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3-13.友を褒め、共に喜ぶって大事だよな


 サリトスたちがフロア4の骸骨商店に入ってから、二時間ほど経った。

 ……経ってしまったというべきか。


『フレッド。いい加減にしてくれないか?』

『もう少し……もう少し頼むぜッ!』

『何度目のもう少しだ……』


 ディアリナとサリトスがぐったりしながらうめく。

 その原因たるフレッドは、素材を壷へと放り込み、ルーマを込めた棒で壷をかき混ぜる。


 フロア4の骸骨商会の中を映し出すモニタには、延々とその映像が流れていた。


「すっかりハマちゃってますね、フレッドさん」

「世界的には良い傾向ではあるんだけど、チームとしちゃ良くない傾向ではあるな」


 足並み乱しちゃってるからなぁ……。


「お二人とも待ちくたびれてぐったりしちゃってますよ……」

「でも、待ちくたびれてぐったりしてるだけなんだよな。フレッドが融合にハマっているコトに対しては、無意味だとか無価値だとか、そういう言い方はしていない」


 これって結構重要なことで、今後もフレッドが融合沼にハマりっぱなしになっても、文句を言う気はないってことだろう。


『…………ッ!? キタ――――――ッ!!!!』


 二人を尻目に黙々と融合壷をかき混ぜていたフレッドが、突然の大声を上げ、激しいガッツポーズをしてみせる。


『急にどうしたんだい?』

『おっさんやったぜッ、ディアリナちゃんッ!』


 ディアリナに対して答えになってない答えを返しながら、フレッドは融合壷の取り出し口から、剣を二本取り出した。


 フレッドが手にしているのは先端が先割れスプーンみたいになってる長剣だ。


『グレイヴォルフの牙とグリーンヴォルフの牙、折れた山賊サーベルと、スペードの紙片の四つを融合して生まれた剣、ワイルドファングだ』

『わざわざ二本作ったのか?』


 サリトスの言葉に、フレッドはニヤリと笑った。


『材料を二つ分放り込んで、二つ分生まれろ~って念じながらやったら、二つ出てきたのさ』

『ほう……』


 それに、サリトスが目を細め、声を漏らした。

 ありゃあ頭の中で、その出来事の価値を計算してるな……。


『待たせちまったお詫びに、この二本はそれぞれ二人にプレゼントだ。鑑定してしてから装備してくれ』

『なんだい、デキの良さに自信があるのかい?』


 ディアリナがわざと挑発的な口調で訊ねれば、フレッドは自信満々にうなずいた。


『……ッ!』


 そして、鑑定したらしいディアリナが驚いたように目を見開いた。


===《ワイルドファング 稀少度☆☆☆(+☆)》=== 

 融合によって作られた剣。

 フレッド=スリーパルが作り出した。完成度A。


 刀身から鍔や柄、装飾に至るまで獣の牙を混ぜ込んで作られた魔剣。丈夫さとしなやかさを兼ね備えながらも、切れ味は鋭い。

 織り込まれた獣の牙が、使用者のルーマと反応し、狼や猪など、獣型のモンスターに対して、切れ味が増すという特性を持つ。


 高い完成度によって、以下のボーナスが付与されている。

 ・獣特効の効果UP(小)

 ・獣型からの特防効果(小)

==========================


『完成度A……ッ!? それに、ボーナスって……すごいじゃないかフレッド!』

『だろだろー? おっさん、やり遂げたって感じするぜッ!』


 驚くディアリナに、フレッドのおっさんは胸を張って大笑い。


『獣への特効力が増している上に、鳥型への特効力もボーナスで付与されているのか』

『え? 獣からの特防効果じゃないのかい?』


 サリトスの言葉にディアリナが首を傾げた。

 訝しみながらも、サリトスはディアリナの持つ方へも鑑定をすると、納得したようにうなずいた。


『ボーナス効果というのは、一律ではないようだな。

 俺の方は、獣特効UP(微小)と、鳥特効(小)だった』

『まぁ、元々ついてなかったチカラが付いてると想えば、どっちも価値はあるさね』

『その通りではあるな。

 そもそも、完成度がAという時点でかなりのものだ』


 使うにしろ、売るにしろ、間違いなく価値はある。


『お二人さんお二人さん』

『どうした?』

『おっさん、今確認したらさ……融合技能マスタリー取得してたわ。

 しかも、Lv2。さらに、量産融合Lv1ってルーマも取得してるのよ。すごくない?』


 この短時間で、ルーマ取得までいくとはすごいな。


 ……って、そういや持ってるルーマを鍛えるなら使い続ければいいって話は聞いてたけど、持ってないルーマってどうすれば取得できるんだろ?


 ――まぁ、ミツに聞いてみるのが一番か。


「難しく考える必要はありませんよ。

 この世界の人々は、全てのルーマLv0を保有していると考えていただければ。

 だから鍛え続けるようなコトをすれば誰でもLv1にはなります。

 ただ、その後のLvの上がり方は個人の資質と、トレーニングの仕方に左右されるんです。特にLvの上がりやすい資質は才能とか得意分野とか呼ばれるモノになりますね」

「じゃあ、フレッドってもしかして」

「はい。融合職人としての才能を持っていた可能性があります。

 もちろん、単純に二時間ぶっ通しで融合を続けた結果、鍛えられただけという可能性もありますけど」

「鍛えれば鍛えただけちゃんと鍛えられるっていうのはちょっとうらやましい気がするけどな」


 この世界では、ルーマの強化に限ってだけは努力はしただけ報われるわけだ。

 ……なんで、そんな世界の発展力がイマイチなんだよ……とは思うけどさ。


 見れば、サリトスとディアリナは二時間待たされただけの価値あることだと、フレッドを褒めている。

 ……きっと、こういうことが少ない世界なんだろうな……と、ふと思う。


 サリトスとディアリナはフレッドを褒めている。

 だけど、この二人以外だったら、どうだろうか?


