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1-5.『ディアリナ:ダンジョン探索の始まり』


 あたしはディアリナ。

 今、あたしは相棒のサリトスと、道中で一緒になったフレッドと共に新たなるダンジョンの探索を開始したところさ。


 ダンジョン鑑定と呼ばれる特殊なルーマを用いても、詳細不明とされた新たなる未識別ダンジョン。


 そこは今までの常識で考えると、あり得ないほど不思議なダンジョンだった。


 入り口にあたるエントランスの時点で、挑戦者を(ふる)いにかけてくる。

 だけど、突破してきた挑戦者にはまるで敬意を持つかのような、メッセージがそこかしこに仕掛けられていたからね。

 それを煩わしいとは感じない。


 ダンジョンの名称は、『変遷螺旋領域 機巧迷宮ラヴュリントス』。

 大仰な名前だとは思うけれど、だけどダンジョンマスターも含めて、その大仰さに相応しいような気がしてるんだ。


 まだ、攻略もロクにしてない状況でそういうのも可笑しいとは思うんだけどさ。

 けど、攻略開始前の誓いへと返答してきたダンジョンマスターの声。

 あれは間違いなく、仕掛けを解かれるのを楽しんでる雰囲気だった。


 ダンジョンも、マスターも今までとはまるで違う。

 今までの常識が通用しないかもしれない。


 ――そんな状況が、むしろ、あたしは楽しくて仕方がなかった。


「奇妙な森だな」

「そうだねぇ」


 サリトスの呟きに、あたしがうなずく。


 雰囲気が奇妙というわけではない。

 むしろ、雰囲気は穏やかで、程良い陽光が木漏れ日となって降り注ぎ、木陰が程良く光を遮る。ダンジョンの中だということを忘れれば、昼寝したくなるほどの良い環境。


 そんな森をサリトスやあたしが奇妙と感じるのは、その不自然な空間のせいだ。


 あたしらがいる場所は、四角く整った空間になっている。

 さらには、ここから伸びる道も、まるで順路はこちらだと言うように、木々や茂みの間に小道があるんだ。


 素直に道を通ればいいのか、それともいきなり罠なのか悩んでいると、すでに調べていたらしいフレッドが頭を掻きながら戻ってきた。


「あー……こりゃ、素直に開けてる場所を通った方がいいな。

 行けなくもないが、鬱蒼として視界も悪い。ロクに光も差してない。

 このダンジョンと、ダンジョンマスターの感じから思えば、探索者(シーカー)が通ることを想定していないんだろう。

 どうしても、飛び込まないと行けない時以外は、オススメしないぜ」


 フレッドの報告に、サリトスは小さくうなずくと、この空間に唯一の細道を示した。


「ならば、まずはあそこを進むとしよう。

 今後はこのような空間を部屋。あのような細道を廊下と呼称しよう」


 パーティ内での統一呼称があれば意志疎通がしやすい。

 あたしもフレッドも、それに異を唱える気はなかったので、首肯した。


 どういう意図でそういう呼称になったのかは――まぁサリトスだから、気にするだけ無駄だろうしね。

 それに、あたしも似たようなことを考えてたから、問題ない。


「部屋や廊下と呼ぶのは問題ないが、気をつけてくれよ旦那。

 それを囲っているのは壁じゃなくて木々と草花だ。茂みの中からモンスターが飛び出してくる可能性は、常に意識してくれ」

「心得ているつもりだ」


 そうして、あたしたちは歩き出す。





 途中で直角に右へ曲がった廊下を抜けると、再び森の部屋が姿を見せる。

 部屋の中には、歩いてきた廊下を除外しても、三つの廊下が存在していた。


「はははっ! ダンジョンらしくなってきたじゃないかッ!」


 笑いながら、あたしは荷物の中から、大きめの木札と特注のペンを取り出した。


 ダンジョン産の薄っぺらい紙――ダンジョン紙はかさばらなくて良いんだが、ペラペラしてて安定感がないし、水にも弱い。

 こういう場所で書き物して、ちゃんと持って帰るなら、木札の方が便利だ。

 もっとも、普通のペンとインクだとやっぱり水に弱いんで、あたしはペン先が刃物にもなってる特殊なやつを使っている。

 これで通常よりも深めに削りつつインクを流すんだ。

 もちろん、水でインクが流れちまうこともあるけど、それでも深めに削ってあるから、インクが流れちまっても跡に残った部分から復元しやすい。


「嬢ちゃん、それで何をするんだい?」

「地図を書くのさ」


 フレッドの問いに、あたしは返す。

 どういう反応をするのかと身構えていると、フレッドは小さくうなずいた。


