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3-4.『サリトス:咆哮する黄の獣』

昨日アップした分だけだとあまり話も進んで無いしボリュームも少なかった気もするので本日も更新です。


「先を軽く見てきたが、フロア1や2で言うところの、廊下だけで構成されてる感じだった」


 フレッドの報告を受けて、俺はうなずき了解を示した。


「ならば、ある意味でいつも通りの迷宮か」

「でも、ここがラヴュリントスである以上、いつも通りにはいかないさね」


 ディアリナの言いたいことも分かる。


「ならばいつも以上に慎重に行くとしよう」


 何が起きるか分からないのだから、何が起きても良いように身構えておくしかない。




 歩き出して気づいたのだが、上の階よりも道幅はやや広いようだ。

 だが、壁代わりになっている茂みと木々が、上の階よりも色濃くより一層に鬱蒼としており、無数の枝葉が廊下へと飛び出していた。

 そのせいで光が遮られているのだろう。上の階よりも薄暗く感じる。


 何度か直角に曲がる場所はあったものの、今のところは一本道だ。

 そうして、また次の曲がり角を越える。すると、そこから真っ直ぐ伸びた廊下の先に、扉らしきものが見えた。


「森の中に扉なんて、奇妙な話さね」

「ダンジョンなんだ。今更だろう」


 ディアリナの漏らした感想に、俺は肩を竦めてそう返す。

 そんなことよりも、あの扉の先に何があるかの方が、俺は気になる。


「旦那、嬢ちゃん。ちょっと待った。

 扉が気になるのは分かるが、少し警戒を。

 もう少し先――右手側の茂みに、何かの気配がある。飛び出してくるかもよ」


 フレッドの警告にうなずいてから、やや歩調を緩めた。

 二人も俺に合わせて速度を落とす。


 少しして、フレッドの示した場所へと接近すると、予想通りに茂みから二匹の狼が飛び出してきた。


 灰色の毛に青い瞳を持つダンジョンの定番とも言えるモンスター。


「グレイヴォルフが二匹かい」


 拍子抜けしたように嘯くディアリナに、フレッドがやや鋭めの声で制した。


「他の気配もまだちょっとあるからね。気を抜かずささっと片づけようぜい」


 俺とディアリナはフレッドにうなずいて、飛びかかってくる二匹のグレイヴォルフを手早く斬り伏せる。


 続けて飛び出してきたのは――


「……にんじん?」


 そう。まさに、ディアリナが首を傾げながら呟く通りの姿のモンスターが現れた!


 それが二匹。


 俺の腰ほどの身長のニンジンだ。

 先端が二つに分かれていて、それが足のようだ。チマっとしたそれを忙しなく動かして移動している。

 さらに、真ん中よりもやや上の方から、二本の細い触手がうねっていて、どうやらそれが腕らしい。


「こちらに襲いかかってくるのだから、敵だろう」


 俺が即座にディアリナに告げる。

 その直後に、フレッドがスペクタクルズを投げて、ニンジンにぶつけた。


「詳細はあとだぜ、お二人さん。

 まずは倒す。それだけだろ?」


 茶目っ気をつけて片目を瞑って見せるフレッドに、軽く手を挙げて礼を示して、俺とディアリナは改めて剣を構えた。


 ニンジンは触手で頭の葉っぱを引き抜くと、それを丸めて、こちらへ向かって投げてくる。

 バカ正直に切り払うのは危険だと判断し、俺はそれを躱しながらニンジンを切りつけた。


 横を見れば、ディアリナは頭の葉っぱを引き抜こうとしているニンジンの腕を切り落としてから、縦一文字に両断している。


 グレイヴォルフとニンジンが全て黒いモヤとなって消えたのを確認し、俺とディアリナは剣を納めた。


「二人とも、あの葉っぱ攻撃への対応は正解だったわよ。

 鑑定によると、あの葉っぱには、致死性はないしすぐ収まるらしいけど、一時的に身体にチカラが入らなくなる毒が含まれてるらしいからね。

 そうして動きの鈍った獲物を触手で絞め殺し、体内へ根を張って栄養を吸い取るんだとさ」

「ふむ……。戦闘力は高くなかったが、危険度は決して低くないな」

「群れで出てくると怖いね。それにニンジンを倒せても、毒で動けなくなってるところに、他のモンスターが来たりするのも厄介さね」



===《お化けニンジン ランクE》===

お化けニンジン系。

ベーシュ諸島の田畑の多い土地の周辺の森の中などに生息する野良モンスターのラヴュリントス亜種。

亜種といってもダンジョンモンスター化したこと以外に、大きな変化はない。

あまり強くはないが毒を持っており、その毒で獲物を弱らせ、触手で首などを締め付けるなどして殺す。

殺した相手の口等から触手や、足として使ってる根などを巡らせ、養分として吸い尽くす。

新鮮な死体が好みという通気取りが多い。


固有ルーマ:なし

種族固有:弛緩の毒草

頭の葉を自分で引っこ抜き、敵や獲物へと投げつける。

葉には毒が含まれており、これにやられると、一時的に全身の筋力が弛みチカラが入らなくなる。

なお頭の葉はすぐに生えてくるので、なくなる心配はない。


ドロップ

通常:お化けニンジンの葉

レア:?????


