1-1.それではダンマス業を始めよう
「とにもかくにも、だ。
様々な手段を講じてみたものの、この世界の住民たちは、ダンジョン攻略を中心とした脳筋方面にしか進化しないので、意識改革をできるようなダンジョンを作って欲しいってオーダーでいいか?」
俺がミツに確認すると、彼女はうなずいた。
「贅沢を言えば、ダンジョン依存症の解消もです」
「それは本気で贅沢だな。とりあえずは、脳筋じゃクリア不可能なダンジョンを作ってみる」
「よろしくお願いします。可能な限りのサポートはいたしますので」
そうと決まれば、まずは――
「早速なんだが、実は作りたいダンジョンの構築法についてなんだけど」
いくつか確認をしたあと、俺はダンジョンメイクを実行することにした。
脳筋を矯正すると言っても、まずは俺の作るダンジョンに来て貰わなければ意味がない。
だが、ダンジョンに潜ることを生業にしている探索者たちはハズレダンジョンに対する嗅覚が発達してる。
つまり、ハズレダンジョンだと思われてしまったら見向きもされない可能性があるわけだ。
理想としては、最初からそれなりの旨味があり、奥に行くほど旨味が増すものの、脳筋ではクリアしづらくなっていく――ぐらいが理想だ。あくまで理想だけど。
「さて」
魔本を操作して、最奥のダンマス用ボス部屋とは別に、管理室を作る。
この管理室は、原則的に俺とミツ……そして、俺とミツの両方から許可を得たものしか入れない隠し部屋と設定した。
「あ、日本人としての生活レベルは可能な限り維持したいな」
――そんなワケで、管理室から廊下を伸ばし、俺の部屋とミツの部屋。ダイニングキッチン、お風呂、娯楽室なんかも作っておく。
「そういや、俺ってダンジョンの外に出れる?」
「申し訳ないのですが、アユム様が活動可能なのは、アユム様のダンジョンと括られた範囲のみになります」
「なるほど。じゃあ、いくつか裏技使えば出歩けそうだ」
チュートリアル中に思いついたことがある。
思いついたというか――この手のお話のお約束的な裏技とも言うやつだけど、まぁ今はまだできそうにないので保留保留。
「裏技……?」
「それは必要になったときにでも、な」
出歩くのが難しそうだから、運動室みたいのも作っておくか。
「ダンジョン産の野菜や肉を呼び出せば食料は問題なさそうだな。あとは――」
「あのー……アユム様。メインとなるダンジョン部分は……?」
「まずは俺の生活環境だ。モチベを維持できる環境を作りたい」
挑戦者が増えてくるならそれが娯楽になるだろうけど、最初は絶対にヒマだろうしね。
「俺をこの世界に連れてきた創造主さんは、俺に多めの初期DPをくれたみたいだからね。余裕はあるんだ」
「今のDPはどれくらい……?」
俺が答えると、彼女は目を見開いた。
「それなりに無駄遣いしても余裕がある額ですね」
「それなりに無駄遣いしても余裕がある額だったか」
多いとは思ってたんだ。
生成可能一覧にあるモノの消費DPからすると、多すぎない?とは感じていたから。
そんなワケで、基本的にDPは気にせずに使いまくって問題なさそうだ。
――というか、やっぱ創造主は甘いんじゃないかなぁ……。優しいというか甘いんだよなぁ……。
まぁありがたく使わせてもらうけど。
「生活環境を整えた上で、ダンジョンの制作も問題ないのでしたら、大丈夫です。差し出口をすみません」
「いいって。それを説明してなかったのにこんなモン作ってたら、ミツが不安に思うのも仕方ない」
チュートリアルが終わった時に、ご武運をとDPが付与されたんだけど、続けてメッセージが飛んできた。
それには、異世界事情への理解と協力を感謝すると書かれていて、読み終わると大量のDPが付与された。
メッセージの送り主は間違いなく、創造主からなのだろう。
余談だけど、いわゆる物語の最初に遭遇する系モンスターのコストが3DP。
一匹で3DPなわけだけど、フロア内での永続ポップ化は、そのモンスターの単体コストの百倍のDP。
今の俺のレベルで召喚できる最上位が、中堅クラスのモンスターであるワイバーン。コイツの単体コストが300DP。
この流れでいくと、上級モンスターの単体コストは3000DPくらいだろう。コイツの永続ポップ化に30万DPといったところだ。
そんな計算ができたところで、俺の所持DPなんだけど……1兆である。正しくは1兆DPをボーナスとして創造主からもらった。
そこに初期値らしい10000DPをもらっているので、まぁ……1兆とんで10000DPだ。
計算したり節約したりするのがばからしくなる額なので、1000億下回るまでは、あわてなくてもいいかな……と思ってたりもする。
……なんてことを考えつつも作業は進む。
「よし、生活空間の構築は完了だ。
続いてメインとなるダンジョンだぞ。ミツ、協力頼む」
「おまかせください」
相変わらず表情はあまり変化はないのだけれど、声は弾んでいる。頼られるのが嬉しいのかもしれない。
この子、犬属性なんじゃなかろうか。
クールな澄まし顔で、ぶんぶん尻尾振ってるのが幻視える……。