「そいつはいい。ならオレはそこの廊下の様子でも見て来るさ。

 サリトスの旦那は、執筆中の嬢ちゃんのお守りを頼むぜ」

「無論、いつもしているコトだ」


 淡々とサリトスが答えると、フレッドは嬉しそうにうなずく。

 フレッドはそのまま軽やかな足取りで手近な廊下へと向かっていった。


「理解者がいるってのは嬉しいね」

「ああ」


 あたしとサリトスは、上級探索者(シーカー)なんて言われてはいるが、現場じゃ慎重すぎて、臆病者だと罵られることが多い。

 フレッドのような斥候の重要性も、あたしが良くやるマッピングの重要性も、サリトスのように宝箱や扉を開ける上での安全確認の重要性も、他の探索者(シーカー)たちの目には面白く映らないらしい。


 先駆けて斥候をすれば抜け駆けだと怒られる。

 マッピングしてれば、覚えておけばいいのにわざわざ書くなんて時間の無駄と笑われる。

 慎重に慎重を重ねると臆病者。


 それでも自分たちのやり方を曲げずにいたら上級ランクに到達。だけど気づけばあたしとサリトスの二人は、探索者(シーカー)としては孤立してたわけだ。

 きっと、フレッドも同じだろう。


 そこまで考えて――あたしは唐突に理解した。


 ああ――そうか。分かった。

 あたしがこのダンジョンを楽しいと……ワクワクすると思う理由が。


 認めてくれてるんだ。あたしたちのやり方を。

 他の誰でもない。ダンジョンマスターが。ダンジョンそのものが。


「ただいまっと」

「ああ、おかえり。どうだ?」


 戻ってきたフレッドにサリトスが成果を訊ねる。

 フレッドは下顎の無精ひげを撫でながら、答えた。


「まだ右側の廊下を軽く進んでみただけだが……。

 基本的に、部屋と部屋を廊下が結んでる――って構造で広がってるようだ。廊下も廊下でまっすぐってワケじゃなくて、途中で曲がったりとかしてたしな。

 恐らくまだ確認できてないだけで、二手や三手に別れてるような廊下もあるだろうさ」

「モンスターは?」

「今のところ、ジェルラビっぽいのが数匹いたくらいか。

 遠巻きから見ただけだから、オレたちの知るジェルラビと同種かどうかはわからんが」


 ジェルラビっていうのは、青くてぷにぷにしたまん丸い半透明のゼリーみたいなボディに、ウサギ顔のかわいいやつだ。ウサギの耳っぽい触覚と尻尾もついている。

 主に体当たりと、大口を開けて噛みついてくるモンスターだけど、モンスターランクとしては最低辺。

 倒そうと思えば、子供でも倒せる。


「何にしろ進んでみるしかない、というコトか。ディアリナ」

「あいよ。地図を書きながら歩く準備はできてるよ」

「よし。ならば、フレッドが様子を見てきてくれた廊下から先へ進もう」


 そうしてあたしたちは未知のダンジョンを歩き始める。

 

 慎重で、臆病で、じっくりと時間をかけて進むから待たせちまうだろうけどさ――絶対、アンタのところにたどり着くから、待っててくれよ、ダンジョンマスターッ!



     ☆



【アユム】


「アユム様? 何なんですか、あの看板」

「え? なんかこう、そのフロアのスタート地点ぽくて良いかなって」

「いや、そこではなくてですね……その後に、書かれてた――タイトル? みたいなもののコトなのですが」


 首を傾げるミツに、俺も首を傾げ返した。


「ああいうのってカッコ良くない?」

「まぁ敢えて何も言いませんけれども」


 カッコいいと思うんだけどなー。

 巨大な樹を巡るダンジョンRPGのアレ、カッコ良くて好きなんだけど……。


 どうにもミツには不評のようだ。


 何はともあれ、サリトスたちの様子は……っと。

 随分と慎重に進んでるけど、まぁ向こうからすれば未知の森型ダンジョンだ。

 このくらい慎重にはなるか。


 しかし、斥候にマッピング――ちゃんとしてるってだけでポイント高いぜ!

 もっとも、明日以降にまたこのフロアに来る時には、その地図役に立たなくなってるけどな!


 とはいえ完全に役立たずにならないような設定にはしてあったりする。


 ふふふ、その時どういう反応をするのか――楽しみにさせてもらうぜ。


アユム「ふふふふふふふ……ッ!」

サリトス「ふ……ッ!」

ディアリナ「くくくくくくく……ッ!」

フレッド「はははははは……ッ!」


ミツ「この人達、何か恐いのですが……」


次回はアユム視点で、フロア1の解説回の予定です。


     ☆


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