃんと一緒に待ってたい……ダメ?」


 完全に甘える子供のように、ニナに上目遣いで甘えてみる。


「ぴゃあああ! この子めっちゃ可愛いいぃ――――!」


 それがニナの心にヒットしたのか、たまらず俺を抱きしめてほっぺをすりすりしてくる。見た目は小学生でも、中身は思春期真っ只中の高校生。しかもそれが好きな人にされてしまえば、俺はもはや天にも昇るような思いだった。ヤバイ、この背徳感……たまらない。さっきとは違った意味でゾクゾクしてきた。ものすごく悪いことしてるんだけど、その快感がクセになってやめられない犯罪者みたいになってきた。もちろん、ニナをだましているという罪悪感はあるけれど、せっかく子供になって、ニナにこんなにも愛されているんだから、もう少しだけ味わっていたい。


「じゃあ、生徒会室で待ってよっか!」


「うん!」


 かくして俺はニナと仲良くおててなんか繋いで、生徒会室へと向かうこととなった。ニナはよっぽどこの状況を独り占めしたいのか、それともただただ小学生の俺に甘えられて嬉しいのか、普通なら聞くはずの俺の名前、その兄の名前等を一切訊いてくることはなかった。しかも最初の話では、俺は迷子になっているはずだ。ならより一層そういった個人情報を訊いて、その兄の所まで連れて行ってやるのが普通だろう。もっとも、俺から変なこと言っても墓穴ぼけつを掘るだけなので、今はこのままニナのうっかりに甘えることにした。


「――じゃあ、ここで座って待っててね」


 それからしばらく歩いて生徒会室に着くと、すぐさまソファのところで待っているようにニナが指示する。


「やっ! お姉ちゃんと一緒にいたい!」


 今さっきまで自分で自分の演技が気持ち悪かったぐらいだったのに、慣れてきてしまったのか、はたまたニナとのやり取りで精神が幼児退行してしまったのか、もはや自然と子供っぽい言葉遣いや行動ができるようになっていた。俺はすかさずニナに抱きついて、そんな風に甘える。もうここまで来てしまったら、何をしたって罪の重さは大差ない。だったらとことんまでやってやろうじゃないか。それにニナに甘えるのが、なんか快感になってきる俺がいる。これは中毒になりそうだ。俺はその欲望をとことんまで満たそうと思う。


「もーうしょうがないなぁー! じゃあ、あそこに一緒に座ろっか!」


 対するニナもニナで顔がデレッデレで、緩みきっていた。需要と供給のバランスも保たれているんだし、もうこのままでいいんじゃないだろうか。なんかそう思えてきてしまう自分がいた。それから俺はニナと共に、普段ニナが座っているであろう生徒会長の席へと座る。『生徒会長の席』とは言っても所詮しょせんはいつも通りの学校の椅子。ちゃっちいやつだ。


「おいで!」


 ニナが先に座り、両手を広げて満面の笑みでそう言ってくる。俺はそれにそのまま従い、ニナのなんと股の間に俺が座るという構図になった。もうそこは天国と言っても過言じゃなかった。後ろには当然、ニナの感触がある。しかも座高の関係から、頭がアレに当たるのだ。その柔らかい感触、普段では絶対に味わうことができない代物だろう。しかもニナもニナで俺が可愛いのか、俺の腰のところに腕を回し、抱きしめてくる。そしてさらに片方の手で相変わらず頭を撫でてくる。もはやはたからみたら、俺はニナの抱きかかえるぬいぐるみみたいになっていた。でもそんな状態が今の俺にはとても幸せで、やみつきになっていた。


「ねえねえ、お姉ちゃん!」


 そんな折、ちょっといいことを思いついてしまった俺は、元気な感じでニナを呼ぶ。


「なあに?」


 普段では絶対に聞くことはできないであろう甘い声を出しながら、俺の顔を覗き込むニナ。


「お姉ちゃんって好きな人いるの?」


 そして、ニナにそんなかなり意地悪な質問をしてみる。普段なら絶対に答えてくれないだろう質問、幼児化している今ならどうだ。幼馴染ということもあってか、なかなか本音を聞く機会がなかった。やっぱりお互い恥ずかしがってしまい、本心を聞くことができないでいた。でも今なら、赤の他人としか思われていない今なら、ニナが緩みきって心の扉がガバガバなこの時ならイケるかもしれない。


「えっ!? どうしたの、急に……」


 そんな突拍子もない質問に、ちょっと恥ずかしそうにしているニナ。あぁ、可愛い。その照れた表情がとてつもなく可愛い。今すぐにでも抱きしめて、ギューっとしたいぐらい愛くるしかった。


「お姉ちゃん美人さんだから、いるのかなぁーって!」


 なんて本音交じりの言い訳をして、さらに後押しをする。そして期待するような眼差しを向け、さらにさらにニナの心の扉を開けさせに行く。


「い、いるよ……そいつね、私の幼馴染なんだけど、いつもはふざけてたりだらしがなかったりするんだけどさ、いざって時にはカッコよく決めてくれるんだよねぇ」


 『いるか、いないか』の確認だけだったのに、唐突にひとりでにベラベラとその好きな人のことを語ってくれるニナさん。しかもそれって……たぶんというか間違いなく俺、ですよね。ニナの幼馴染なんて俺しかいないし。『だらしがない』ってのは余計だけど、おおむねあってるし。