 二時間掛けてこの程度――みたいな扱いになっちゃうんじゃないだろうか。そのクセ、剣だけは時間を浪費した代価として奪われるんだろう。


 だとすれば、そりゃあ努力や鍛錬、研究に目を向けられることは少ないよなぁ……。


 鍛錬や研究の価値が高い世界ルールを有していながら、その世界で暮らす人々が、時間を掛ける努力の価値を認めていないというのだからままならない。


 フレッドが融合沼にハマれたのは、間違いなくサリトスとディアリナという友ができたからだ。

 親しい人たちに努力の結果を認められ、その結果を共に喜ぶ――その循環があったからこそ……なのかもしれない。


「友を褒め、共に喜ぶって大事なんだな……」

「どうしたんですか、急に?」

「この世界に足りないモノの話かな」


 刹那的に価値あるものばかりが尊ばれることに理由なんてないのだろう。そういう気質の多い世界というだけの話だ。


 だからこそ――サリトスたちみたいな人間は貴重なんだ。

 ダンジョンマスターとして贔屓する気はないけれど、この世界の神様から世界変革の依頼を受けた者としては、贔屓したいところである。


「足りないモノ……ですか?」

「フレッドみたいな職人沼に片足突っ込むやつを増やしたいなーってね」

「増やせるんですか?」

「骸骨商会で興味を持ってくれるのが一番手っ取り早いけど、それ以外の手も打ちたいかな……とは思ってる」


 成功するかどうかは別にして、手がないわけじゃない。


 ただそれを実行する場合は、コロナか……コロナより上の、商業ギルドとやらや、ペルエール王国の王様とか宰相とか、そういうお偉いさんとお話したいところだ。


 ダンマス的には、傍若無人にやりたいようにやればいいのかもしれないけれど……

 国内の物価や、国内の他ダンジョンの価値や攻略への影響が大きすぎるかもしれない手だからなぁ……


 ましてやこの世界の人間の気質を考えると、ちょっと躊躇ってしまう手なのは確かだし。


「うーむ……だとしたら……」

「アユム様、アユム様。考え事中にすみませんが……サリトスさんたちが動きましたよ」

「お?」


 俺がうんうんと唸っている間に、三人は準備を整え直し、骨の扉を開けて外に出る。


『だいぶ日が落ちちまってるね』

『今日はこれ以上の探索は危険かもしれないな』

『……すまん。完全にオレのせいだわな……』


 一応、ダンジョン内の明るさは実際の時間準拠だ。

 天候も結構自由にできるらしいけど、フロア4……というよりも第一層は基本的に晴天に設定してある。


 そのうち、天候の影響の大きいギミックとかもやりたいところだ。

 大雨降ってる中でジャンプすると、風の影響で移動距離が普段とは変わるような――って、これはRPGじゃなくてアクションのギミックか。


 いやまぁ、別にRPGにこだわる必要はないから、そういうのもありかもなー……。


『気にするなフレッド。価値はあった』

『えーっと……』

『確かに暇な時間を過ごしたけど、その結果は待たされるだけの価値はあったから、謝る必要はないってサリトスは言ってるのさ。あたしも同感さね』

『ありがとさんね、二人とも』


 後頭部を掻きながら気まずそうに、だけど決して不快ではなさそうにフレッドは笑う。


『一度、アリアドネロープで戻るぞ』

『次はここから続きを歩くのかい? 東側の行ってないところでも見に行くのかい?』

『次にまた探索するときに考えればいいさ。必要なモノに差はないのだからな』


 そうして三人が帰還するのを見送って、俺も管理室の席から立ち上がる。


「今日はこんなところかなー」


 ぐーっと伸びをしながら口にすると、ミツもうなずいた。


「そうですね。バドさんたちもそろそろ帰るようですし」

「バドたちはどこまで行ってた?」

「南東のアドレスクリスタルですね。池を挟んだ反対側の下り階段を見つけてました」

「ま、そこまで行くなら見つけるよな」

「でも道がなくて困ってましたけどね」

「そういう作りになってるからな」

「直前の回廊で宝箱の回収の邪魔になるからと赤熊を倒していましたしね」

「あー……倒しちゃってたかぁ……」

 

 そりゃあ、階段へ行く道が見つからないわけだ。


「サリトスさんたちと情報を共有するなら、すぐにフロア5に到達しそうですね」

「んー……情報を共有する気があるならな」


 サリトスたちとバドたちは仲が良い。

 だけど同時に、探索者(シーカー)としてはライバルだ。


「攻略後はともかく、攻略中の情報共有はよっぽどのことがないとしないと思うぞ」


 でも、切磋琢磨という意味では悪くない。

 健全な敵対関係なら、サリトスたち以外も、むしろどんどんやって欲しいんだけどな。

アユム「融合にハマりすぎて、探索者やめたりしないよな……フレッド……」

ミツ「そればかりは、神様にだってわかりませんよ……。個人の気持ちですからねぇ……」


次回は、サリトスたちがフロア4東側の探索をする予定です。

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