3-31.どうせなら女性陣で見たかった
『こちらホットケーキになりまーす☆』
出されたホットケーキに、四人は不思議な顔をする。
そして、ミツはモニターに対して前のめりになる。
「そうなると思ってセブンスに頼んであるから落ち着け」
「はいッ!」
目を輝かせながらうなずくミツ。
そんなに食べたいのか――すっかり食事にハマちゃって……。
『良い香りだけど、見た目はずいぶんとシンプルさね』
『だな。ガラスの入れ物の中のようなのがくるのかと、おっさんは思ってたんだけど?』
ディアリナとフレッドの疑問はもっともだという様子でミーカはうなずく。
『急に複雑な味わいのモノを食べても、本当の味は分からないと思うからね☆ だから初めてのお客さんにはまずこれを出すことにしてるんだぁ☆』
『俺は貴族からよく甘味を振る舞われるが』
『俺もだな』
サリトスとデュンケルがそう口にすると、ミーカは全力で首を横に振った。その後、指をチッチッチと振ってドヤ顔で告げる。
『ノンノン☆ あんな砂糖の塊を作っておいて料理でござーいだなんて、甘味という言葉に対する冒涜だよ☆
砂糖は高級だから、いっぱい使っていれば高級料理? もったいなすぎる考え方だよネー☆ 高級だからこそ、適切な量を適切な使い方して料理の味を高めてあげなきゃ☆ 砂糖だってお塩と同じ。まずは適量を探して味見しないと。あなた好みの味付けで楽しむのは、その後その後☆』
ミーカの言葉に、フレッドの顔が少し明るくなった。
甘味と聞いて、砂糖の塊のような料理を警戒していたみたいだ。
どうにもこの世界、大陸ごとに砂糖や塩のドロップ率というのが偏ってるらしく、このペルエール大陸では塩は多いが砂糖は少ないようだ。その為、どうしても高くなってしまうらしい。
そうなると、砂糖による甘みが強いことがステータスとなり、見栄を張る貴族や商人は砂糖の塊のような料理をありがたがってしまうのだろう。
別の大陸だと逆に塩が高級品ということで、塩の塊みたいな料理になるんだろうか……?
砂糖の塊以上に食べにくそうだけど……。
『とにかく☆ まずはみんな食べてみてね☆
最初はシロップは掛けずそのままで☆ プレーンな味を理解してから、シロップをお好みで掛けて欲しいな☆』
ミーカが今回用意したホットケーキは、プレーンのシンプルなやつだ。
外はサクっと中はふんわりきめ細やかな黄金色に焼き上げたもの。厚さは一センチほどで、それを二段に重ねて提供している。
もちろん上には四角いバターが乗っているし、シロップは別添えのお好みで掛けて食べるスタイルだ。
「失礼します。アユム様。ミツ様。ミーカさんから同じモノを頂いてきましたよ」
「ありがとうございますッ!」
管理室に入ってきたセブンスに対しかぶせ気味にミツはお礼を口にする。
ほんとうに待ちわびていたという感じだ。
俺は、ミーカに頼まれて事前に何度か試食してたんだけど、それは言わないでおいておこう。
『そんなワケで温かいうちに召し上がれ☆』
『ああ。では頂こう』
四人はそれぞれに食神クック・ベルタに祈りを捧げると、カトラリーを手に取った。
サリトスとデュンケルは出来るだろうと思っていたからともかく、ディアリナとフレッドも問題なくフォークで押さえてナイフで切っている。
「ディアリナとフレッドも多少は貴族や商人とつき合いがあるみたいだから、このくらいのテーブルマナーは持ってるのか」
なんて言うかフォークを突き立ててかぶりつくのイメージしてたけど、それはちょっと失礼だったかもしれない。
「ミツだって出来てるしな……」
「あみあみみまみあ?」
「何でもない。存分に味わえ」
俺の言葉にミツはコクコクとうなずいて、意識をホットケーキへと向けなおす。
頬袋にエサを詰め込むハムスターのようになってるミツは脇へ置いて、俺は四人の様子を伺う。
一口食べて口を開いたのはデュンケルだ。
