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3-30.『フレッド:すいーつモンスターは甘くない』


 ボス戦だけ手を組むって言っても、いきなり連携ってのも難しいってなもんで、とりあえず今回は一緒に探索だ。


 デュンケル自身も、記憶にないアドレス・クリスタルからのスタートは不安もあるので、軽く周囲の案内が欲しいと言っていた。

 なので今回は、オレ、サリトスの旦那、ディアリナ嬢ちゃんに加えてデュンケルの四人で動くことになる。


 今日はバド君たちとは別行動。

 デュンケルとの慣らしのようなもので、本格探索をする気もないからね。


 デュンケルの加入はバド君たちからの了承も得た。

 後日バド君たちもデュンケルと一緒に慣らしもかねて探索するそうだ。


 それらを踏まえると、ここのフロアボスに挑むのはもう少し先になるんじゃないかな。


「でも、モタモタしてるとギルマスが再戦するんじゃないのかい?」

「するかもしれないが、倒せるかというと難しいだろうな」


 別にベアノフのやつが弱いってワケじゃない。

 単純な戦闘能力って意味じゃ、サリトスの旦那やアサヒちゃんなんかよりも強いしな。


 とはいえ、常にボスの眷属であるグリーンヴォルフと、リーフヴォルフを相手にし続けないといけない状態になるそうだしね。

 それらをどうにか出来る状態を作りつつも、ボスと戦う戦力が必要というわけだ。


 それを考えると、ギルマスがボスとタイマンできる状態が作れても、連れて行った連中がいつまでヴォルフの群れを相手にできるかって話にもなる。


「なるほど。なんであれ一筋縄ではいかないか」


 デュンケルの推測に、サリトスの旦那も納得する。

 倒しても倒しても減らない狼たちと戦いながらのフロアボス戦……。確かに厄介だわな。


「それじゃあ、対策を考えつつ、アドレス・クリスタル周辺を探索するさね」


 ディアリナがそう言って、アドレス・クリスタルへの転移陣の起動呪文を唱える。

 オレたちもそれに続いた。




 前回の探索で登録したばかりのアドレス・クリスタルの元へと降り立つと、なにやら甘く香ばしいような匂いが漂っていた。


「なんだか、美味しそうな匂いがするね」

「以前、似たようなパターンに出会ったコトがあるな」

「ああ。セブンスと初めてあった時の」


 セブンスの時のことを考えるなら、この匂いの先に、美味いものが食えるチャンスがあるはずだ。


 オレたちは周囲を見渡し、その元を探ると――


「ほう? どうやら、あの扉から流れてきているようだぞ」


 デュンケルが指で示すのは、あまりの怪しさに前回は完全に無視を決め込んだ扉だ。


「娼館か何かかい、これ?」


 扉の前に置いてある看板を見ながら、ディアリナが眉を潜める。

 まぁ――気持ちは分かるが。


「気になるのならば、入るべきではないのか?」


 さて、デュンケルの言うのも一理あるが――


「どうするんだい、旦那?」

「そうだな」


 サリトスの旦那は軽く首を撫でてから、小さくうなずいた。


「入ろう。ただの娼館であれば、出ればいいだけだろう」

「くくく――それで、出してもらえぬのなら力づく……か?」

「それが一番だろうな」


 オレはディアリナ嬢ちゃんに視線で問うと、彼女も小さくうなずく。

 旦那方のやり方に異論はないようだ。もちろん、オレも異論はない。


 娼館だったら、ちょっと遊びたいなーって気持ちがないっていえば嘘だけどね!


 そうして、扉を開けると――


「いらっしゃいませー☆」


 出迎えてくれたのは、可愛らしいお嬢さんだ。


 年齢を見た目で判断するならコロナちゃんと同じくらいかな。でもお胸にある二つのお山は、ディアリナ嬢ちゃんに匹敵する。

 幼い顔したビックバストだなんてちょっと反則すぎるぜ。キュンとくる愛らしい笑顔含めて、おっさん眩しくてクラクラしちゃうッ!

 娼館だったら、足繁く通って貢ぎたい程度にはグッとくるぜいッ!


