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2-25.背徳と退廃の王 と 堕ちた側近たち(前編)


 謁見の間での戦闘を想定して準備でもしているのか、脱出の翌日は、サリトスたちが来ることはなかった。


 その代わり――というわけでもないけれど、バドたちが来て、謁見の間前のエントランスの攻略を開始。

 こっちもこっちで順調だったものの、手前右側――特殊タイル床のエリアに大苦戦していて、途中でアリアドネロープを使って脱出していった。


「どうにもケーンさんは、灰色の床が苦手なようですね。移動中も戦闘中も、うっかり落ちそうになってました」

「ゼーロスも移動中は警戒してるのに、戦闘が始まると床への意識が疎かになってるしなぁ……」


 逆に、戦闘中ほど床を気にするのがアサヒだ。

 移動中はうっかり足を踏み外しそうになる場面はあるのに、戦闘中は一切そういうのが無いので、彼女の場合、身体能力はおろか人生のリソースそのものがバトルに寄ってる可能性がある。


「ゼーロスさんとアサヒさんは、ダメージ床をバリバリ進んでいって、ビックバットに囲まれてましたしねぇ……」

「あれ、バドが居なかったら全滅してたよな」


 バドが強風を起こすブレスでビックバットごと、ゼーロスとアサヒを吹き飛ばし、二人をダメージ床の外へと弾き飛ばし、そこからは的確にビックバットを処理しながら、四人は逃げ延びていた。


 戦闘が一段落したところで、バドとケーンは身体強化のルーマを用いて、越えられそうな幅のダメージ床ゾーンをジャンプで越えると、ゼーロスたちと合流し上の階へと戻る――というのが、基本的な流れだったな。


「バドさんたちは、もう一日くらい掛かかるんでしょうか?」

「そうだなぁ――状況による注意力の差が広いからなぁ……そこを改善できるか、対策が立つかが必要だとは思うけど、それができるなら、すぐだとは思うぞ」


 それ以外のチームはというと、まだまだスケスケのところまで辿り着くには至っていない。

 トップの2チームに追いつくのはまだまだ難しそうだ。


(しかし、こうなると……うーむ……)


