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3-14.倒木と、赤熊と、階段と


 フレッドが完成度Aのワイルドファングを二本同時に作り出してから、間に一日置いて、本日――


 サリトスたちは、朝もやや早めな時間帯から、フロア4へとやってきていた。


 俺とミツは、管理室に朝食を持ち込んで、その様子を伺っている。


 ちなみにメニューは、ソーセージも一緒に焼いたベーコンエッグ。サラダ。オニオンスープに、俺は白米で、ミツはふわもちの白パンだ。


『ケーンくんたちが階段を見つけたって情報マジ?』

『ああ。どこかの酒場で飲んで話をしていたのを聞いていた奴がいてな』


 こう見えて耳が大きくてな――とサリトスが不敵に笑う。


『だから早めの時間にやってきて、ケーンたちより早くフロア5へ行こうってコトさ』


 ディアリナが補足すると、フレッドも納得したようにうなずいた。


『先日バドたちが探索していたのは、東側だったハズだ。

 調べ切れてない東側を潰しにいくぞ』


 そうして、サリトスたちは歩き出す。




「さて、バドたちが見つけられなかった階段への道を、サリトスたちは見つけられるかな?」


 俺は期待しながらそう独りごちる。


「もきゅもきゅ」


 その横で、ちょっと大きめの白パンを両手で持って、顔をパンに埋める勢いで食べているやつがいた。


 こちらの視線に気が付いたミツはパンを口から離さずに、小首を傾げる。頬袋いっぱいにモノを詰め込んだ小動物じみた仕草に、俺は小さく吹き出しながら、首を横に振る。


「何でもない。幸せそうに食べてて何よりだと思っただけだ」


 告げて、俺はスープを啜りながら視線をサリトスたちを映すモニタへと向けた。


 それにしても美味いな、このスープ。

 溶けだしたタマネギの甘みが、塩ベースのシンプルな味付けのこのスープに、深みとコクを与えているようだ。

 まだ残ってるようなら、おかわりするかな。




 スープを啜りながら視線を向けると、モニタに映るサリトスたちは、すでにマッピングを終えたところは危なげなく進んで行っている。


走牙(ソウガ)連刃(レンジン)ッ!』


 サリトスが下から上への逆袈裟を放ち、それに交差させるように反対側から袈裟斬りを繰り出す。

 交差した衝撃破が空を駆け、道を塞ぐモンスターたちをまとめて蹴散らした。


 フロア4攻略開始当初こそ驚いていたこのフロアのモンスターも、危なげなく倒していく。


 実はバドたちが見つけたアドレスクリスタルのすぐ近くまでは、サリトスたちも攻略を終えていたりする。

 なので、以前に東側攻略途中で切り上げた辺りを少し進むだけで、バドたちの見つけたアドレスクリスタルのある池の(ほとり)に到着した。


 とはいえ……歩きながら、モンスターと戦いながら、周囲を警戒しながら――となるとかなり時間がかかる。


 サリトスたちが畔に到着する頃には俺はすっかり食事もデザートも食後のコーヒーも終えていた。


 ……俺の横で何個目か分からないパンを頬張ってる御使い様のことは脇へ置いておこう。



『ここが、バドたちがたどり着いたアドレス・クリスタルかね』


 周囲を見渡しながら、そう口にするディアリナにサリトスはうなずく。


『小さな池の対岸に階段が見える場所――となればここだろう』

『小さいと言っても飛び越えるのは無理そうだし、泳いで渡るのも無理そうだわね。なんか見たコトのない魚も泳いでるし』

『見てよあの小さめの。近くの大きめの魚に集団で噛みついてるよ』

『泳いで渡れば、次の餌食は俺たちになるだろうな』


 うむ。

 ピラニアとかアリゲーターガーとかいるからな、その池。


『ここへ入ってくる廊下と平行するように、向こう側にも廊下が見えるけど……』

『……そのような道、あったか?』


 サリトスとディアリナが揃って首を傾げる横で、フレッドが下顎を撫でながら答える。


『無くは無かったけれども……。

 ただまぁ通れそうにはなかったわよ、あそこ』

『ならば、とりあえずそこへ行くぞ』

『そうさね。ここで立ち止まって考えていても始まらないしね』




 フレッドの案内で、サリトスとディアリナは横道の入り口へとやってくる。

 それを見て、二人もなるほど――苦笑した。


『倒木が道を塞いでいるのよね』

『これをどかす手段を考えないといけないワケだね』

『……だが、どうにかせねば進めまい』


 そうして三人は、目の前にある倒木を調べ始める。


『これまでの倒木と違い、甘い香りがするよねこれ』

『フラフラフライが集まってる木の匂いに似てないかい?』

『言われてみるとそうだな』


 押したり引いたり、無駄とわかっていてもアーツで攻撃してみたり――もちろん、そんな単純なことで道は拓かない。


『ここへ来て、ツケが回ってきたか』

『倒木をどうにかする方法、何にも思いつかないままだったからね』


 三人が悩んでいると、そこへ新しい声が混ざってきた。


『おや、サリトス様たちではありませんか』

『一番乗りは出来なかったわいな』


 現れたのは、アサヒとゼーロス。

 当然、その後ろにはバドとケーンもいた。


『そうでもない。この倒木をどうにかせねば、俺たちも進めないのだからな』


 二人に対してサリトスがそう答えると、バドたちも納得のようだった。


『やっぱそれだよなー……』

『どうしたもんかなー……』


 サリトスに示され、バドとケーンが困ったように呻いた直後――


 GYAOOOOOOO――……!!


