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1-2.『サリトス:はぐれモノの探索者たち』

アユム以外の視点がメインの回は、こんなカンジのサブタイトルにしていく予定です。


 俺の名はサリトス=サボテニア。

 A級探索者(シーカー)なんて呼ばれることもある剣士だ。


 探索者(シーカー)のランクはFから始まり、E、D、C、B、A、S……となっている。

 つまり、俺は上から二番目のランクにいる探索者(シーカー)ということだ。あまり、ランクには拘っていないが、高いと無茶な意見を通しやすいので助かっている。


 次の誕生日で三十を迎えるというのに、二十代前半――時には十代後半――と誤解される容姿のせいで、初対面でナメられることが多いのが目下の悩みの種だな。


 そして、その悩みの種が現在進行で発芽して、花を咲かせた。


 新しく生まれたというダンジョンに向かう道で、俺はその男に声を掛けられ名乗ったのだが――


「何だよ……腕利きの探索者(シーカー)なんて言ってもこんなガキかよ……」

「何を期待していたのかは知らないが、もとよりこういう見た目だ。そう言われても困る」

「ケッ、A級だかなんだか知らないが、気取りやがって」

「すまないが――A級探索者(シーカー)という言葉を知らないというのは、探索者(シーカー)としてどうなんだ? いや、そもそもお前は探索者(シーカー)ギルドに登録しているのか?」


 ふと疑問に思ったので訊ねると、彼はなぜだか顔を真っ赤にした。


「オレだって探索者(シーカー)だッ! ギルド登録くらいはしてるに決まってるだろッ!!」

「なるほど。やはり同業者であったか」

「テメェ……」


 なぜか男はギリリッ――と奥歯を鳴らした。 


 彼がなぜここまで怒っているのかを俺なりに考えてみる。

 恐らく彼は初心者の探索者(シーカー)なのだろう。

 A級を知らないという発言からすると、ギルド加入時にされる説明をちゃんと聞いていなかったのだと思われる。


 怒っているのは一種の虚勢だろう。

 緊張を紛らわすため、見た目から喧嘩の売りやすそうな俺を選んで声を掛けたのかもしれないが――


 相手の実力を正しく判断できてないところはよくないな。

 彼はやはり改めて、初心者講習を受け直すべきだろう。


 探索者(シーカー)と言えば聞こえはいいが、この仕事は死と隣り合わせだ。

 基礎や基本知識というのは非常に重要だからな。


 俺はちょっとした親切心を利かせて、彼に告げた。


「これはちょっとした親切心なのだが――君はギルドの初心者講習を受け直した方が良いのではないかな?」

「…………ッ」


 なぜか彼の顔は、より赤くなった。


「そう羞恥するコトもないだろう。俺とて時々参加している。

 あの講習は、ギルドに加盟していれば誰でも参加できるからな。

 初心を忘れるべからずと言うだろう?」


 我ながら良いことを言った気がする。


「フザけてんのか、テメェッ!?」

「なぜ……?」


 激怒されてしまった。なぜだ?


「残念なコトに、そいつは大真面目に言ってるんだ。

 怒るだけ損だよ。自分が何で怒られてるのかも分かってないんだから」

「はぁ?」


 俺と男の間に入ってきたのは、俺の相棒とも言える女だ。

 長身の部類だろう俺と男の間に入ってきても、小さいとは感じない程度には背が高い。


 身の丈ほどある幅広の剣を背負ったこの女の名前はディアリナ=ジオール。

 俺の探索者(シーカー)としての相棒だ。


「どういう意味だ、姉ちゃん?」

「どうもこうもないさ。

 うちの相棒はね。悪意に鈍感なんだ。

 アンタが何を言ったのかは知らないけどね。初心者講習を受け直せって発言はね、混じりっ気ナシの善意だよ。アンタの発言から、自分なりにあれこれ考えた結果、そういう親切をしようという結論になったんだろうさ」

