3-2.さぁ、樹海の迷廊に挑みたまえ
今回は二話掲載。(2/2)
すみません
2話目の予約時間を間違えていて、投稿されていませんでした
2019/2/20
本文内にある12の報酬が11個しかなかったので、「戦鎚」を追加しました。
背徳と退廃の王を打倒してから、数日経った本日……
サリトスたちは、改めて廃屋の階段へとやってきた。
今回はコロナは無しの三人で挑むらしい。
フロア3の時と同じように、三人で厳しくなってきたら、コロナも一緒に潜ってくるだろうけれど。
なんであれ、こちらの準備は万端だ。
『相変わらず、不思議な空間だ』
『夜空を歩いてる気分になるね』
『おっさん、落ちないって分かってるのに怖いわぁ……』
サリトスたちは雑談をしながら、廃屋の階段を下りていく。
そして、お馴染みのフロア移動の魔法陣へとやってきて、三人は呪文を口にする。
『ネクスト』
そうして、彼らが転移した先は、ログハウス型のダンジョンだ。
サリトスたちは説明などをしっかり理解しているから、ここがどういう場所なのかちゃんと分かってくれてるようだ。
『さて、新しい知識を与えてくれるのか、それとも……』
サリトスたちはゆっくりと直線の廊下を進み、最奥にある扉の前へとやってくる。
その扉には、俺からのメッセージプレートを添えてある。
【国崩の愚王を打倒せし証を持つ者よ
あれは未来の人の世の姿なり
しかと胸に刻めたならば この扉を開けよ
この先は一つ目の宝物庫
好きな箱を一人につき一つ開けることを許可しよう】
せっかくなので、コロナの勘違いを採用させてもらった。
どうにもこの世界の住民は、俺の想定以上に楽な方へ楽な方へと思考してしまっているようなので、戒めも兼ねている。
あまりにも楽な方へ楽な方へという舵取りをしすぎれば、先にあるのはラクはラクでも堕落か奈落だ。
『コロナの推測通りだった……と言うべきか』
『背徳と退廃だけになった世界なんて、ゾっとしないけどね』
『ま、その辺りを考えるのは旦那の兄君に投げるとして、お宝を頂くとしようぜ』
フレッドの言葉に二人もうなずき、サリトスが扉に手をかける。
サリトスがゆっくりと扉を開くと――
『おお――……』
三人が思わず感嘆を漏らした。
それはそうだろう。
何せ、黄金の箱が12個も並んでるわけだしな。
『ここから、一つを選ぶのか……』
「アユム様、アユム様」
悩ましそうに宝箱を見て回っている三人を見ながら、ミツが声を掛けてくる。
「どうした?」
「宝箱の中身って決まってるんですか?」
「おう。誰が開けても同じようになってるぞ。
どの箱も基本的に☆4の武器だ。探索者たちの使ってるのを見たことのある武器プラスアルファって感じだな」
なおイメージは某クリスタルを巡る光の戦士の物語第五段のアレ。なので合計十二種類だ。
部屋の中に、時計の文字盤のように配置してある。
ただ元ネタの神秘的な神殿に祀られている武器と違ってログハウス風ダンジョンに黄金の箱置いてあるだけだから、神秘感とか幻想感とかゼロだけどな!
「何が入っているのですか?」
「んー……時計に見立てて0時のところから行くと、片手剣、両手剣、片手斧、両手斧、槍、戦鎚、杖、弓矢、短剣、カタナ、手甲、脚甲だ」
「最後の二つは防具では?」
「まぁ分類すればそうなるんだろうけど、軽量かつ格闘術を邪魔せず打撃力向上するような形状であれば武器でもあるだろ?
ついでに、どの武器にも呪文効果を付与してある。攻撃系ではなく補助系だけどな」
背徳と退廃の王を倒した探索者であれば、そんな補助効果の使い方もある程度は考えてくれるんじゃないか……っていう希望だな、これは。
「あ、サリトスさんたちが選び終わるみたいですよ」
俺の話を聞きながらもモニタを見ていたミツが指をさした。
それに、俺も視線をそちらへと向ける。
『箱に付いてる絵が、中身を表しているのだろう。
ディアリナ、フレッド。おまえたちは何を貰うか決まったか?』
お。さすがはサリトス。
箱にちゃんと、中身の分かるアイコンを付けてたのに、気づいてくれたな。
『オレはすでに良い弓を手に入れてるしな……。
代替用よか、別の武器を護身用に持っとこうかと考えてる』
『なら、フレッドは短剣あたりかい?』
『おっさん的にはそれかなって思ってるけど、良いかい?』
ディアリナにうなずいてから、フレッドはサリトスへと訊ねる。
それに、サリトスは首肯した。
『別に二人が何を選ぼうと、文句など言うつもりはないが?』
『旦那はチームバランスとかは考えないタイプ?』
『好きなモノを選べる場所で選ぶ対象を制限してどうする?
