3-1.待ちかまえる準備をしよう
本日は二話掲載。です。(1/2)
休載中に、まさかの、日間『ファンタジー(異世界転移・転生)』にてランキング入りです。
皆様ありがとうございます!!!
予定では9月から再開のつもりでしたが、せっかくなので、ちょっと前倒しで再開したいと思います。
書き溜めもまったく出来てませんので、次の更新速度は遅めかもですがよろしくお願いします。
……
…………
………………
これは、前世の――生前の記憶だ。
それを夢で見ているらしい……
目の前には、俺と同じくらいの歳と思われる女性がいる。
彼女を見ているとひどく懐かしく、とても愛おしく、それでいて不思議なくらい哀しい気分になる。
俺たちは、大きなベッドの上に二人で座っていた。
「逢由武……」
着ていたブラウスの前をはだけさせた女性が、俺の名前を呼びながらしなだれるように、肩へともたれ掛かってくる。
すでにブラは外しているらしく、双丘とその谷間、そして先端までハッキリしっかり見えている。
「こういう所に来てるんだから、もっとがっついていいんだよ?」
「いや、えーっと……」
戸惑うような照れるような、そんな俺の反応に彼女はクスクスと笑う。
「私だってこういうの初めてなのに、何で私よりも初な反応するのよ、もう」
耳元でそう囁かれると、さすがにちょっと申し訳なさも湧いてくる。
だけど、素直にそれを口に出来ず、俺は口を尖らせた。
「……どーせ、俺は童貞ですよ……」
「それを言ったら私も処女だけど……。
それも、今日まで……でしょ?」
そんな俺の態度に対して、内心を見透かしているように彼女は微笑む。
そうして、俺たちは口づけを交わし合った。
……だけど、少しだけシチュエーション違わないか? と疑問に思う程度の差違はあるものの、間違いなく俺の記憶だというのは分かる。
……とても大事で、とても甘くて、とても愛おしい記憶。
……それだけの記憶があるはずなのに……
……だというのに……
……なぜだろう……
……この女性の名前をハッキリと思い出せないのは……
……どうして……?
………………
…………
……
「マスター! マスターってばッ!!」
「ん……? ミーカ?」
薄っすらと瞼が開いていく。
頭の中に残る頭痛のような微睡みを振り払うように、俺は軽く伸びをしてから、改めてベッドサイドに立っている少女を見やった。
スイーツの美味しさと楽しさに目覚めたネザーサキュバスのミーカ。
……俺の、ダンジョンマスターの配下として召喚した(見た目)少女だ。
何やら慌てた様子で俺を呼んでいたようだけど……。
「あー……よかったぁ……。
うたた寝してるマスターへのちょっとしたイタズラのつもりだったのに、急に泣き出しちゃうから焦ったよ☆」
「……泣き……? 誰が?」
「マスターだよ☆」
言われて、俺は頬を撫でる。
確かに濡れてるな。
それはそれとして――
「夢の中にでてきた女性はお前か」
思わずそう訊ねると、ミーカはうなずきつつも、ちょっと困ったような笑みを浮かべた。
「そうだけど、それだけじゃないかな☆
マスターの記憶にあった、大切な人に変身してみたんだ☆」
「大切な……人?」
「あれ、違うの? うまく覗けなかった部分もあるけど、記憶を見てみた感じカノジョさんなのかなって思ったけど☆」
「カノジョ、カノジョか……」
そう言われるとしっくりくる。
しっくりくるのに、名前が思い出せない。
「……ミーカ。このイタズラと涙の話はミツにはナイショな」
「いーけど……。マスター?」
「杞憂ならそれでいいさ。やるべきコトはやるつもりだしな」
俺は立ち上がって、改めて大きく伸びをする。
まだ残る眠気に立ち向かうようにあくびを噛みしめてから、ミーカの頭に手を乗せた。
「そうだ、ミーカ。こういうイタズラは次から禁止な」
「えー! マスターと夢の中でもいいからイケナイコトしたいのにー☆」
「実行に移した暁には、スイーツのレシピは提供しないし、二度とスイーツは食べれなくするし、作らせなくするし、マスタリールーマも剥奪だ」
「あ、待って。待ってマスター! それだけは勘弁! ほんとッ、やめて! やめてください! 反省しますからーッ!!」
本気で涙目になるミーカの頭を撫でてから、俺は部屋を出て浴室にある洗面台へと向かう。
冷たい水で顔を洗うと、涙も眠気も洗い流せたのか、ようやくしっかり目が覚めていくのを自覚する。
ダンジョンマスターには、睡眠も食事も必要ないらしいけれど、こちとら元人間。
三大欲求そのものは残っているし、それらには一つを除いて抗えないようだ。
……ミーカのせいで、残り一つも怪しいけれど。
近いうちに、根負けしてイタズラに身を任せてしまいそうだ。
負けてしまうまでは、がんばって誘惑をはねのけていくとしよう。
顔をタオルで拭き、タオルを洗濯籠へ投げ入れる。
まぁ別に誰が洗濯するわけでもなく、この籠に入れた汚れ物は勝手にDPに変換されて消滅するので、必要な時に必要な分だけ召喚してるんだけど。
「サリトスたちが攻略を終えてから数日経った。
これまでのパターン的にそろそろ来るかな?」
鏡で自分の顔を見ながら、そう独りごちてから、俺は浴室から出た。
「おはようございます。アユム様」
「おう。おはよう、ミツ」
ミーカにでも聞いたのか、浴室の前で待っていたミツと挨拶を交わし、一緒に歩き出す。
「サリトスさんたち……そろそろ来ますかね?」
「来るだろうな。
こっちの事前準備はだいたい終わってるし、あとは来てくれるのを待つだけだ。のんびり待つコトにしようぜ」
そんなやりとりをしながら、いつものようにミツとともに管理室へと向かっていく。
今はこれが日常だ。
生前のこと。記憶の欠落。
気にならないと言えば嘘になる。
だけど――
「ミツ」
「はい?」
「ふと思ったんだが、御使いとして、まだ俺に説明してないコトってのはあるのか?」
「それは……えーっと……」
表情はあまり変わっていないが、雰囲気が露骨に困ったものになる。
どうやら、色々ありそうだ。
とはいえ、まぁ……別にそれを責めるつもりはなかった。
俺も元は日本の社会人。組織に属する柵には多少の理解があるつもりだ。
なので、隠し事や騙し事にイチイチ青臭く腹を立てるつもりもない。
「言えない理由は、御使いとしてのルールに抵触するから――とかか?」
「……はい。
あとは、まだその時ではないから……でしょうか。
申し訳ないとは思うのですが……」
「そうか。なら仕方ないな。気にしなくてもいいぞ」
今は俺の秘書のようなことをしているミツだけど、そもそもは創造主に仕える御使いという立場だ。
立場上、色々制限もあることだろう。
ミツって中間管理職っぽいしな。
――気にしすぎても、仕方がない。
「いつかその秘密を聞かせて貰えることを信じて、今日もお勤めしますかね」
「……申し訳ありません」
「気にするなって言っただろ。
さぁ、フロア4で待ちかまえる準備をしようぜ」
「はいッ!」
待ちかまえるって言っても、モニタをぼーっと眺めてるだけだけどなッ!
アユム「まだかな、まだかな~ サリトスの挑戦まだかな~」
ミツ「とりあえず、お茶でも用意してきますね」
次回は、サリトスたちの登場です。
なお、今日は二話更新。次もありますよー