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3-24.それぞれの風と道の行き先


『ニンジン五匹程度に……ッ!』


 毒づきながら、シンが剣を振るう。


 背後から迫り来る熊のプレッシャーに、焦燥があるんだろう。

 三人組の動きが悪い。


『ぽんぽん、頭の葉っぱ投げてくるんだから……ッ!』


 ブレスを発動しようとして、飛んでくる葉っぱのせいで、中断する。

 パースィーはそれを繰り返しているのは、シンとヴロイが上手くニンジンたちを牽制できていないからだ。


『すまない。いつものように立ち回れない』


 謝りながらも、ヴロイはナイフを投げて、葉っぱを投げようとするニンジンを牽制していく。


 それでも、シンとヴロイは五匹のニンジンの攻撃を捌いていたのだが――


『しまったッ!』

『パースィーッ!』


 一匹のお化けニンジンが、シンとヴロイの間を抜けていく。


『ああんッ、熊に追いつかれちゃうてばぁッ!』


 目の前に迫るニンジンを見ながら、パースィーは毒づいて横に飛ぶ。


『とりあえず、あっち行ってッ!』


 ニンジンの跳び蹴りを躱したパースィーは続けて、フルスイングで手にした杖を振り抜いた。


 パースィーの腕力はそれほどでもないだろうけど、お化けニンジンが見た目より軽かったからだろう。

 背中を強打されたニンジンはポーンっと吹っ飛んで、熊の前に転がった。


 熊は目の前に転がってきたニンジンに腕を振り下ろして、お化けニンジンを粉砕する。


 自分のツメに付いたニンジンの果汁をペロリと舐めて首を傾げた熊は、パースィーを見た。


 熊と目があったことに、パースィーは身を竦ませる。


『死んでも死なないダンジョンとはいえ、ぐちゃっと潰され死を体験なんてしたくないんだけどッ!』

『それは俺たちも同じだから、危機を回避できたなら、ブレスを構えてくれパースィーッ!』

『あ、ごめんッ!』


 とはいえ、猛烈な気配を背後から感じてるだろう三人の動きは、なお焦りに満ちていく。

 当然、動きがどんどん悪くなっているのが見て取れた。


 それでも何とか一匹倒して、残りは三匹。


『やばいッ、やばいッ! もう追いつかれるぞッ!』

『何とか時間を稼げないのッ!?』


 悲鳴のような声を出す二人に、ヴロイは何か思案顔になる。


『……一種の賭になるけど、樹液を捨てていいか? 上手く行けば足止めになると思うんだが』

『任せるッ! 一度死ぬのも、死んだ後で何か失うのも嫌だしなッ!』

『賛成ッ! 手があるなら、やっちゃってッ!』

『分かった。ちょっと熊の方を対処してくるから、抜けるぞ!』

『了解だッ!』


 即座にヴロイはニンジンとの前線から抜け、背後から迫る熊へと向かう。


『上手くいってくれよッ!』


 そして、腕輪から取り出したビンを熊へと向けて投げつける。

 直後に一瞬――あ、ミスった……みたいな顔をヴロイがした。


 何をミスったんだろ?

 ビンの口を開け忘れた?

 それとも、投げる時のチカラ加減かな?


 放物線を描いたビンはそのまま真っ直ぐに熊へと向かっていき――


「あ、弾いた」


 それを見ていたミツが思わずそうこぼす。


 そう。

 熊は飛んできたビンを雑に手を払って弾いた。

 ビンはそのまま、近くの倒木の壁にぶつかって割れた。


「偶然とはいえ、成功だな。うん」

「投げたヴロイさんはそんな風に思ってないようですけど」


 ミツの言う通り、ヴロイは少し青ざめた顔をしている。

 だけど、すぐにその表情は変わるだろうな――とは思う。


『ヴロイ、どうだ?』

『ええっと……たぶん、失敗した、かも……』


 かなり自信なさげなヴロイ。


『なら前線に戻ってくれ。だったら当初の予定通りに切り抜けて逃げるぞッ!』

『いや、違う。失敗してないッ! むしろ大成功かもしれないッ!』


 樹液の付いた倒木の壁を見ていた熊が、それを破壊して地面に腰を下ろして舐め始める。

 それを見て、ヴロイは小さくガッツポーズを取った。


『しばらく熊は追ってこないはずだッ! 残ったニンジンはしっかりと片づけるぞッ!』


 すぐに仲間の方へと向き直ってそう告げると、仲間たちもうなずいた。




 一方ボス部屋はというと――


『ちッ、(カラス)がッ! 独りだけ逃げようとしやがってッ!』


 なにやらギルマスが喚いているけど、どの口が言ってるんだか。


 そんなギルマスは大量のリーフヴォルフの群れに囲まれながらも、何とか緑狼王に近づくために、奮闘している。

 いつまで持つのかな――というカンジで、ジリ貧なのは目に見えてた。


『クソッ、俺を認めさせるには……ッ!

 頭の悪い世間に、俺のやり方を認めさせるにはッ、実力を示し続けなければならないんだよッ!

 だから退()けッ、退()きやがれッ! 俺はテメェらのボスの首を狩らないといけないんだよッ!!』


 当然、狼たちはそんな言葉など聞き入れてくれるわけがない。

 ギルマスの孤軍奮闘はまだまだ始まったばかりというわけだ。



 そしてデュンケルはというと――

 クロバーの木を見上げながら地面を蹴り、先ほどの加速と同じように両手から炎を噴射して大きく跳んだ。


 そのままクロバーの木の頂上付近まで跳び上がり、手頃な枝に着地する。


 デュンケルは不安定な足場の上で器用に飛びかかってくるリーフヴォルフを振り払いながら、木の反対側へと回り込んでいく。


『くくくく……あとはここから飛び降りれば……ッ!』


 大正解。

 裏技じみた方法ではあるんだけど、こういう逃げ方は想定していた。


 バサリとデュンケルはマントを翻し、飛び降りる為に膝を曲げる。

 その時だ――


『む?』


 ボキリ……と、デュンケルの足下から音が響く。


「……デュンケルさん、こういうアクシデントに愛されてるんでしょうか?」

「なんか、そんな神様っていないの?

 トラブルと笑いの女神――アクシ・デンタみたいの」

「人間の神話にも出てきませんね」

「じゃあ創るか」

「アユム様。神話用とはいえ、ほいほい神を増やすのやめてくれませんか……?」


 俺とミツがそんなやりとりをしているうちに、デュンケルは折れた枝から放り出されていた。


『このままでは終わらんからなぁぁぁぁぁ~~……ッ!!』



ミツ『緑狼王――ふつうの探索者(シーカー)さんが倒せるのですか?』

アユム『クロバーの木を倒し、増援を防げば少数精鋭でいけるし、倒さないでも、数の暴力でいけるとは思うぞ』


 ちょっと短めですが、キリが良かったので一端区切ります。


 次回は、サリトスたちに視点を戻って探索の続きの予定です

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