『これは……きめ細やかに焼き上げられたパンのようなものか……?』
それに対して、サリトスが一切れフォークで刺し、しげしげと観察するようにうなずいた。
『加えられているのは砂糖だけではないな。鳥の卵に何らかのモンスターの乳も混ぜられている』
『ああ。だが、ただ漠然と混ぜたのではなくそれぞれの素材の味を生かすように高めあうように計算されているようだ』
『それだけではないぞ、デュンケル。このバターも普段食べているものに比べてだいぶ塩味が抑えられている。だがその分、バターそのもの味わいが良く感じられる』
『しかし、キモは塩味がゼロではないというところだ。仄かな塩味が、コクのあるバターと甘いパンの架け橋になっているようだ』
あの二人、なんかグルメモノかというくらい解説してくれるな。
対してディアリナとフレッドは、ホットケーキと同じくらいシンプルな雰囲気で、美味しそうに食べている。
『こりゃいいね! 最初はサックリとした触感で、中はふんわりしてて。何より甘さに嫌みが無いのがいい』
『確かにミーカちゃんの言う通り。これをあの砂糖の塊と比べたら失礼だわな』
四人の様子に、ミーカは嬉しそうな顔をしている。
身内以外に喜んでもらえたのが、本当に嬉しいんだろうな。
笑顔のまま、手近な――デュンケルの皿のそばにある――シロップを示した。
『少し食べたらお好みでシロップをどうぞ☆
人によって甘みの感じ方、好みは違うからネ☆ 少しずつ掛けて量を調整するのがいいヨ☆』
フレッドとディアリナは言われるがまま掛けてるけど、サリトスとデュンケルは、ホットケーキの皿の端に少し垂らして、それをフォークですくって舐める。
『ほう……ビーケン樹の樹液に、蜂蜜を混ぜたものだな』
サリトスが感心したように漏らす横で、デュンケルは驚愕したように目を見開いている。
『サリトス。これはただの蜂蜜ではないぞ。ベルハニーだ……それも極上の、な』
『なに……?』
驚くデュンケルに訝しみながらも、サリトスはもう一口シロップを舐めた。
『……なるほどな……。この感じ、シニクスの花の蜜だけを集めたものだな……」
『しかも、他の蜂蜜との混ぜモノもない。完全なベルハニーだ……』
『だが、気まぐれに花の蜜を集めるベルビーに、どうやってシニクスだけを指定して集めさせたんだ……?』
あの別添えのシロップは、サリトスたちの推察通り、ビーケンの樹液に、蜂蜜を加えたミーカオリジナルだ。
シニクスというのはレンゲに似た花で、草原などに群生していることが多いらしい。
それをベルビーというハンドベルに似たシルエットの蜂型モンスターが集めたものだけを使ったミーカのこだわりの逸品。
ちなみに、ベルビーが集めた蜂蜜をベルハニーと呼ぶそうで、かなり高価な蜂蜜らしい。
高価な為に、一般的には他のハチの蜜も混ぜ合わせた混ぜモノが多くでまわっているとか。純度百パーセントなベルハニーというのは非常に稀少なんだとか。
そしてシニクスオンリーで純度百パーなベルハニーが欲しいとミーカに拝み倒された俺が、専用の養蜂場エリアを作ってしまった為に、とんでもないレアな蜂蜜が完成したのである。
『サリトスもデュンケルも、蜂蜜一つでそんなリアクションとってないで、ちゃんとパンと一緒に食べてみたらどうだい?』
『そうだぜ旦那がた。シロップと一緒に食べると、やばい美味いわ。おっさん甘味に懐疑的だったけど、これなら全然問題ないわー』
大絶賛のディアリナとフレッドの言葉に、サリトスとデュンケルはまるで迷宮の強敵に挑むかのような決意を秘めた表情で、シロップをかけ始めた。
『シロップの濃い甘みと、パンの仄かな甘み……ふつうに考えれば、パンの甘みが消されてしまう気がするが……』
『だが、料理した者が掛けて良いというのだ。掛けてみるのが一番だろう』
ん? これは世界の常識の違いかな?