「あ、ごめんねー☆

 うっかりうっかり。いつものノリで《魅了魔貌(チャームフェイス)》しちゃったネ☆」


 そう告げて、お嬢さんが指を鳴らすと、クラクラするような感覚がどこかへと飛んでいった。

 愛らしくおっぱいも大きいお嬢さんが目の前にいるのは変わらないけれど、変にテンションあがっちゃうような感じはない。


「接客って言うと、誘惑して貢いでもらうっていう意識があったから間違えちゃった☆ 今回はふつうの接客しないといけないのにネ☆」


 コツンと自分の頭を叩いてチロリと舌出す。

 その仕草があざとい位に可愛くて、おっさん年甲斐もなくトキメいちゃうよッ!


 物騒なこと言ってたのも、ナイことにしちゃっていいくらいだわね。


「改めて、いらっしゃいませ☆ よーこそ☆ あたし……ミーカのお菓子のお店へ☆」

「え? お菓子なのかい?」


 ディアリナが興味津々に店内を見渡す。

 オレも同じように見渡した。


 改めて店内の様子を探ると、店主であるミーカちゃんのノリに比べるとずいぶんと落ち着いた様子なのが見て取れる。


 エクストラフロアのログハウスを思わせる壁や天井。

 木製のテーブルとイスは、見た目のシンプルさとは裏腹にかなり良い作りのようだ。


 入り口のドア付近には、ガラス製の台のようなものがおいてあって、台の中には、色とりどりの果物が乗った何かが置いてある。

 果物をカットしたものだってのは分かるんだが、宝石みたいにキラキラしてて、食べ物だって言われても信じられない光景だ。


 それにダンジョン内でしか手に入らない、透明で特殊な鉱石をこんなふんだんに使っているのも信じられないわね。


「これは……? 妙にガラスが冷たいな。

 まさか――中に冷気を循環させることで、生の果物を持たせているのか?」

「デュンケルくん正解だよー☆」

「……ッ!?」


 デュンケルの独り言にミーカちゃんが答えると、彼は大きく目を見開いた。


「貴様……ッ、なぜ我が名を知っている?」

「え? だってマスターと一緒に、よくダンジョンの様子見てるしぃ☆」


 そういや、アユムはダンジョンの中の話し声がよほど小さくない限りは拾えるんだっけか。


「アユムの眷属か。ネームドユニーク……ベースはサキュバスだな?」


 サリトスの旦那が確認すると、ミーカちゃんはうなずいた。

 その横で、デュンケルがなるほど――と呟いてから、ミーカちゃんに訊ねる。


「お前――古井戸解放の時に喋っていたサキュバスか」

「せーかい☆ ネザーサキュバス改めネザースイーツサキュバスのミーカちゃんでっす☆ 以後見知りおきをよろしくぅ☆」


 キャハ☆――っと笑って顔の横に指を二本置く。本当にわざとらしいのに、それが似合ってて可愛いの危険すぎるッ!


 魅了は使ってないハズなのに、おっさんはミーカちゃんに可愛くおねだりされたら、色々買っちゃいそうなんだけどッ!


 そんな心の葛藤をしていると、ディアリナ嬢ちゃんがミーカちゃんに訊ねる。


「ところで、お菓子のお店って言ってたと思うんだけど?」

「いえす☆ サキュバスのあたしが逆に魅了されちゃうアユム様のレシピの数々ッ! そこからお菓子のレシピだけをメインに抽出ッ! セブンスししょーの指導の元、アユム様から認められた品々をお店に並べてまーすッ☆」


 ディアリナ嬢ちゃんが思わず喉をならした。


 オレ的には、セブンスのラーメンみたいな料理に期待したかったけど、お菓子ねぇ……。

 確かに甘くて香ばしい匂いはお店に漂ってるけどさぁ……。


 貴族から、平民じゃ味わえない甘味料理ってのもらったことあるけど、甘すぎて正直シンドかったのよねぇ……。


 それこそ、甘味料理っていうか甘味。しかも砂糖やハチミツそのものを料理っぽくしてあるだけ――みたいな。


 肉の焼ける匂いッ!

 酒の芳醇な香りッ!

 脂のうま味ッ!