それはそれとして、ダンジョンだ。
地上部分は入り口のみ。
地下一階から、ダンジョンはスタートし、地下五階にフロアボスの部屋を作る。倒さないと先に進めない仕組みだけど、地下六階より下は保留。
まずはこの構成で様子を見る。
一階と二階は、ローグライクな感じで、形が常に変化するフロア。
もっとも、不特定多数の人が常に出入りするようなリアルダンジョンだとゲーム同様に入ると形が変わるという設定は難しかったので、日付とともに形が変わるように設定した。
「あの、アユム様。ローグライクってなんですか?」
「ん? ちょっとおデブな武器商人や、三度笠が似合う風来坊が、何度も何度も潜るダンジョンだ。それをモデルにした」
「アユム様の世界にダンジョンは無かったのでは……?」
「物語の中の話だよ」
答えてやると、ミツはポンと手を叩く。
ちょくちょく地球の言葉に置き換えて説明をしてくれるミツだけど、すべての情報が地球知識とヒモ付いてはいないようだ。
この様子だと、基本知識はともかく娯楽知識は偏ったり薄かったりしそうではあるけれど。
「そのローグライクダンジョンというのは、地下の1、2階だけなんですか?」
「いや、ほかのフロアにも設定するけど、基本的にメインギミックではないな」
「では、アユム様はどのようなダンジョンを目指しているのですか?」
その問いに俺はニヤリと笑う。
きっと、この世界では初となるダンジョンだろう。
俺が目指すのは、俺自身は結構好きなタイプのダンジョンだ。
RPGに出てくると、楽しみながら解いていき、その出来が良いとすごい嬉しくなる。
ただ、今の時代――あまり凝った仕掛けを作りすぎると、面倒くさがるプレイヤーが多いので、昔ほどガッツリ作り込んだタイプのダンジョンは作れないと聞いたこともある。
そのクセ、リアル脱出ゲームみたいなのがはやっているのだから不思議な気はしているけれど……。
何はともあれ、俺が作るダンジョン。
それは――
「謎解きや仕掛けの多いダンジョンだ」
☆
――そんな感じでドヤ顔決めたのが一週間前。
いや、思い返すと、何であんなドヤってたのか……と思わなくはないんだけど。
とにもかくにも、パパっとやるつもりが、ちゃんと解けるかどうかの試算とか、最初はあんま難しすぎるのもなぁ――と、あれこれ悩んでるうちに結構時間がかかってしまったわけで。
それでも、どうにかこうにかオープンまでこぎ着けました。
まだ細かいところが決まってない、地下六階以降にも、いろいろ大規模な仕掛けも作ったんだけど、お披露目できるかは探索者たちのがんばり次第。
「そんなワケで、《変遷螺旋領域 機巧迷宮ラヴュリントス》、はじまるよー!」
「そんな名前だったんですね。というか長いです。あと……」
「おっとッ、それ以上は言わせねぇ! あと厨二病とも言わせねぇ!」
「自分で言うのはいいんですか?」
何やら胡乱気な眼差しを向けてくるミツから視線を逸らして、魔本へと目を向ける。
内部の準備は在る程度、終わった。あとは出現させるだけ。
どこに出現させるかも、すでにミツと話あって決めている。
バーレイホップ大陸ペルエール王国領マナルタ地方丘陵地帯。
それがこのダンジョンの入り口となる土地だ。
王都から近く、それでいて周辺に何もなく、ここを通る街道なども特にない――本当に何もない場所だ。
ゲームなどでこんな土地を見たらあまりの何もなさに、むしろ終盤にこの土地で何か起きるんじゃないか――っていうのを疑うレベルの何もなさ。
「それじゃあ、設置を実行するぞ」
「はい!」
俺は、魔本に表示された『実行』ボタンをタップする。
瞬間――
《ダンジョン:変遷螺旋領域 機巧迷宮ラヴュリントス オープン致します》
魔本から、そうアナウンスがされて…………………
されて…………………………
されて……………
「これだけ?」
「はい。どうかしましたか?」
「いや、なんか派手な震動とか、爆音とかあるのかなーって……」
「主には、そのうち実装するように進言しておきます」
「いや、別に必須ってわけでもないんだけどさ……」
盛り上がらないと言うか、拍子抜けであるー……
☆
ダンジョンオープンから数日。
ついに、最初のお客さんがやってきた。
どうやらペルエール王国の調査兵たちのようだ。
俺とミツは管理室から、その様子を伺う。
はてさて、どんなリアクションをしてくれるのやら……
このダンジョンの見た目は洞窟だ。
入ってすぐに、広めのエントランスがある。エントランスの奥には三つの扉があって、
一つがダンジョンの入り口である魔法陣の部屋。
一つは、魔法陣を起動させるアイテムが手に入る仕掛けのある部屋。
一つは、扉が堅く閉ざされている意味ありげな部屋だけど、実際は出口専用扉だ。
魔法陣の部屋と、宝部屋には、それを利用するためのヒントとなる詩文を壁に彫っておいた。
RPGではお馴染みの謎の文章系謎解きだ。
――とはいえ、これはそこまで難しくはしなかった。
RPGに馴れてればヌルゲーもいいところな謎掛けだけど、はてさてこの世界の兵士さんたちに解けるかな?
