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閑話――射抜く瞳、今は昏く…

本作の書籍版『俺はダンジョンマスター』の発売日まであと3日ッ!

(早いところでは明日辺りに店頭に並ぶようです)


発売直前というコトで、

法人特典用にいくつか執筆したSSの中で採用されなかったものを

閑話として連日更新していきたいと思います。


※普段と違って三人称となっております




 王都サンクトガーレンにほど近い森の中。

 注意深く周囲の気配を伺っていたフレッド=スリーパルは手にした弓に矢を(つが)えた。


 ガサガサと草木の揺れる音が近づいてくる。


「そこッ!」


 それに慌てることなく、フレッドは矢を放つ。

 放たれた矢は、茂みの中にいたモンスター――パンチングキャットを確実に射抜いた。


「らしくないじゃないの、ヴァルトくん」


 気怠げな調子でそう(うそぶ)くと、パンチングキャットが倒れた辺りに一人の男が現れる。


 髪を後ろへと撫でつけ、眼鏡を掛けた神経質そうなその男の名はヴァルト=イシュターナ。

 サンクトガーレンの探索者ギルドでサブマスターをやっている男だ。


「すまない。寝不足でな。それに、おまえがいると分かっていたので多少気を抜いてたのかもしれん」


 ヴァルトはそう口にしながら、右手の腕輪からのびる極細の透明な糸を、腕輪の中に戻した。


「信用してくれるのはありがたいんだけども。

 モンスターの見落としは危険でしょうよ」

「返す言葉もないな。助かった」


 口の端を僅かに緩めながら詫びるヴァルトに、フレッドは気にするなと手を振った。


「矢の代金は報酬に上乗せしておこう」

「助かるわ~……そういうとこ気にかけてくれる奴って少ないから、いつも困っちゃうのよ」


 おどけた調子で口にするものの、フレッドの目は笑っていない。弓使いというのはそれだけ探索者たちの間での扱いはよくないのだ。


「こちらとしてもおまえの協力に助かっている。ダンジョン外のモンスター退治というのはどうにも請け負ってくれる者が少なくてな」

「それな。どこの地域でも問題にはなってるけど、サンクトガーレンは特にひどいじゃないのよ」

「やはりそうか……。どうにも、うちの探索者たちは雑事が嫌いなようでな」

「いくら王都に城壁があるからって、街道にほど近いこの森のモンスターを放置しっぱなしってのはまずいでしょうに……」

「まったくだ。多少報酬を高くしても見向きもせん。

 結局、俺が出てくるハメになる。

 今回もそうだ。パンチングキャット程度の雑魚をどれだけ倒しても意味がないなどとのたまう連中ばかりでな」

「探索者たちから見て雑魚でも、人や家畜を襲う猫ちゃんたちの数が増えるってのは脅威のハズなんだけどねぇ」


 やれやれ――と、二人で肩を竦めあう。


「ま、オレの時間があいてる時なら付き合うわよ。素のままの喋りができるおまえさんと一緒にいるのは、何だかんだで気がラクだしね」

「そう言ってもらえると助かるな。こちらとしても、おまえといる時は肩のチカラが抜けていい」


 弓使いで斥候が得意。おまけに喋りは軽い。そのせいでフレッドは他の探索者たちからよく軽んじられてしまう。その為、気を許した相手以外にはあまり素を見せないようになっていた。


 眼鏡のブリッジを人差し指であげ、ヴァルトは小さく息を吐く。


「ところで、おまえは未鑑定ダンジョンに興味はないのか?」

「ん? マナルタ丘陵だっけ?」

「ああ。それだ」


 ヴァルトはうなずいて、フレッドを見遣る。


「先行挑戦依頼……国からの要請だと言うのに、誰も受けてくれていなくてな。先日、私が信用するA級とB級のコンビが引き受けてくれた」

「信用ねぇ……」

「あの二人であれば、おまえも素の喋りでつき合えそうだと思っているのだが」


 ヴァルトの言葉に、フレッドは下顎を撫でながら目を細めた。


「ヴァルトくん、今言った言葉の意味わかってる? おっさん、その言葉信用していいの?」

「おまえがおっさんなら私もおっさんだな。歳は近かったはずだろう?」


 フレッドの問いに、わざとズレた返答をしてから、ヴァルトは真面目な顔をする。


「信用してもらえれば……とは思う。だが、実際にどうなのかは、会ってもらわんコトにはな」

「そりゃそうだ」


 口でどれだけ言われても、結局のところは出会ってみなければ分からない。

 やや思案してから、フレッドはひとつうなずいた。


「いいぜ、しばらく真面目喋りになってやるさ」

「二人に出会ったあとで、おまえの喋りがいい意味で素に戻ってくれることを祈ろう」

「そうだといいわねぇ……て、オレも思うわ」


 そうして二人は、帰り支度をはじめるのだった。



     ☆



(ヴァルトくんの紹介とはいえ、どうなんだろうねぇ……)


 話を聞く限りだと、そろそろ会えるはずだ。

 ややして、マナルタ丘陵へと向かうまだ若いだろう優男が目に入る。


(あいつ……か)


 弓使いは不遇だ。斥候という役割も不遇だ。だがフレッドはどちらの探索スタイルも好んでいる。


(はてさて、どんな男かね)


 あまり期待をしてないせいか、自然と瞳に宿る光は暗くなる。

 だけどそれでも――ささやかな期待がないと言えば嘘になる。


 様々な胸の裡の感情が混ぜ合わさる中、フレッドは露悪的な調子で口を開いた。


「何だよ……腕利きの探索者なんて言ってもこんなガキかよ……」


そんなワケで、フレッドの前日譚でございました。


4/7 (7日が日曜日なので入荷予定日は5日頃になるようです)

本作の書籍版『俺はダンジョンマスター、真の迷宮探索というものを教えてやろう』が発売ですッ!

http://legendnovels.jp/special/20190305.html

(予約や注文の際には以下の13ケタの数字を書店員さんに伝えると早いですよ)

【ISBN 978-4-06-514597-5】



また、4/1~4/7の間

秋葉原スープカレーカムイさんとのコラボもやっておりますッ!

ご好評を頂いているようで、ありがたいことです。


コラボカレーの名前は「とんこつモンスター謹製 ダンジョン豚カレー」

https://ameblo.jp/soupcurry-kamui/entry-12450577987.html

まだの方は是非ご賞味くださいませ。


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本作の書籍版 発売中ですッ!
『俺はダンジョンマスター、真の迷宮探索というものを教えてやろう』
俺ダン

(講談社レジェンドノベルス)


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