クラスランクルート:

お化けニンジン→???→???→???


===================


 俺たちはフレッドが得た鑑定結果を元にその場で軽く意見を交わしあい、お化けニンジンが現れたら、可能な限り最優先で倒すことに決める。


 そうして、地面に残ったグレイヴォルフの牙と毛皮、お化けニンジンの葉を回収し、先へと進んだ。





「開けるぞ」


 廊下を進み、俺たちは扉を開く。


 その先に広がっていたのは、小さな部屋のような空間だ。

 正面と左に廊下が伸びている。ただそれだけのようだが――


「正面の廊下、途中で倒木があって進めそうにないな」


 フレッドの示す倒木は、ここからでもそれが見て取れる。


「問題は、あれが自然に発生したものなのか、アユムによる仕掛けなのか――だな」

「近づいてみればいいさね。仕掛けがあるなら、封石もあるんじゃないかい?」


 ディアリナの言う通りだ。

 俺とフレッドは彼女にうなずき、倒木へと近づく。


 調べてみたが、封石はなさそうだ。すくなくともこちら側には。


「隙間を抜けられるかな――と思ったけど、見えない壁もあるみたいだな」

「そうか」


 フレッドが矢を一本、隙間からねじ込もうとしたが、上手くいかなかったようだ。


「なら仕掛けだな。何かをすれば通れるようになるのだろう」

「今進めないのなら、もう一つの廊下を進むしかないね」


 倒木の向こうには別の部屋が広がっているのが見えるが、そこへ入れないのであれば仕方がない。


 引き返し、もう一つの廊下を進むと、すぐに行き止まりになってしまった。

 だが、行き止まりの右手側に扉があったので、ここから先へ進めということだろう。


 扉を開けると短い廊下があり、そこを抜けるとやや広めの部屋だった。

 部屋の中央に見慣れない木が生えている。


 周辺の樹海の木々と比べると明らかに浮いた存在だ。


「慎重に近づくぞ」


 俺の言葉に、フレッドとディアリナがうなずく。


 ある程度近づいた時、フレッドが制す。


「お二方、ストップだ」

「どうしたんだい?」

「フラフラフライだ」


 言われて、フレッドの示す先を見る。

 見れば、件の木の周辺に、大きな蝶が飛び回っている。

 無数の蝶は一見すると美しいが、木との対比を考えると、一匹一匹が赤ん坊の頭よりも大きそうだ。


「あの大きくて青い蝶のコトか?」

「ああ。ペルエール周辺じゃあ、野生でもダンジョンでも見ないモンスターだったが、出てきやがったって感じだ」

「その口振り――危険なんだね?」


 ディアリナの問いにフレッドがうなずいた。


「あいつら自体は、ふつうの蝶同様に、樹液や花の蜜をメインに啜るだけのモンスターだ。

 ただ、ふつうの蝶と違って好戦的で、動物の体液も啜る。口は小さいストロー状だが先端が鋭い針になっててな、ブスりと刺してきて痛ぇんだこれが」

「だがそれだけではないだろう?」


 俺が問えば、フレッドがうなずいた。

 モンスターの生態だけ聞くと、フレッドが危険だと言う理由が薄い。


「で、やばい理由なんだがな。あいつらの羽根に付いてる鱗粉(りんぷん)。こいつがシャレにならん」

「猛毒なのかい?」

「いや、致死毒じゃない。効果は違うがある意味ではお化けニンジンの葉と同じだ。

 フラフラフライの名前の通り、吸い込むと強烈な酒に酔ったような酩酊(めいてい)状態になってフラフラしちまうのさ。酒ではなく毒だからだろうが、蟒蛇(うわばみ)お化けみたいな酒豪だろうと、容赦なく酔う毒だ。

