閑話――頭が痛いのは神だけでなく
本作の書籍版『俺はダンジョンマスター』の発売日まであと2日ッ!(4/7発売)
とはいえ、7日が日曜日の為、すでに並んでる場所も多いようですッ!
お見かけの際には、是非ともよろしくお願いしますッッ!!
そして、閑話の第二弾。
これも特典用にいくつか書いたもののうち、採用されなかったものになります。
※普段と違って三人称となっております
ペルエール王国の若き国王。セルベッサ=モヒーテル=ライムンテ=ペルエールは、執務室の椅子に腰をかけながら嘆息を漏らす。
机に左肘をたて頭を預けてる姿勢は、あまり王らしくない。
「ダンジョン調査管理室所属の……何と言ったか。先日、マナルタ丘陵に生まれたダンジョンに派遣した男。彼は元B級の探索者であると――そういう話ではなかったかな?」
セルベッサは、手元にある報告の書かれた木札に目を通し終えると、やや乱暴に机の上へと放り投げた。
「は。調査室にスカウトされる前は、隣国においてそれなりに名の知れた探索者でした。これは周辺調査の結果も含めて、間違いないはずです」
「そうか」
執務の補佐をしてくれている文官の言葉に、セルベッサは大きく息を吐いた。
「探索者そのものは嫌いでないが――どうにも、こういう面があるのがな……」
「未鑑定ダンジョンや鑑定結果の思わしくないダンジョンへの派遣は、控えさせましょうか?」
「これまで通りで構わんさ。単純に、マナルタ丘陵に現れたダンジョンがこれまで通りではなかったというだけだろう」
木札に書かれた報告には、マナルタ丘陵に現れたダンジョンは洞窟型であり、内部には木製の扉が三つあったと書いてある。
「報告書から推察すれば、このダンジョンは洞窟型であるかどうかさえ怪しいな」
「……と、申しますと?」
「難しい話ではない。その洞窟部分、ただのエントランスなのではないかという話だ」
「なるほど。開かない扉をどうにか開けると、まったく別のタイプの光景が広がっている可能性もあるわけですね」
「ああ」
うなずきながら、王は胸中で首を横に振る。
(実際には中央の魔法陣の部屋が怪しいと思うが……。まぁ言ったところで机上の空論だな)
何度目かの嘆息をして、文官へと視線を向けた。
「探索者ギルドへの先行挑戦依頼を出しておいてくれ。王国名義でな。報酬は少な目にしておけ」
「かしこまりました。ですが、報酬は少なくてよろしいのですか?」
「どうせ誰も引き受けんさ。そうなれば、あの二人が駆り出される」
「優秀な『臆病者』の二人ですね。陛下が目を掛けているあの二人でしたら私も信用できます」
その二人は、貴族や商人などからも覚えがいい。
周囲から何と言われようが自分のやり方を曲げず、コツコツと積み重ねてきた実績と成果によって、街にアジトとなる建物まで買ったくらいだ。
だが、他の探索者たちは認めない。
まずは様子を伺い、万全を期してから先に進んでいくという手段で生まれた成果を認めたくないのだろう。認めてしまえば、自分たちがこれまで培ってきた無理矢理突き進むような探索を否定しかねないのだから。
「確かにあの二人はお気に入りだが、別に他の探索者を否定する気もないぞ」
「そうなのですか?」
文官の意外そうな顔にうなずいてみせる。
「無茶で強引な探索方法であっても、常に結果を出し続けるのであれば、それは実力だ。多少人格や素行に問題があれど、実力で相手を黙らせている者は探索者には少なくない」
「今のギルドマスターなどがその筆頭ですね」
「そうだ。私は彼をあまり好かぬが、それでも実力は認めている。同じようにギルドマスターは『臆病者』を嫌っているが、その実力を認めていないわけではない。自分の探索に取り入れていないだけで、理解を示しているところはある」
もっとも、表面的にそう見えるだけで実際のところはどうなのか――という点に関してはセルベッサにも分からないが。
「問題があるとすれば、どちらでもなく実力もないのに、ただみんながそうしているからという理由で『臆病者』たちを蔑む者たちだ。そういう探索者たちは年々増えているようにも思える」
それはある種の悩みの種だ。
セルベッサは王になる以前より、創主神話を親しんでいた。今もなお暇があれば文献などに手を出し読み漁っている。
それらによれば、ダンジョンとは創主による慈悲と試練だと言う。
慈悲――と言われればなるほど、と思う。ダンジョンから手に入る様々なモノが人間の営みに欠かせないのだ。
そして読みあさった文献の中にはこんな一文もあった。
『今の人間は慈悲だけをありがたがり、試練を何ひとつ越えようとしていないのではないか』
――いつだったか読んだその一文が、不思議とセルベッサの心の中に残り続けている。
探索者は国に必要な職業だ。だが、探索の成果だけで国や商売、人々の営みは続かない。それを支える者があってこそだ。
誰かと誰か。何かと何か。誰かと何か。世界は常に支え合いだとセルベッサは考える。
「神の慈悲だけを受けて、試練を考慮しないという在り方は、人間が神を支えないというのと同じかも知れないな」
「陛下?」
「何でもない。仕事を続けようか」
独りごちた言葉に首を傾げる文官にそう告げて、セルベッサは新しい書類へと手を伸ばした。
そんなワケで、国王陛下の前日譚でした。
うん、そりゃあ採用されないわなと、自分でも思わなくは無いですw
何せセルベッサ王って、書籍化範囲はおろかWEB版でもロクに出番ないですものね……
4/7 (7日が日曜日なので本日5日に、並んでいる場所も多いようですッ!)
本作の書籍版『俺はダンジョンマスター、真の迷宮探索というものを教えてやろう』が発売ですッ!
http://legendnovels.jp/special/20190305.html
(予約や注文の際には以下の13ケタの数字を書店員さんに伝えると早いですよ)
【ISBN 978-4-06-514597-5】
また、4/1~4/7の間
秋葉原スープカレーカムイさんとのコラボもやっておりますッ!
ご好評を頂いているようで、ありがたいことです。
コラボカレーの名前は「とんこつモンスター謹製 ダンジョン豚カレー」
https://ameblo.jp/soupcurry-kamui/entry-12450577987.html
まだの方は是非ご賞味くださいませ。
どんなカレーか……動画もあるよッ!
https://twitter.com/YU_Hi_K_novel/status/1113576218282971136
肉汁たっぷりだぜッ!