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1-4.手強い好敵手は大歓迎さッ!

     

 おおおおおおッ!

 いいねッ! いいねッ! いいねッ!

 最高だよ、あの三人組!!


 俺は管理室でモニタリングしながら、テンションを上げていく。


「もう、あいつらッ! 神と崇めてもいいッ!!」

「崇めないでください。この世界の神は主、ただ一人です」


 ミツが横で何やらブツブツ言っているが、実際に崇めるわけもなく、ただの気分の問題なので、気にしないで欲しいところだ。


「それはそれとして――手紙にペンに、椅子とテーブル……。

 いきなり提供するほど、気に入られたのですか?」

「そりゃそうだろ。だって、王国調査隊の兵士たちのがっかり具合を見た後なんだよ?

 俺が見たかった、俺がイメージした探索者ってまさにあの三人組じゃないかッ!」


 興奮気味にそうまくし立てると、ミツも確かにとうなずいた。


「ああいった方々は、死後ダンジョンマスターとしても登用させて頂いているのですけれど」

「なんだよ、あの手の連中がダンジョンマスターやってもどうにもならないのか、この世界……」


 それはまぁ確かに、異世界人に頼りたくなるか。


「しかしなぁ――調査隊みたいな方が一般的な思考で、あいつらが異端って、とんでもないな……」


 あいつらの慎重さは正しい。

 扉を開けたら、中から矢が放たれたり、魔法陣に乗った瞬間黒こげになったりする可能性が往々にしてある。


 少なくとも俺の知識における、この手のシチュエーションの迷宮探索ってのはそういうもんだ。


 だから斥候系スキルを持ったやつが先行し、罠の看破や索敵を行う。

 そうして安全を確保してから、戦闘職の面々が斥候が安全確認済みの道を進んでいく。


 なのに、調査隊の様子や、三人組を案内して回っている王国兵のリアクションを見る限り、この世界ではそれは当たり前ではないらしい。


「そういやミツ……『迷神の沼に沈む』って言葉があったけど、あれって死ぬって解釈していいんだよな?」

「ええ、そう思って頂いて構いません。

 創主神話において、迷神ミノス・ワイムの住まう沼の底には、死者の国があると言われていますからね」

「なるほど」


 俺は納得してうなずく。

 この世界には、創主神話と呼ばれる物語が信じられており、それにちなんだ言い回しなどが多数あるようなのだ。



 完全な余談だけど――

 最初、この世界の人間が、創主ゲルダ・ヌアと呼ばれる神を中心とした創主神話というものを信じていると聞いたとき、首を傾げたことがある。

 ミツの上司である創造主とはまったく異なる雰囲気だったからだ。


 それに、創造主が存在してるのに、実在してない神を信じるのはありなのか――と。


 ただそんなこと、ミツから言わせれば、地球も含めたほとんどの世界がそういうものなんだそうである。


 地球にも、地球人が認識できていない管理神がいるそうだ。

 だけど、だれもがそんな神を知らないから、イザナミやらゼウスやらの神話を作り上げている。

 この世界も、それと同じだと、ミツは言う。


 そう言われてしまうと、納得せざるをえない。


 ついでにミツは、そういう理由で認識してない現地人が架空の神を崇めることは気にしないが、事実を知ったものがそれ以外を神と崇めることには納得できないそうだ。


 このあたり、ちょっと堅物だと思う。


 元々神に近い場所にいるミツはともかく、人間からしてみれば、神は遠い存在だ。実在しようが実在しまいが、神は神でしかない。

 その世界、その国、その土地で、あるいは個人各々が、それぞれが信じるように、信じるままに、取り扱うだけである。


 さて、余談はこの辺にして――



「そろそろ、三人組が本格的に挑戦するみたいだ」

「初の挑戦者ですね……仕掛けがどう作用するか楽しみです」






 サリトスたちが『チャレンジ』と口にして、転移する。 


 入り口の転移陣によって飛ぶ先は、小さなログハウス仕立ての小屋の中だ。


 三人はきょろきょろしているが、やがて小屋の中には扉と魔法陣以外は何もないと気づいたのだろう。

 唯一の扉の方へと三人は歩いていく。


 その扉には最後の警告を書いたプレートを下げておいた。


 その内容は――


  この扉 外から開けることはかなわず

  扉を開ける前であれば、まだ帰路は残る

  魔法陣に立ち『リターン』と唱えよ



 それを見た三人は、肩を竦めてみせる。

 そして三人の会話をダンジョンに設定してあるマイクが拾う。


「此度のダンジョンマスターはずいぶんと過保護のようだ」