チームとていつ解散するのかも分からない。ならば、一人一人が必要と思うモノを選べばいい。チームバランスやチーム戦術など、それを踏まえて考えてやればいいだろう?』
考えようによっては場当たり的とも言えるサリトスの言葉だけど、俺は結構賛成だ。
背中を預け合うチームメイトだろうと、選択の強制を行い続ければ、チームメイトの不満が溜まっていき、やがては破綻する可能性が高まるしな。
もちろん、これは今が余裕があるタイミングだからこそとも言える。
これが緊急事態のただ中であれば、三人とも急場を凌ぐ選択を優先するだろう。
どっちが良い悪いってわけでもなく――結局は、チームメイトが納得して報酬を選べるのが大事というだけだろう。
『んじゃあ、お言葉に甘えておっさんは短剣の箱を開けるぜ』
フレッドは箱の封石に腕輪を近づけてそれを開ける。
中から出てきたのは、『ソードブレイカー』という短剣だ。
ソードブレイカーは地球にも存在しているダガーで、峰が凹凸になっている短剣だ。
その溝は細く深い。
そこで相手の剣を受け止めて破壊する事を目的としている武器だ。考えようによっては、短剣の姿をした防具とも言える。
呪文効果は『ディスマイト』。
呪文を唱えると刃の先端から光を放ち、光を浴びた相手の筋力を一定時間低下させる効果を持っている。
『あたしは、大剣かな。
片手剣と短剣は良いのを貰ったけど、こっちは今までのやつだしね』
ディアリナが開けた箱から出てきたのは、『ランツクネヒト』。
装飾の少ないシンプルなデザインをした刃幅の広い剣だ。
呪文効果は『フラジャイル』。
剣の先端から光を放ち、浴びせた武具や道具の強度を一定時間下げるというものだ。
相手のステータスではなく、道具の強度なのがミソ。
うまく使えばそれこそドイツの傭兵部隊ランツクネヒトが両手剣で相手を甲冑ごと潰したという話のごとき活躍ができるはず。
『旦那はどうするんだ?』
『そうだな……』
そうしてサリトスが開けた箱は、意外にもカタナの箱だった。
『ベーシュ諸島伝統の剣……刀――アサヒが使っているのを見ていてな。少し試してみたいと思っていたんだ』
中から出てくるのは、『肢閃剣・絆魂』。
カタナとしてもそれなりに優秀な剣だけど、こいつの強さは呪文効果にあるといってもいい。
呪文は『ライフリンク』。呪文を唱えると鞘の装飾から、光の糸が放たれ、対象と一定時間結ばれる。
効果発動中は、カタナの刃にルーマが通らなくなるものの、その刃によって発生したダメージに応じて、糸に結ばれている対象の傷や疲労が癒えるってやつだ。
『旦那の貰った刀、呪文効果の使いどころが難しそうだな』
『だが、治療のルーマが使えるブレシアスがいなくても、いざとなれば応急処置が使えるようになるのは悪くない』
まぁ、サリトスなら使いこなせるんじゃないかな。
アサヒの場合だと、分からないけどな。
『さて、貰うモノは貰った。先へ進むとしよう』
サリトスは、今まで使っていた片手剣と今手に入れた刀を二本差しにする。
ディアリナは今まで背負っていた両手剣を腕輪にしまい、新しく手に入れたモノを背負った。
フレッドは腰の後ろに短剣を括り付けている。
それぞれが準備を終えて、次の部屋へと向かった。
宝物庫を後にして廊下を進み、再び扉が現れる。
その扉にも、俺のメッセージが添えてある。
【疾風の如く 愚王を倒せし 最初の勇者一行たちよ
その働きに免じて ささやかながらの褒美である
其方ら一行には 合計して十個の箱を開けることを許そう】
『さらにお宝をくれるっていうのかい。太っ腹だね』
『最初の勇者――と書かれているからな。ここへ最初にたどり着いた者への褒美なんだろう』
『これから先もこういう褒美ってあるのかね?』
『あるのだろうな』
フレッドの言葉にうなずき、サリトスはやや真剣な顔で二人へと向き直る。
『こういった報酬を思えば、新しいフロアへは一番乗りが理想だ。
だが、慌てる余りに無闇に見落としを増やしたくない。ならばやるべきコトは、自分たちのペースで攻略していくコトだと俺は思う』