ホットケーキの甘みと、シロップの甘みは別のものだから、シロップをかけ過ぎるようなことがなければ、ホットケーキの甘みが負けてしまうものではないと思うけど。
俺が首を傾げるのに気づいたのか、セブンスが朗らかに笑いながら教えてくれた。
「この世界の甘味料理といえば、素材の持ち味を殺す量を投入される糖ですからね。
シロップの持つ、ホットケーキより濃い甘みに、貴族料理としての甘味に馴れているお二人は、必要以上に警戒されているのかもしれません」
「なるほど」
解説されれば、理解も出来る。
ミーカがそんな料理をするはずないと頭で理解していても、これまでの経験が無意識に警鐘を鳴らしているのだな。
それでも、サリトスとデュンケルは警鐘を乗り越えて、シロップを掛けたホットケーキを口にする。
『『こ、これはぁぁぁ――……ッ!?』』
サリトスとデュンケルの口の中が黄金に光り輝いて服が一瞬はだけて見えたのは目の錯覚とかだと思いたい。
『そうか……ベクトルの違う甘み同士は組み合わせるコトで、その味を高めあわせるコトが出来るのか……!』
『元々あっさりとした甘みのビーケンの樹液ッ! そこに加えられたシニクスのベルハニーには、甘みだけではなくベルハニー特有の仄かな渋みがある……ッ! これがシロップ自身だけでなく、パンそのものの甘みの次元を高めているのだな……ッ!』
『ビーケンの樹液だけではあっさりとしすぎてて、パンと組み合わせても些か物足りず、ここまで奥深くはならなかっただろうッ!
『ベルビーが集めた蜜は、不思議と味は深まる。これは有名な話だが……』
『そうだ。そしてこれは、シニクスの蜜だけで作り出されたベルハニーあっての味だッ!』
『溶けたバターがシロップに混じり始めると、より一層美味くなるッ!』
『味が折り重なりあって、それぞれ単体で食べただけでは味わえない極上の甘味へと変わっていく……!』
『蜂蜜とバターの芳醇な湯につかり、温かいままにパンの布団に包まれ眠るような至福の時だ』
『ああ――食べるコトでこれだけの多福感を味わえる料理があるとは……。そしてそれが甘味だとは想像も出来なかった……』
見える……見えるぞ……ッ!
再び二人の服がはだける幻覚が見えてくるぞ……ッ!!
もはや幻覚だろうがなんだろうが、見えてきてしまっているから仕方が無い。
料理漫画もかくやというリアクションを始めた二人にとことんまで付き合ってやろうじゃないかッ!
美味しさのあまり服がはだけた二人は、どこからともなく降り注ぐ溶けたバターのシャワーを浴びながら、蜂蜜に満ちた風呂を楽しみ、そのまま裸でホットケーキのベットで横になる姿までセットだ。
恍惚とした顔でそれらを楽しむ姿は、どうせならディアリナとかアサヒとかコロナの女性陣で見たかった。
そんな俺の思いとは裏腹に、モニター越しに見える幻覚の中で、蜂蜜まみれになっているのは、イケメンとはいえアラサー男×2だ。
……どんな光景だよ、これ。
ちなみに、俺が呆れているのと同じようにディアリナとフレッドも二人を放置することを決めたのか、淡々とミーカにおかわりを頼んでいた。
『おかわりはふつうに、1000ドゥースになるけど、いい?』
『もちろんだよ。2000ドゥース出すから四段重ねで頼むよ』
『あ、おっさんもソレで!』
『はーい☆ じゃあ、また焼いてくるので少しまっててネー☆』
厨房へと文字通り消えていくミーカを見てから、ディアリナとフレッドは、美味しさに浸って恍惚としている二人を見やる。
『サリトスの新しい一面を見てる気がするね』
『デュンケルくんから悪影響受けてるだけに見えるわ、おっさん』
俺も、おっさんの意見に一票投じたいところだな、うん。
サリトスはデュンケルとコンビを組むことで変な化学反応おこしてるんじゃなかろうか……。
そんなこんなで、四人はホットケーキを堪能するだけ堪能したあと、探索に戻っていきましたとさ。
ミツ「はぁ~…………堪能しました」
アユム「ミツでも良かったな」
ミツ「はい? 何がですか?」
アユム「何でもない。幻覚の話だ」
ミツ「?」
次回は、探索に戻ります。
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