「親切?」

「ああ、そうだ。親切なんだ。

 皮肉とか揚げ足とかじゃない。純粋に善意の親切心から、それを奨めたのさ」


 ディアリナがそう説明すると、男は困ったように頭を掻いて嘆息した。


「こんなのとコンビだなんて、大変そうだな」

「普段はそうだけどね。探索中は、こいつほど頼りになるやつはいないさ」


 そう言い切って、ディアリナはウィンクを投げてくる。


「期待されすぎるのも困りモノだが――最低限は応えようとは思っている」


 彼女の信頼に応えるようにそう告げると、男の方は難しい顔をした。


「考えてみりゃ、こっちからケンカ売って軽くあしらわれただけだわな。怒るってのも筋違いか」


 男は何やら独りごち、それから顔を上げた。

 どこか毒気の抜けた顔で、俺とディアリナを見る。


「オレはB級探索者(シーカー)のフレッド=スリーパル。非礼は詫びる。

 その上で、お前らが良いなら、一緒に潜らせてはもらえないか?」

「俺は構わないんだが、人事などはディアリナに任せてるからな」

「フレッド。アンタの得物は」

「コイツだ」


 そうして、フレッドが俺たちに見せてきたのは、非常に珍しい武器だった。


「弓矢か。矢の予備はちゃんとあるかい?」

「弓矢使いが矢の予備を忘れるなんて、剣士が剣を忘れるみたいなもんだろ?」


 ディアリナの言葉に苦笑するフレッドを見て、俺は少しばかり謝罪が必要だと感じた。

 何も知らない男ではない。

 フレッドはこの不人気の弓矢という武器で、B級まで駆け上がってきた猛者だと理解した。


 俺に噛みついて来たのも、不人気な武器の使い手故に、不必要に嘲られたりしてきたことが要因の一つになっているのだろう。


「すまないなフレッド。俺はキミを侮っていたのかもしれない」

「な、なんだいきなり?」

「いや、謝るべきだと思ったので謝罪を口にしたのだが」


 俺が小首を傾げると、フレッドは助けを求めるように、ディアリナへと視線を向ける。

 その視線に、ディアリナは肩を竦めた。


「こういう奴なんだよ、サリトスは。

 何を考えてるか分かんないんだけど、こいつなりの思考を黙々として、その思考の結果だけを口にするんだ」

「なるほど。少しだけ理解できた」


 ディアリナの言葉に、何とも苦い笑みを浮かべるフレッド。

 俺はよくわからず、首を傾げるだけだ。


「とにかく、フレッド。こっちとしては遠距離攻撃できるやつは歓迎さ。

 アーツだけじゃどうしても限界ってやつがあるからね」


 アーツだけじゃ限界がある――それは俺とディアリナの持論だ。

 多くのアーティストたちはその事実から目を逸らしたいようだが。


「だからこそ、歓迎するフレッド。願わくばこのアタックで良い関係を築けたらと思う」


 俺が手を差し出すと、フレッドはその手を握って笑いながらうなずいた。

 同類を見つけたような、久々に旧友と再会したかのような、そういう笑みだ。


「ああ、こちらこそよろしく頼む。噂の探索者(シーカー)コンビの実力――近くで見せて貰うぜ」


 こうして、フレッドを加えた俺たち三人は、新しくできたダンジョンの入り口へと向かうのだった。






 バーレイホップ大陸南部にある大国ペルエール王国。

 そのペルエール王国の王都サンクトガーレンにほど近いマナルタ地方の丘陵地帯にそれは出現した。


 それが、正体不明の新しいダンジョンだ。


 基本的にダンジョンというのは突然発生する。

 そして発生したものは、ダンジョン鑑定能力を持つものによって、危険度や報酬ランクなどが調べられる。

 だが、この丘陵地帯のダンジョンは鑑定結果に、不明と出たそうだ。


 その為、腕利きの探索者(シーカー)にギルドから依頼が出された。

 正体不明のダンジョンに挑戦し、その危険度や報酬ランクなどを調べてきて欲しいと。


 だが、俺とディアリナ以外に引き受けようとする探索者(シーカー)はいなかった。

 未鑑定ダンジョンが不人気――というよりも、事前の調査で何の面白味もないダンジョンであることは公表されていた為だ。


 道中で出会ったフレッドも依頼を受けたわけではなく、依頼を受けたというA級探索者(シーカー)を見てみたかったので、道中を張っていたそうだ。


「何でそんなコトをしたのさ?」

「弓の腕を売り込めればと思ってな」

「上々な成果ってわけだね」

「おうよ」


 A級探索者(シーカー)と一緒に行動する弓使いがいれば、弓使いの地位向上に一役買うのでは――という下心があったのだという。

 確かに弓はその有用性のわりに不遇だ。使い手のフレッドとしても地位向上を狙うのも分かる話だ。


 さておき――俺たち一行は、丘陵地帯に現れた洞窟の前に到着だ。

 入り口の前には王国兵の見張りが立っている。


 まずは挨拶しておくべきだろう。


「すまない。先行挑戦(ファーストアタック)の依頼を受けた探索者(シーカー)なのだが」

「お待ちしておりました」


 声を掛けると、王国兵はわざわざ敬礼をしてくれる。


「二人の予定だったが、一人増えたのだが、大丈夫か?」

「アタックチームの編成に関しては、依頼を受領した探索者(シーカー)の方に一任されております。

 それが万全だと、あなた方が判断なされたのであれば、特に問題はありません」


 キビキビと動き、ハキハキと答える気持ちの良い兵士だ。


「そうか。

 中はどうなっている? 事前資料は何もないも同然だったので僅かでも情報が欲しいのだが」


 俺が訊ねると、彼は少し困った顔をする。


「ハッキリ申し上げてしまいますと、何も分かっておりません」

「何も……?