「まぁここまで来て扉を開けないって選択肢はないだろうさ」

「行こうぜ二人とも」


 三人はためらうことなく、扉を開けて廊下に出た。

 窓も何もないログハウス風の廊下を彼らが少し歩くと、最後の扉が姿を見せる。


 そこにも、俺はメッセージを用意しておいた。



  ようこそ、『変遷(へんせん)螺旋(らせん)領域(りょういき) 機巧迷宮(きこうめいきゅう)ラヴュリントス』へ

  このダンジョンは、力や体力だけでなく、

  確かな技能と、豊かな知性、

  したたかな運の全てを持ちうる挑戦者を歓迎する


  勇気の剣を携え、覚悟の盾を構えた挑戦者たちよ

  幾度と無くここに挑み、いずれ我が元へと至るがいい


  さぁ、気持ちが定まったのなら扉を開けたまえ

  その時より、本番のはじまりだ



「ここのダンジョンマスターは煽るのが上手いね」


 ディアリナが笑うと、フレッドも横でうなずいている。


「確かな技能に豊かな知性、したたかな運――なるほど、入り口で何度も篩いにかけてくるわけだ。

 普通の探索者があまり持ってねぇもんな」


  笑う二人の横で、サリトスが静かに剣を抜くと、それを掲げた。


「ラヴュリントスのマスターよ!

 堂々たる誇り高きマスターよ!

 聞こえているか分からぬが、敢えてここで宣誓しようッ!

 他の探索者は分からぬ。だがッ、我ら三人はいずれ其方の元へとたどり着くッ!

 首を洗って待っていろ、などという無礼は口にせんッ!

 しかと待ちかまえていろッ! 其方を落胆させぬこと、ここに誓うッ!」


 狭い廊下でよく吼える――そんなことを思ったけど、俺は自分の口元が緩んでいるのを自覚する。


 ああ、聞こえている――聞こえているともさッ!


 サリトスの掲げた剣に併せて、ディアリナが拳を掲げた。


「あたしも誓うよダンジョンマスター。

 アンタはこれまでのダンジョンマスターとはちょっと違いそうだ。あたしらが楽しませてやるから、あたしらを楽しませてくれよッ!」


 二人の横で、フレッドが一緒でいいのか? と二人に問いかける。

 ここまで来たら一蓮托生だと告げる二人に、彼も良い笑顔を浮かべて、拳を掲げた。


「オレも誓わせて貰う。

 どんな仕掛けも力任せ数任せってのに飽き飽きしてたところだ。

 ここのダンジョンマスターもそうなんだろ? そうじゃねぇモンを見せてやるから、それで攻略できるようなトラップは勘弁なッ!」



 いいね、いいね! こういう気持ちの良い挑戦者なら大歓迎だッ!


 俺はモニターの前で嬉しさのあまりジタバタ動きながら、ミツに訊ねた。


「あいつらってさ、別にダンマス側の事情なんて知りようがないんだろ?」

「そのハズですが……アユム様のメッセージを見て、何か思うコトがあったのでしょう」

「そうかそうか」


 ミツの言葉に、ニヤニヤとうなずく。それから彼女に、少しの間黙ってるように告げて、俺は手元のマイクのスイッチをオンにする。

 それから、可能な限り低く威厳を持った声を意識して告げた。


「しかと聞き届けた。汝らの健闘を祈る」


 瞬間、三人は顔を見合わせて、とてつもなく嬉しそうで、とてつもなく獰猛な笑みを浮かべてみせる。


 きっと、俺も同じ顔をしていることだろう。

 王国の調査隊が来たときはどうなることかと思ったけれど、こいつらが定期的に挑戦してくれるのなら、やる気がでるってもんだ。




 そうして、三人は扉を開ける。

 目の前に広がるのは、木漏れ日が優しく降り注ぐ緑に満ちた森林だ。


 三人が扉をくぐって森に出ると、その背後に在った扉はゆっくりと透明になって消えていく。


 そこに残るのは、看板が一つだけ。

 その看板に触れながら、サリトスが読み上げる。



  第一層 フロア1

    いずれ数多の足跡に踏み固められし、緑の道



 サリトスがそれを口にし終わると、気を引き締める。

 もちろん、ディアリナとフレッドもだ。


「いくぞ二人とも。あんな宣誓をしたそばから倒れるワケにはいかないからな」


 そう告げるサリトスに、ディアリナとフレッドは力強くうなずいた。





 これが――今後、長い付き合いになる探索チームと俺との、最初のやりとりだった。

アユム「ひゃっふー!」

ミツ「少しテンションがあがりすぎでは?」


 ある意味ここまでがプロローグだったかもしれません。

 今後もアユムの視点と、サリトス達の視点が入れ替わりながら進んでく予定です。

 たまには無関係な人の視点になるかもしれませんが。


 そんなこんなで、次回は ディアリナ視点で攻略開始です。

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