『熊かッ!?』


 赤い熊が姿を見せた。


『これだけメンツ揃ってれば負けないわいな』

『はい。手早く処理をして、相談の続きを……』


 素早く武器を構えるアサヒとゼーロスを、フレッドが制した。


『ちょい待ちお二人さん。

 全員、あいつに追いつかれないけど、振り切らない速度でクリスタルのある部屋への通路を目指してくれ』


 サリトスとディアリナはそれに素早くうなずき動き出す。


『試したいコトがあるんで、倒されるとちょっと都合が悪いのよ』


 戸惑うバドたちへそう説明して、フレッドは行った行ったとジェスチャーで示す。


『フレッドのおっさんの言うとおりにしようぜ』

『同感だ。二人ともサリトスたちと一緒に退くぞ』


 バドとケーンも同意すれば、アサヒとゼーロスも逆らう気はないようだ。

 武器を納めて動きはじめる。


 アサヒとゼーロスはするべきことが定まると行動が早いな。

 頭脳労働をバドやケーンに任せてるからこそ、バドやケーンの決定や指示には基本的に従うようにしてるんだろう。


 赤熊はズシンズシンと音を立てながら、彼らを追いかけていく。


『あいつが走ったところ、見たことないよな』

『あれが全力なんじゃないのかい?』


 パワーはあるけどスピードはないようにしてあるからな。


 そのスピードの無さと、出現位置周辺の地形が複雑ながら元の場所に戻ってきやすい歪んだ碁盤状であることが合わさって、逃げ切りやすいようになっている。


 そんな赤熊だが、先ほどの倒木の前で急に足を止めた。

 クンクンと鼻を動かし、何かを見つけたように、倒木を見つめる。


『GYAU……?』


 どこか愛らしく小首を傾げたあと、その両手の爪で倒木を粉砕した。

 そして、その場で腰を下ろすと、倒木の破片に手を伸ばして、それを舐め始める。


『おし。道は拓いたな』


 フレッドが「どーよ?」と胸を張ると、ゼーロスが思い切りその背中を叩いた。

 何度も。バンバンと。

 よほど痛いのか、フレッドがわりとガチで涙目になってる気がするぞ。


『がはははッ! やるわいなフレッドッ! よもやあの熊が道を拓くカギだったとは思わなかったわいッ!』

『痛ぇよッ! ゼーロスの旦那の全力張り手は痛ぇんだよッ! 手加減してくれッ!』


 フレッドがゼーロスを振り払ったところで、バドが目を眇める。


『あんま騒ぐと、熊が怒るんじゃないのか?』

『その心配はなさそうだ』


 サリトスが熊を示すと、熊はフレッドたちの騒ぎなど気にもせず、嬉しそうに枝をガジガジと噛んでいた。


『とはいえ、あそこに居座られるのも面倒だ。()るんだろ?』


 気楽な調子のケーンに、サリトスはうなずいて、ディアリナへと視線を向けた。


『ディアリナ』

『応とも。いつものやつだろ?』


 フレイムタンを示し、ディアリナが笑う。


『でも今回は強敵相手だからね……アサヒ、ちょいと手伝ってもらってもいいかい?』

『ええ。構いませんよ、ディア』

『一撃でしとめるつもりなんだけど、失敗する可能性もある。その場合の後詰めを頼んでいいかい?』

『承りましょう』


 ディアリナとアサヒの二人は軽い打ち合わせのあとで、気配を殺し、そろそろと熊へと近づいていく。

 可能な限り音を立てず、息も殺し……。


 倒木をかじるのに夢中な熊の背後へと近づいていき――


『ふッ!』


 フレイムタンを構えたディアリナは、呼気とともに首の後ろへと突き立てる。


『……!?』


 声に鳴らない悲鳴をあげ、赤熊は動こうとする。

 だが、熊が何かをするよりもはやく、ディアリナの口は呪文を唱えた。


『ブリッツ』


 後ろ首の中で、小さな火の玉が弾ける。


 だけど――


『――……ッ!?』


 やぶれかぶれのような熊のバックナックルがディアリナを捉えた。

 とっさに左腕でガードするものの、ディアリナはその勢いを殺すことができずに吹き飛ばされて、茂みの中へと突っ込んでいく。


『おいおいッ! 首の後ろ半分えぐれてるのにあれかよッ!』


 その光景に、ケーンが思わず呻く。

 呻きながらも、すでに走り出してもいた。


 ケーンだけではない。

 サリトスもフレッドもバドもゼーロスも、ディアリナが吹き飛ばされた時点で走り始めている。


 だが男衆が動くよりも速く――


『キリシマ流――参ノ型(さんのかた)……』


 もしかしたら、ディアリナが吹き飛ばされるよりも速く――


 ――(タチ)を抜き放ち、構えていたアサヒが地面を蹴っていた。