 基本的な洞窟型とか、森や草原を模した自然型だとか……そういうところもか?」

「はい」


 王国兵が申し訳なさそうにうなずくのを見ながら、俺は後ろにいるディアリナとフレッドに視線を向けた。

 二人とも、困ったように肩を竦める。


「言葉では納得されないかもしれません。

 この入り口付近だけなら案内が可能ですので、ご説明を兼ねて案内いたします」

「わかった。よろしく頼む」





 王国兵の案内で洞窟の中へと入っていく。

 見た目だけならオーソドックスな洞窟型のように思えるが――


「これ、普通の洞窟型に見えるんだけど」

「はい。ここだけはそうですね」


 ディアリナの問いに王国兵が丁寧に答える。

 だが、口にされた内容は、よく分からない。


「ここだけは……?」


 入り口から伸びる、さほど長くない廊下を抜けると、少し開けた場所にでる。


 軽く見渡すと、扉が三つ。


「どの扉も見た目は簡素な木製ですが、オノで力任せに叩いても傷一つつきませんでした」

「もしかして、どれも開けられなかったのか?」


 フレッドが問うと、王国兵は首を横に振る。


「ここから見て、右の扉以外は開きますよ。

 左側の部屋には空の宝箱が一つ、中央の部屋には何の反応もしない魔法陣があるだけですが……」

「他の部屋は?」

「無いのです。本当にそれだけのダンジョンなのです」


 なるほど。分かっているのがそれしかなく、あの扉の向こうがどうなっているのか分からないからこそ、何も分かっていない――というわけか。


 しかし、そうなると、何とかして右の扉を開けないと先に進めない気もするが――


「とりあえず、自分たちの目で部屋を見てみようよサリトス」

「そうだな」


 王国兵を伴って、まずは中央の扉を開く。

 あまり大きくない部屋の中央に、見慣れぬ魔法陣が描かれ薄っすらと光っていた。


 俺とディアリナはフレッドに部屋の入り口で待機するように頼んで、魔法陣に触れないように、左右に分かれて壁沿いに歩いていく。


「あの……魔法陣は何も起きないのですよ?」


 不思議そうな顔をしている王国兵に、フレッドは苦笑する。


「多くの探索者(シーカー)たちはそう言うだろうけどな。

 慎重を期すというのであれば、これが正解なんだよ。

 魔法陣の起動条件が分からないんだ。調査した王国兵たちが条件を満たしてなかっただけで、俺たちの誰かが満たしている可能性がある。

 起動して取り返しの付かないコトになる前に、起動条件を調べるってのは大事なんだぜ」

「言いたいコトは分かるのですが……それは臆病が過ぎるのでは……?」


 王国兵がそう口にすると、ディアリナが笑った。


 どうやらフレッドも、俺やディアリナと同類のようだ。

 だからこそ、A級の俺と出会って話をしてみたいと、そう考えたのだろう。


「臆病者――結構じゃないか。

 生きて探索者(シーカー)を続けられるのなら、臆病者で構いやしないよ。

 あたしらのコトを臆病者と蔑み、貴族のように口うるさく、商人のように小狡くのし上がってきたバカだと見下してきた連中の多くは、迷神(めいしん)の沼に沈んでいった。

 一方のあたしらは、それぞれに生き延び、報酬を受け取り、ランクも上がっていった。

 そんなあたしらが臆病者だって言うんなら、迷神の沼に片足つっこみながらしか歩けない阿呆どもは何なんだって話だよ」


 自分も、ディアリナも、フレッドも。

 結局のところ、探索者(シーカー)としては、はぐれ者なのだ。


 セオリーを無視し、武以外に重きを置き、誉れよりも生存を選ぶ。

 それが俺たちだ。


 何故ならば――


「ダンジョン探索者(シーカー)は、迷神に沼へと引きずり込まれて一人前――などと言うだろう?

 だが、俺はそれならば半人前扱いで構わないと思っている。

 俺は死ぬためにダンジョンに潜っているのではない。

 金も、財宝も、食料も、栄誉も、名声も、賞賛も……どれほどのものを得ようとも、迷神の沼の底では何の役にも立つまい。

 手に入れたそれらを使い潰せるのは、創主ゲルダ・ヌアが作り出した大地に足を着けている時だけなのだからな」


 お前たちもそうだろう? と、ディアリナとフレッドに視線を向ければ二人はうなずく。


 その様子を見ていた王国兵の呆けた顔が、なぜだか妙に印象的だった。

ミツ「ダンジョンに入る前のシーンが長すぎて、ロク視姦できてませんね」

アユム「だから、言い方――いやまぁちょっと予告詐欺しちゃったかもしれないけれども……」


次回もサリトス視点で、エントランス探索です。

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