 ――みたいな感じの方が、おっさん好きだなぁ……。


「口で言ってもピンと来ないと思うので、みなさんお席へどーぞ☆

 セブンスししょーに倣って、最初に来店されたみなさんには、まずは一皿プレゼントしちゃうゾ☆」


 オレの考えていることが顔にでてたワケじゃないと思うけど、ミーカちゃんは席に案内してくれる。


「はい☆ お冷やとオシボリだよー☆

 お冷やはお代わりできるから、気軽に言ってね☆」


 席につくと、水とオシボリ? って濡れタオルを持ってきてくれた。

 ――ってあれ? 席に案内してくれたあと、厨房に行った記憶がないのに、ミーカちゃんは厨房から出てきたような……?


「……お前たち、ミーカに喧嘩を売らないように」


 水とオシボリを置いたあと、ミーカちゃんはまた居なくなっている。

 周囲に、ミーカちゃんがいないのを確認してから、サリトスがかなり真剣な表情で告げる。


「気づいていたか、サリトス」

「ああ……」


 同じような真剣な顔で、デュンケルも言い始めるのを見ると、さすがに尋常じゃない。


「二人ともどうしたんだい?」

「お前たちは気づかなかったのか?」


 問われて、オレと嬢ちゃんは顔を見合わせる。


「彼女は水を置いたあと、俺たちの目の前から姿を消した。

 しかも、フレッドがそれに気づいた様子がないくらい、静かに――だ」

「消えた?」

「ああ。文字通りだ。転移系ルーマの一種なのだとは思うが」


 言われて、ミーカちゃんがいつの間にか厨房から出てくるところだった理由に気づいた。


「それだけではないぞ。あいつは自分をネザーサキュバスと言っていた」

「言ってたね。ふつうのサキュバスとは違うのかい?」

「無論だ」


 ディアリナの疑問にデュンケルは真剣にうなずく。


「ゴブリンやコボルト、オークなどのモンスターには階級を示すタイプの亜種がいるだろう? ナイトやロード、キングなどというやつだ」


 オレとディアリナ嬢ちゃん、ついでにサリトスの旦那までもがうなずいて、先を促す。


「ダンジョン内外問わず、そもそもサキュバスの数が少ないせいであまり知られてはいないのだが――サキュバスもそういう階級型モンスターだ。

 リトルメアを最下級として、サキュバス、ハイサキュバスと階級が上がっていく。

 ネザーサキュバスというのは、そんな種族たちの最上位だ。ゴブリンやオークで例えるなら、キングのような存在と言える」


 マジかよ……。

 思わず、やばい意味で喉が鳴る。


「単純な能力だけなら、我々でもどうにかなるだろう。しかしサキュバスの弱点である近接戦闘能力の低さが無くなっているコトや、強力なブレスの使い手であるという点は油断できない。

 それに、そもそもがサキュバスだ。それだけの強さを持つ上に、人の精神で耐えられないような精神攻撃を仕掛けてくるのだから、手を出したら勝ち目はない」


 あのカメの一件以来、おっさんの中ではお調子者のイメージがあるデュンケルだが、今ここではかなり真顔で告げるのだから、ガチの話なんだろう。

 言われてみれば、出会い頭のスマイルに不自然を感じないまま、ミーカちゃんに強烈に惹かれてた。

 本人は勢いで、何かのルーマを使ったかのように言ってたけれども……。


 ……うあ。あの瞬間、自分が魅了されかかってたって気づいてなかったのか、オレ。


「お待たせしましたー☆」


 自分の醜態に頭を抱えていると、ミーカちゃんが明るい声でやってきた。


 両手にお皿を持ちつつ、持ちきれない分の二皿は彼女の周囲に浮いている。


「こちら、サービスの一皿になりまーす☆」


 そうして、オレたちの前に、アユムに認められたというお菓子の一つが乗った皿が置かれるのだった。



ミーカ「いえーい☆ メインの出番キター☆」

セブンス「きっと、今回が出番のピークですよ……」

ミーカ「し、ししょーだって、また主役級の出番あるってばー……き、きっとね★」


 次回は、フレッドたちがミーカのスイーツを実食します。



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