 クリアしたやつだけが下へ行ける状態だけはよろしくないかもしれないな。

 考えてみれば他のダンジョンだと、誰かが攻略した層ってのは、他のやつも先に行けることも少なくないハズだ。


 全部のフロアをそうするワケにはいかないけど、ギミックエリア等の、脳筋たちだけだとどうにもならんところは、考えておいてもいいな。


「そうするとなー……手を抜く奴がいるだろうし……」

「どうしたんですか、アユム様?」

「いや、あのさ」


 俺が考えていたことを打ち明けると、ミツはなるほどと軽くうなずいて、頭を捻り始める。


「それでしたら、先へ進めるようにしつつ、初回攻略報酬を用意すればいいのではないでしょうか」

「……そうだな。ついでに、攻略成功の早い順に良い報酬を用意しておくか。

 全員一律じゃあやる気を出さない奴も多そうだしな。五位くらいまでに追加報酬だして、それ以降は一律でいいかな」

「そうですね。具体的にどうやって報酬渡すんですか?」

「初回攻略したやつは、宝物のエクストラフロアにご案内ってところでいいだろ。クリアせず、ただ先に進むだけだと行けないやつだな」



 そうと決まれば――サリトスたちが来る気配がないので、俺は魔本を取り出して、報酬の準備を始めるのだった。




 バドたちが逃げ帰ったり、報酬設定とかやってた日の翌日――


「来たな」

「来ましたね」


 誰が――なんて、言う必要はないよな。


『さて、入るとするか』


 言葉とともに、サリトスが謁見の間の扉を開く。


 そこは、かなりの広さがある縦長の部屋だ。

 最奥は少し段差があって高くなっていて、悪趣味なセンスの玉座が鎮座している。


 座っているのは、でっぷりとしたフォルムの黒い影。

 その頭には、いかにも王冠ですといったデザインの冠を乗せている。


 すぐそばには、生真面目そうな影が控えていて、段差の下の左右には金と銀の騎士が威圧を放つ。


『いかにもって感じだね』

『さて、近づいたらどうなるコトやら』


 四人は警戒をしながら、ボロボロの絨毯の上を進み、ある程度まで進むと王が玉座から立ち上がり、影が弾けた。

 それに併せて、控えていた宰相らしき影も弾け、金銀の騎士も鎧がはぜる。



『これはまた……ずいぶんとアレな姿のモンスターたちだな……』



 でっぷりした王の影から出てきたのは、貧相な体つきに合わない派手でケバい色のボレロと悪趣味なカラーリングのカボチャパンツを身に纏った男だ。

 度を超して貧相な身体のせいで、スケルトンに見えなくもない。

 こいつの名前はそのまんま、《退廃ト背徳ノ堕王》だ。



 金の騎士の中からでてきたのは、露出度の高いビキニアーマーの女剣士。

 鍛えられながらも、柔らかそうでしなやかで妖艶な体つきをしている女性型モンスターだ。肌の色は青く、禍々しいデザインのロングソードとスモールシールドを携えている。

 ちょっとした思いつきと嗜好から、ヘソ下あたりに露骨すぎないデザインの淫紋を付けてあるので、妄想力豊かな探索者(シーカー)たちには是非色々妄想していただきたいところ。

 レディソードというモンスターをベースにしたこいつの名前は、《背徳ニ負ケタ女騎士》。



 銀の騎士の中から出てきたのは、露出の少ない錆び付いた銀のフルプレートに、血の付いた大盾を携えた男ゾンビだ。

 アンデットシールダーをベースにしたこいつの名前は、《退廃ヘノ反逆ニ狂ウ騎士》。



 宰相の影から出てきたのは、ゆったりとしたローブを纏い、目深までフードをおろしたバッドソーサラーというモンスターをベースにしたこいつの名前は、《悪徳ヲ受ケ入レタ宰相》。



 以上の四匹が、この城のクライマックスを彩り、探索者(シーカー)たちの前に立ちふさがるフロアボスだ。

 ちなみに、王様以外には無駄にバックボーンネタを詰め込んであるので、暇な探索者(シーカー)たちには図鑑を見てもらいたいところだ。


「……アユム様って……」

「なんだよ、ミツ?」

「ねぇねぇマスター? あの女騎士のバックボーンみたいに堕ちてく様を楽しみたいなら、てきとーに人間を誘拐してきて実演するよ☆」

「大変興味深いけど、気持ちだけ受け取っておくだけにする。

 ――ので、やるな。ミーカ」


 そんなこんなで、賑やかな女性たち二人を侍らせながらの、サリトスたちの戦闘見学開始だ。


 ……ふと思ったけど、今の俺って実はリア充ってやつなのかな?