『ああ。オレもそれでいいさ、旦那。
一番乗りの褒美は、貰えればラッキー程度に思えばいい』
『あたしも異論はないよ。
だから今回はラッキーだと思って、貰っていこうよ』
そうして、サリトスたちが第二の宝物庫に入ると、再び感嘆を漏らした。
『青い箱が一つ、二つ、三つ…………三十個もあるな』
『ここから十個ってのは嬉しいね』
『青は……ほかの連中とも開封状態は共有されるんだったか』
『ならば残りの二十個は、二番手、三番手に配られるわけか』
再びサリトスたちはどれを開けようか悩むように歩き出す。
それと同時に、ミツも俺に問いかけてきた。
「あれの中身はどうなんですか?」
「無料ガチャみたいなモンだな」
「?」
「うん。言い方が悪かった」
首を傾げるミツにそう詫びてから、俺は改めて答えを返す。
「ここも箱ごとに中身が違って、それぞれに薬、食材、酒、鉱石系素材、魔獣系素材、植物系素材が入ってる。
ただし、手に入るのはランダムだけどな」
ちなみに、箱の数はそれぞれ五個づつだ。
「ランダムなんですか?」
「設定してあるモノの☆3の何かしらでてくる。
追加報酬まで豪華にするのもどうかと思ってさ」
出てくるモノは☆3の何かだ。
鉱石系なら宝石類、魔獣系なら下級竜の鱗や牙……なんて具合のモノが手に入るんだから、悪くはないだろう。
……ただこの世界、素材加工の概念がまだまだ薄いから、実用品の薬、酒、食材以外の人気が薄そうなのがなぁ……。
ちなみに中身は全部、鑑定済みのやつだ。
ここで未鑑定品を出すような意地の悪いことはしない。
『旦那……狼の絵と植物の絵のやつを一つ。あとは二つずつでどうだい?』
『そうだな。では、手分けして開けていこう』
二種の素材箱の中身にディアリナは微妙そうな顔をしたものの、フレッドは少し楽しそうな顔をしている。
スケスケのところでクラフトを楽しんでたからな。何が作れるのか少しワクワクしてるんだろう。
そういう変化は仕事が上手く行ってるようで嬉しいな。
フレッドの顔にいいねボタンがあるならクリックしておきたいくらいだ。
三人は手に入れたものをそれぞれの腕輪に割り振ってしまうと、扉を開けて次に進んでいく。
『さて、ここからが本番だな』
『次はどんな風景が広がっているのか気になるね』
『おっさん、目に優しい場所がいいなぁ……』
まぁなんというか――フレッドのおっさんの希望には応えてあげられる場所ではあるな。
いつもの魔法陣から転移して、三人はフロア4の入り口へとやってくる。
『あれ? 丸太小屋じゃないのかい?』
『虚の中の下り階段と同じ光景だね……』
『階段が下に続いている。降りてみればわかるだろう』
下へと降りていくと、光差す穴が開いている。
三人はその穴から外へと出て行くと――
「これは……最初のフロアと同じような風景だが……」
「目に優しくてよかったね。フレッド」
「穏やかな陽気、突き抜ける青空、爽やかな風、目に優しそうな緑! いやぁ最高だなッ!」
実際、雰囲気はフロア2に近い。
ところどころに人工物が残っているような、樹海に飲み込まれた街に近い。もっともフロア2同様に街の面影なんてのは崩れた塀や壁程度しか残ってないけど。
「降りてきた虚の階段は残っている……というコトは、このフロアは上に戻れるみたいよな」
「ここには青い扉はないんだっけ?」
「アユムがそんなコトを言っていたな。
無理はせず、常に帰還を選択肢に入れて進むとしようか」
虚の階段がある場所から少し歩いたところにある小道――その入り口に、いつものように看板を設置してある。
それを、フレッドが読み上げた。
第一層 フロア4
血飛沫と咆哮をあげし獣に追い立てられる、樹海の迷廊
「サリトスさんたち、ようやくここまで来ましたね」
「ああ。
……ようこそフロア4へ。
さぁ、己が知恵と勇気を携えて、樹海の迷廊に挑みたまえ――なんてな」
アユム「……っと、カッコつけてみたが、直接言ってやった方がよかったかな?」
ミツ「そんなコトでダンマスがいきなり話しかけるのはどうかと……」
次回は、ミーカの出番の予定です