 地面スレスレを駆けるように身を低くしたアサヒが、地面を踏みしめながら、すくい上げるように剣を振り上げる。

 振り上げた剣をそのまま両手で握り、そこから一歩踏み込み――


『……虎伯(コハク)ッ!』


 縦一文字に振り下ろした。


 真っ二つ――とはいかなかったものの、首の後ろがえぐれ、身体の中程まで縦に裂かれれば、さすがに赤熊も生きてはいられない。


 ぐらりと傾き、地響きをたてながら、赤熊はその場に倒れた。




「すごいですねー……アサヒさんの今の業」


 もぐもぐと――何個目ともわからない――パンを食べながら、ミツが感心している。


「そうなのか?」

初太刀(しょたち)の時点で必殺に値する威力を秘めていましたが、その目的は牽制。あくまでも本命は弐ノ太刀(にのたち)の振り下ろしですね」

「まぁそんな気はしたけど……」


 そんなやりとりをしてて、俺はふと思った。


「俺、何でそんな技を理解できたんだ……?

 初太刀とか速すぎてふつうは目で追え無そうな気がするんだけど」


 いやまぁ今更だけど。

 本当に、今更なんだけど。


 現代日本人の感覚のままでいたなら、どう考えてもサリトスたちのアーツは目で追えない気がするもんな。


「それはですね。ダンジョンマスターとして転生するにあたって、アユム様の様々な能力が大幅にアップしてるからです」

「そうだったのか……」

「そうだったのです」


 えへん――となぜか胸を張るミツを横目に、俺はモニターへと視線を戻した。




『嬢ちゃん無事かい?』

『一応ね……。でも、咄嗟の防御で使った左腕は無事じゃなさそうだよ……』


 フレッドの手を借りて立ち上がったディアリナの左腕は、どうにも折れているようだ。


『ルーマで腕の防御を固めてこれだからね。まともにやりあってたら、やってられないくらいのパワーさ』


 苦笑するディアリナに、バドは液体の入った瓶を一つ取り出した。


『ディア姉ちゃん、使ってくれ』

『いいのかい、バド?』

『この状況で、そっちのチーム状況無視して抜け駆けするのは、違う気がするしな』


 うなずくバドに、ディアリナは笑みを浮かべてうなずいた。


『ありがとさん。使わせてもらうよ』


 受け取った瓶の中の液体を、ディアリナは折れている部分に振りかけると、みるみると腫れが引き、肌の色が落ち着いていく。


 ディアリナは軽く動かして腕の具合を確かめ、満足そうにうなずいた。


 ほんと、どういう原理なんだろうな……あれ……。

 何度見ても不思議だ……。


『アサヒも、後詰めありがとね』

『そういう話でしたからね。ディアもご無事なようで何よりです』


 それぞれのやりとりを横目に、サリトスとケーンは何かを話し合っていたようだが、それも終わったようだ。


『ディアリナが問題ないようであれば、このまま七人で次のフロアへと行こうという話になったんだが、各自どうだ?』


 サリトスが全員にそう訊ねると、誰も異論をあげることはなかった。


『了解した。では行こう』


 全員の意志を確認して歩き始めようとしたサリトスに、ケーンが待ったを掛けて告げる。


『七人での行動中のまとめ役はサリトスに任せた』

『意義なーし』

『おっさんもー』

『あたしもないね』

『私もそれで良いかと』

『うむ。心強いわいな』


 満場一致というやつのようだ。


『……了解した。俺程度に務まるかは分からないが、善処しよう』


 こうして生まれた即席の七人パーティが、フロア5へと進む階段へと足を掛けるのだった。




 そんなサリトスたちの後方――


「お? デュンケルだ」


 倒木の隙間から見えるサリトスたちの背中を見てから、倒木の足下を軽く撫で……


『ククククク……』


 デュンケルはニヤリと笑っていた。



ミツ「しばらくは七人で動くのですかね?(もぐもぐもぐ」

アユム「お前はいつまで朝食なんだ……?」

ミーカ「やっほー☆ 二人とも~、ランチもってきたよー☆」

ミツ「ごくん)今終わりました」


 次回からはフロア5攻略になる予定です

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[一言] アユム「朝食が終わると何が始まるんだ?」 ミツ「知らんのか?昼食が始まる」 食事を必要としないけど太らないのだろうか?
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