 ――それはともかく。



 戦闘の初手に動いたのは、宰相だ。

 露骨にブレスの準備をし始めた宰相に向けて、フレッドが素早く矢を放って牽制する。


 フレッドの持っているのはこれまでの攻略で使っていた簡素な木弓ではなく、パッと見の作りはまるで切り出した枝をそのまま弓にしたような雑なもの。

 だけどあれは、そんな見た目通りのものじゃない。

 花園でフレッドが手に入れた、未鑑定品の弓矢――それの正体。緑の賢弓(イー=バウ)だ。


 そんなのを持ち込んでくるあたり、サリトスたちはかなりガチな気持ちで挑んでるんだろう。



 フレッドによって放たれた矢に怯み、ブレスの準備を止める宰相。


 鉄砲玉のように飛び出してくる女騎士には、背中の大剣を抜いたディアリナが立ちはだかる。


『ディアリナッ!』


 二度三度斬り結んだところで、サリトスがディアリナの名前を呼ぶ。

 瞬間――ディアリナは横薙ぎの走牙刃を繰り出してから、素早く飛び退いた。


 そこへ、コロナの声が響く。


『樹氷の種弾(しゅだん)よッ!』


 両手を前に出して呪文を口にするコロナの周囲に、ちょっとしたナイフほどの氷柱が無数に出現し、


『行ってッ!』


 合図とともに、一斉に四人の敵へ向けて解き放たれる。


 宰相は慌てて逃げ、女騎士は妖艶に舞うように躱し、重騎士は王の前に立って、その盾で無数の氷柱を受け止めた。

 しかし、着弾した場所に膝丈から腰丈ほどの逆氷柱が生えるブレスだ。

 重騎士は、その下半身を盾ごと凍結させられ、動きを止められる。


 しかも、床のあちこちにも逆氷柱が生え、足場も視界も悪くなった。


 そんな氷柱群の隙間を縫って、女騎士は駆けると、コロナへと向かっていく。


『Ahaaa!』

『コロナはやらせんッ!』


 だが、サリトスが素早く女騎士とコロナの間に入って、その振るわれた凶刃を受け止めた。


雷刃(らいじん)閃槍(せんそう)よッ!』


 サリトスに攻撃を受け止められた女騎士が間合いを一度取ろうとしたところへ、コロナの雷撃ブレスが完成する。

 コロナの人差し指から放たれた雷は、空を走り、女騎士の腹部を捕らえた。


『GYA!?』


 爆発するように雷撃が弾け、女騎士が吹き飛び床を転がる。


『貰ったッ!』


 弾けた雷の余韻である閃光と僅かな電光が残る中を、サリトスが駆け抜けて女騎士に肉薄する。


『破ァァ――ッ!』


 女騎士は素早く上半身だけ起こすと、スモールシールドを掲げてサリトスの攻撃を受け止めた。

 ――と、同時に彼女の剣が血のような赤い光を纏う。


『チィッ!』


 即座にサリトスは舌打ちし、女騎士から離れる。

 一瞬遅れて、女騎士の剣の切っ先から、赤い光がビームのように放たれる。


 サリトスが離れるのを確認すると、女騎士は即座に立ち上がった。




 サリトスとコロナが女騎士と戦ってる傍らで、ディアリナとフレッドも逆氷柱(さかさつらら)の林を駆け抜ける。


 二人の狙いは宰相だ。


 動かない王と、凍り付いた重騎士は後回しにして、2vs1の形が作れる今のうちに女騎士と宰相を倒そうというのが、サリトスたちの即席の作戦なんだろう。


 宰相が火球(かきゅう)を放つと、二人は氷柱を盾にしてそれを避ける。

 再びブレスの準備に入る宰相に向けて、フレッドが矢を放った。


『そう簡単にブレスを撃たせてちゃ、弓使いと名乗れないからなッ!』


 詠唱を止めて、それを避ける宰相だが、その避けるという動作を完全に狙っていたディアリナが地面スレスレまで姿勢を低くして踏み込んでいく。


『いくよッ!』


 大剣の腹を上に向け、相手の足下へと突き刺すように伸ばし――


放鎚昇(ほうついしょう)ッ!』


 ルーマを込めながら思い切り振り上げる。

 雰囲気からして元々は、戦鎚(ハンマー)用のアーツなんだろう。


 大剣は物の見事に宰相を捕らえ、天井近くまで打ち上げた。


『フレッドッ!』

『ここでミスったら、おっさんカッコ悪よねッ!』

『分かってるならしくじるんじゃないよッ!』


 狙いを付けながら、フレッドは手にした弓矢にルーマを込める。


『アストラル・ピアサー……おっさん、狙い撃つぜッ!』


 ルーマで光り輝く矢を、フレッドは狙いを定めて撃ち放つ。

 光の帯をたなびかせ、普段の倍以上の速度で空中を駆ける矢が、狙い違わずに宰相を貫いた。


 それが致命傷だったからか、宰相がゆっくりと黒いモヤへと変わりながら、落ちてくる。


 しかし、宰相が地面に落ちるより先に、ディアリナとフレッドの頭上に大量の金貨の塊が出現した。


『嬢ちゃんッ!』

『わかってるッ!』


 それが、宰相を倒したことで発生したドロップではないと判断した二人は、慌ててその場から離脱しようとする。


 直後――


『金貨ノ雷雨』


 生理的嫌悪を引き起こすような粘着質じみた声が玉座から響き、僅かに帯電しているのか一つ一つがパリパリと小さく音を立てている金貨が、二人へ向けて降り注いだ。




ミツ「…………」←いつも通りガチバトルに見入ってる


アユム「ガチバトル好きなんだな、ミツ。バトルマニアなのかバトル観戦マニアなのか」

↑ミツが抱えてるポップコーンを右からこっそり拝借してる


ミーカ「こういう見応えあるバトルに見入るのわかるぅー☆ 熱さと激しさと冷静さが入り交じる戦いなんて滅多にないもん☆」

↑ミツが抱えてるポップコーンを左からこっそり拝借してる


次回は後編の予定です。

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