「へ、へぇーそうなんだ……告白しないの?」


 その思ってもみない事実に、思わず演技を忘れてちょっと戸惑ってしまう俺がいた。


「んー……たぶんアイツ、私のこと好きじゃないだろうから。どうせ幼馴染にしか思われてないだろうし……」


 そんな俺の質問に対して、どこか寂しそうにそんな全然的外れな推測を立てるニナ。そんなニナの言葉に俺は今、俺が子供状態なのをひどく後悔した。今すぐにでも元に戻って『違う』と一言そう告げて、その間違いを否定してやりたかった。俺の本当の想いを、彼女に告げたかった。


「ねぇ……お姉ちゃん」


 俺はもうニナのその想いを聞いて、理性がぶっ飛んでしまっていた。ニナへの愛が高まりすぎて、抑えきることができなかった。だから、俺はニナの名前を呼ぶ。そしてニナの方へ向きを変える。子供だからということもあってか、抱きつかれている状態でも、いとも簡単にそれができてしまった。


「ん、何?」


 これから起こることをつゆも知らないニナは、呑気に優しそうな顔つきで俺を見つめる。俺はすぐさま腕を首の後ろへ回し、自分の顔をすばやくニナのそれに近づけ――


「んッ!?」


 キスをした。こんなの、ずるいなんてことは百も承知だ。でも今すぐにでもニナとキスがしたかった。それほどまでにさっきのニナの言葉で、俺の心の中は愛で溢れかえっていた。それが外にも溢れ出して、俺をその行動に至らしめる。


「へへー」


 勢いに任せてやってしまったため、その後にどういう反応をすればいいかわからず、俺はイタズラっ子っぽく笑ってしまう。


「こらーダメでしょう、そんなことしちゃ! そういうのは……大人になってから――」


 甘々だったニナも流石にこれは容認してくれないようで、まるでホントにお姉ちゃんになったみたいに俺をしかってくる。ただおそらくこれが初めてのキスだったのだろう、顔を赤らめて恥ずかしそうにしていた。そんなニナが可愛くてしょうがなかった。そんなニナを見て、やっぱり俺はたまらなくニナことが好きなんだと実感した。どうにもならないぐらいに、俺のニナに対する想いが熱くなっていく。そしてそれと同時に、俺の体も熱くなるのがわかった。これは恥ずかしいとか、興奮しているとかそういうのじゃない。例のクスリだ。そうだ、忘れてた。アレには制限時間があったんだ。だから今そのクスリの効果が切れ始めている。ってことは――


「――いったぁ!?」


 ただしここから逃げ出せるほどの時間は許してはくれず、俺の体は無残にも元の状態へと戻ってしまった。幸いにも、科学部から借りた服はこの薬の効果に対応したもので、成長に伴い服も大きくなるようだ。どういう技術なのか訳がわからないが、なんとかそれによって服が破れて全裸になることは回避された。これで全裸だったらより悲惨な事になっていただろう。ただキスの時にニナに重心を預けていて、そのまま元の体に戻っていったのでバランスを崩し、椅子から2人仲良く転げ落ちる結果となってしまった。たぶん下側になったニナはさぞ痛い思いをしたことだろう。さらに不運なことに、さっきまでの状態でそのまま落ちてしまったせいで、顔がとんでもないぐらい近づいてしまっていた。それこそちょっと顔を近づければ、再びキスができそうなほどだ。


「え、ア、アキラ……?」


 それにドキドキしてしまう俺に対し、ニナは最悪なことにとうとう目の前にいる人間が俺だと気づいてしまう。しかも子供の状態から元に戻るまでの状態をまるまる見てしまったのだから、言い逃れももはやできない。


「大人になっちゃいましたーなんちゃって!」


 だから俺はニナとの距離が近いこともあって、さらにこの状況で混乱してしまい、そんなくだらないことを言っておどけてしまう。


「なんちゃってって……はっ! あんたまさか――」


 だがニナはその俺のおどけたノリにはノッてくれず、終いにはこの状況を分析してしまい、導き出してほしくない結論を下してしまう。


「えっ、あっ、いや違う! いや正確には違わないけど……違うんだ! 落ち着け! 落ち着いて俺の話聞こう? な?」


 しかもそれが変な方向に勘違いしているということもわかった俺は、すぐさま誤解を解こうと必死になった。たしかに、これを利用してやましいことをしようとはしてました。それにニナに甘えたい気持ちもありました。でもこれは偶然の産物で、もっと言えば悪いのは科学部なのです!


「アーキーラアアアアアァァァ――――!!!!」


 そんな俺の言い訳もニナの耳には入れてもらえず、『悪しき者には制裁を』と言った感じで、俺はニナにコテンパンのボッコボコにされた。もちろんその後、俺の必死の弁明でなんとかこの成り行きは理解してもらうことはできた。だから俺が完全に悪なのではなく、それを誘発させた人間たちがいるということを伝えられ、なんとか誤解は解くことができた。ただ俺には非常に痛い傷を負うこととなってしまった。科学部め、許すまじ!



 それから俺とニナは奇しくも、この一件でなんと互いの想いを打ち明け、結ばれることとなった。自分で言うのも何だが、なんともお恥ずかしい馴れ初めである。絶対これは結婚式とかで披露できないお話だ。でもそんな恥ずかしいことも、いつかは笑い話にできる日がくることだろう。ただ一つだけ腑に落ちないのは、科学部の連中だ。どうもヤツらの手のひらで踊らされていた感じがある。



まさかヤツらの真の狙いはこれだった――?

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