まぁゲーム馴れしてなくても、壁の詩文が何を意図してるかを読み解こうとするのが普通の反応だとは思うんだけど……
調査兵のみなさんは、魔法陣相手にいろいろやってるけれど、結局は何も起こらず首を傾げてる。
一応、壁の詩文には目を通したっぽいんだけど……あれ? 理解できてない……?
彼らは諦めたみたいで、一度魔法陣の部屋から出て、宝部屋に移動した。
この部屋は、中央に空の箱があるだけの部屋だ。
だけど、あるギミックを利用すると、箱の中にミツカ・カインの腕輪というアイテムが手にはいるようになっている。
鑑定スキルでこの腕輪を見ると、魔法陣を起動するのに必要な装備だって分かるようにしてある。ついでに、ちょっとしたフレーバーテキストを付与してあるので、鑑定を使うと世界の神秘に触れられる仕様だ。
ダンジョンで生成されたものには、ダンジョンマスターが鑑定結果のテキストメッセージを作ることができるとかで、ちょっとこだわらせてもらった。
旅と冒険を司る女神ミツカ・カイン。
そんな神は、この世界にいないので、俺がでっち上げただけなんだけれども。
そんなでっちあげた女神に関する情報をちょろっと書き込んである。
「女神の名前……モデルは私ですか?」
「時が来たら、ミツカ・カインとして人前に出て貰うから、よろしく」
告げると、ミツにしては珍しく顔をひきつらせた。
おもしろい顔が見れたので、良い仕事ができた気分だ。
「しかし、あいつら――箱が空なのを確認してから、興味失せたみたいに放置してるな……」
「あれだけ分かりやすいメッセージも添えてあるのですけど……ダメなのですかねぇ……」
とりあえず、二人で首を傾げてても仕方がない。
何とか、あの場の音声とか拾えないかな――と、魔本を開く。
「あ、できそうだな」
そうして作り出したマイクを、王国兵たちに気付かれぬように設置した。
俺がマイクを設置した頃には、王国兵たちは宝部屋から外にでていて、今度は出口専用扉に攻撃を仕掛け始めた。
オノで、剣で、魔法で。
あらゆる攻撃をたたき込み、それでも開かないと見るや、全員が露骨に落胆した。
「無茶苦茶やるな、あいつら。
あれで扉が開いて、中から即死トラップが飛び出してきたらどうするんだ?」
「それで迷神の沼に沈むなら栄誉――そういう反応だと思います」
「迷神の沼?」
「この世界における死後の世界のコトです。
実在はしませんが、人間たちは生き物が死んだ時、命はその沼の底に沈むのだとされているのです」
「ふーん……」
つまり、トラップの最初の犠牲者となることで、後続が生きながらえるのなら問題ない――という考え方なのだろう。
正直、その考え――否定はしないけど、どうかと思う……
なんてことを考えていると、扉に攻撃を仕掛けるのを諦めたようで、兵士たちは集まって相談をし始めた。
『何もないな、このダンジョン』
『あの魔法陣も動く気配が無いですしね』
『この箱も空で、もう一つの扉は何をしても開かないですからね』
『この扉はどうやってもビクともしない……一度、引き上げましょうか?』
『そうだな。鑑定士が来て、鑑定を終えたら、帰還するとしよう』
『隊長、壁に彫られていた言葉はどう判断いたしますか?』
『意味などないのではないか?
詩を嗜むダンジョンマスターというだけだろう』
『なるほど』
なるほどじゃねーよッ!!
何で部下たちも流石隊長みたいな顔してるんだよ!!
「……とりあえず、ダンジョン鑑定士とやらの鑑定結果には不明と出るように設定しておくか……」
俺は深々と嘆息する。
これは確かに手強いな……。
「今から疲れていては、今後持ちませんよアユム様」
「……どういう意味だ?」
「恐らくですが……この人間たちはまだマシな部類――という話です」
ミツの言葉にショックを受けた俺は、やるせないため息をついて、席から立った。
「どちらへ?」
「ショックが大きいので不貞寝してくる」
「…………ごゆっくりどうぞ」
丁寧に見送ってくれるミツに後ろ手を振りながら、俺は部屋をあとにするのだった。
くそー……せっかくアレコレ作ったのに、落書きとか空箱とかそのまんまな扱いとか泣けてくる……
……拝啓、お母様。
俺はこの世界で、ちゃんとダンジョンマスターができるのか不安です。
アユム「気づいてすらくれないなんて仕掛け甲斐がなさ過ぎる……」
次回、不貞寝から目を覚ましたアユムは、三人のはぐれモノ探索者に出会います
ミツ「出会うというか一方的な視姦では?」
アユム「言い方」