 軽く吸い込んだ位じゃ大したコトはないんだが、あいつらは基本的に群れる。

 一匹が戦闘を始めると周囲を飛んでいた他のフラフラフライたちが集まってくるんだよ」

「集まってくればそれだけ吸い込む量も増えるか……。酔って足下が覚束なくなれば逃げにくくなる上に、集団で(たか)られたら、振り払うのも難しい……なるほど、厄介だ」


 酩酊状態で全身に集られれば、もはや迷神の沼に沈むまで、激痛と共に体液を啜られ続けるということか。

 お化けニンジンと同時に襲われたりしたら、たまったモノじゃないな。


「でも、あの木――よく見ると封石が付いてるんだよねぇ……」

「また……厄介なところに……」


 ディアリナが封石を指し示すと、フレッドが頭を抱えた。

 フレッドの気持ちはよく分かる。


「あいつらは、あの木の樹液が目当てか?」

「恐らくそうだわね」

「なるほど。殊更に厄介だな」


 木に近づいて、食事の邪魔をする敵だと認識されてしまう可能性が高い。

 ましてやあの数だ。

 一匹がこちらへと攻撃してくれば、他のフラフラフライも瞬く間に攻撃を開始することだろう。


「この部屋は入ってきた扉以外に、正面と左右に廊下が伸びている。

 今は木を調べるのは後回しにして、先に進むことを提案する」

「あたしもそっちに賛成さね。フレッドは?」

「おっさんも賛成だ。対策なしにあの木を調べるのはリスクが高すぎる」


 意見が満場一致したところで、このまま左の廊下へと向かおうという話になった。

 俺たちは一度下がって、入ってきた扉まで戻ると、壁に沿って左側へと向かっていく。


 そうして、部屋の角まできたその時だ――


 Guoooooooo――ッ!!


 聞くだけで身が竦むような雄叫びが聞こえてきた。


「どこからだ?」

「あっちだ旦那。右へ伸びてた廊下の先から、何かが来るッ!」

「雄叫びに籠もった殺気と威圧感がシャレにならなかったからね。

 避けられるなら戦闘を避けて、進むか退くかしたいところだよ」

「ああ。どちらにしろ、戦闘を避けるというのは賛成だ」

「おっさんも賛成」


 そして、その雄叫びの主だろうモンスターが廊下から姿を見せた。


「ハデな色になってるけど、アレは……」

「ああ――グリズルベアだな。ただのグリズルベアなら怖くはないが……」

「ラヴュリントスの固有亜種か」


 グリズルベアは熊の姿をした大型のモンスターだ。

 元々、大きいサイズのモンスターだが、今出てきたグリズルベアは、本来のサイズよりもさらに一回り大きい。


 グリズルベアは灰色の毛皮に覆われているが、今姿を見せた亜種は、全体的に黄色い毛皮をまとっている。

 身体を起こし、二足で地響きを立てるように歩いているため、胸元も見えているが、胸毛は赤い。

 

 よく見ると手足の爪はグリズルベア以上に大きく凶悪な形をしており、その色は血塗れを思わせるほどに赤黒い。


 Guoooooooo――ッ!!


 黄色いグリズルベアが再び咆哮をあげると、木に集っていたフラフラフライたちが蜘蛛の子を散らすように飛び去っていく。


「今なら、木を調べられるか?」

「旦那、そりゃ無理だ。やっこさん、おっさんたちをめっちゃ睨んでる」


 フレッドが示す通り、黄色いグリズルベアは黒い双眸(そうぼう)を真っ直ぐにこちらに向けてきている。

 明らかに殺気が籠もっており、威圧感もある。


 間違いなく強敵。


 そんな相手が前足を地に着いた。


「こりゃあ逃げるが勝ちだよ二人とも。様子見やめて走るよッ!

 どこへ向かうかの指示をくれッ、サリトスッ!」


 熊は明らかに走り出す直前。

 入ってきた扉は、俺たちと熊のちょうど中間だ。

 相手の走る速度によっては、完全に道を塞がれる。


 ならば――


「このまま予定通りの廊下へ飛び込むッ!」


 退かずに進む方が、生存率は高いはずだッ!!


「フレッド先行してくれッ! カンでいいッ! 道が分かれた場合は誘導してくれッ!」

「りょーかいッ!」

「動き出したよッ!」

「行くぞッ! 走れッ!!」


 想定よりも足の速い熊に焦燥感を覚えながらも、俺たちは全力で走り出した。



アユム「( ゜∀゜)o彡゜ ( ゜∀゜)o彡゜」


ミツ「アユム様、何をされているのでしょうか……?」

ミーカ「分かんないけど、きっと楽しいコトじゃないかな☆ また寝てるときにでも記憶覗いて見ちゃおーっと☆」



 アユム(並びに作者)のあまり成績の良くなかった英語センスを利用した思いつきでは、

 心の中で【Fatality Overs Executioner】あたりの当て字をしてる気がします。

 何の話?って方は、あんま気にしなくても問題無いネタですので、お気になさらず。


次回は逃走するサリトスたちと黄色い熊と赤い熊のお話の予定です。

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